サビ取り等も特別料金化します

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時計の中の状態は、裏ブタを開けてみなければ分かりません。

ご覧のように、分解すれば中は赤錆びや緑青だらけになったパーツが出て来ることは、決して珍しいことではなく、とくに古いアンティーク時計ほどそれは顕著です。

ところが、我々人間にはどういうわけか『見ぬものきよし』で、時計等も外側がキレイであれば、きっと中身もキレイに違いない、と何の根拠のないまま勝手にイメージをふくらませて、自分の理想の偶像をつくりあげてしまう習癖があります。(『フタをあけてみたら、、』とは、まさにこのことです。)

動いているから、「きっと」大丈夫。

ピカピカだから、「きっと」大丈夫。

○○だから、きっと大丈夫。その、「きっと」が曲者です。実際には裏ブタを開けてみない事には、外見や動作だけでは判断できないもの。それがサビです。

特に近年はオークションなどで、古い時計が再び日の目を浴びて世間に再流通する機会も増えています。ところが、なかには時計の外装など外側だけを磨いたり、ベルト交換して見栄えを整え、中身の機械はそのままで手入れされていない時計を、上手な写真撮影スキルと売り文句で高く売り逃れるような悪徳業者や個人も増えています。(ウェブページだけは大手専門店並みに立派だけど、よく考えたら名前を聞いた事のないような店は特に注意)そういう時計は私のような修理の専門家が中をみれば一発で分かります。

それはさておき。

そういう時計は、普通にオーバーホールして満足に動くかというと、動きません。オーバーホール直後は動いていても、半年も経たないうちに時刻が狂い出したり、頻繁に止まってしまったり、不具合のオンパレード製造機と化します。原因はホゾの摩耗であったり、サビであったりします。ただ洗浄して組んで注油するだけではダメなのです。。

そこで、上の写真のようにサビなどはキレイに落として、適切な処理が必要になるわけです。パーツなら再加工したり研磨し直したりなどの修正をします。

この作業、実はたいへんな労力と手間がかかります。

ただ力任せに削ればいいというものでもなく。削れた部分がケースであれば、防水性を気にしなければいけませんし、歯車などのパーツであれば削ってしまってサイズが小さくなったがために、かえって動きに支障が出たりします。かといって放置すればサビが進行してどちらにしろ動作に問題が出ます。錆びたパーツを見た日が年貢の収め時ではないですが、退くも地獄なら進むも地獄、時計師にとってはどうにも頭を抱える瞬間です。

パーツ交換できれば話は簡単なんです。

おおむね1990年代以降の機械式時計ブームに乗って広まった多くのブランド時計などは、ETA 社のムーブメンドが搭載されています。こういうものは、交換パーツが比較的容易に入手できますから、あとはご依頼主が交換パーツ代にOKさえ出してくれれば、ポンと換えておしまい。楽チンです。

問題なのは古い時計です。

60年代〜70年代頃を中心に、いわゆるクォーツショック以前の機械式時計黄金期に作られたものが、この「古い時計」に該当します。この時期かそれより以前に作られたものは、年代が古くなれば古いほど、交換用パーツは得にくくなります。ほとんど市場には残っておらず、枯渇しております。たまに未開封のパッケージ入り交換パーツがオークションに出回ると、ETAの同等品の10倍以上の価格だったりします。(それでもモノによってはあっという間に売り切れます)

パーツが手に入らなければ、残された道は2つしかありません。修正してなんとか再利用するか、パーツそのものを作り直す(別作)かです。いずれの方法も難しい場合は、残念ながら修理不可となりご返却させていただくことになります。

(↑ここが時計師の腕の見せ所です。パーツ換えるだけなら見習い君でもできます。しかし、パーツの補修でオリジナルと同等のクオリティや役目を果たすには技術が要ります。これは一般にはあまり知られていません。店選びを間違う人は、このことに気づいていません。)

これまでは、パーツを修正して再利用する場合はオーバーホール料金に含まれる作業として取り扱ってきました。そのため、交換パーツが枯渇して手に入りにくいアンティーク品ほど、高い技術と労力を提供しているにもかかわらず、実質的にオーバーホール料のみで修理代が済むという状況でした。

しかし、思ったより60年代〜70年代の古いアンティーク時計の修理需要は大きく、現行品をパーツ交換するよりもユーザにとって実にお得ですから、当工房には次々と古い時計の修理依頼が舞い込みました。中には安易にオークションで入手したものを、まるで交換パーツに事欠かない現行品と同じように簡単に直ると信じて疑わないような、「おじちゃんなら直せるよね??」的な純真無垢な子供の目で見られている錯覚に囚われるご依頼も少なくなく、、、。

いいえ。無理なものは無理です。(泣)

数がもっと少なければ、営業努力でカバーできなくもないのですが。こうも古い時計のご依頼が多いとなると考え直さざる得ません。パーツ交換で済む現行品のオーバーホールと比較すると、たいへんな労力と時間がかかる割に儲かりません。それではうちはつぶれます。今は大変に厳しい時代です。好むと好まざるに関わらず、利益をあげられなければ即退場です。職人の気概や意気込みだけで生き残れるほど甘くありません。諸事情を勘案しまして、決断します。ご利用のユーザ様方にも知っていただきたく。分かりやすく、古いものやサビてるものは大変なんですよと。

現行品なら、オーバーホール代金+『パーツ交換費』

アンティーク時計は、オーバーホール代金+『パーツ修正料金』(新設)

追加コストの名目を特別料金化することで、それまでアンティーク時計のオーバーホール作業コストにのしかかっていた過大な分を切り離し、現行品時計を修理する場合と比べて著しく不平等だった実態を解決させていただくことといたします。

アトリエ・ドゥでは、ご利用されるユーザ様に喜んでいただける仕事がしたいと常に願っております。価格が安ければ、それも当然うれしい事のひとつでしょう。ケースをピカピカに磨いて見た目がキレイになれば、それで喜んでもらえます。しかし、その裏で犠牲になっている作業があったとすればどうでしょうか。サビ取りなどは手抜きしようと思えばいくらでもできてしまいます。組み上がってしまえば外から見えません。ですから、やってもやらなくても手に入るお金が同じなら、やらなくなるのが人の性というものです。しかしそれでは時計はダメなのです。サビは落とさなければなりません。見えないから、分からないから、やらなくて良いのか。そういう前時代的な発想がはびこれば、時計修理という職業に対する信用は失墜すると考えます。(しかし、実態はそういう残念な修理をする人も決して少なくありません)その時だけ逃げても必ずツケは回ってきます。ならば、正直にありのままの実際の事情をオープンにして、コストが必要な理由を明確にしたいと思います。その上で、ご利用されるか否かは、まさにこれを読まれるユーザ自身のご判断にお任せをする次第です。

先日のライトポリッシュの有料化に引き続き、またまた料金値上げのお知らせとなってしまい、心苦しい限りです。しかし、サービスの根幹に関わる非常に重要なことですので、思い切った措置に踏み切ります。ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

 

創業開始から現在に至るまでに気づいたことや、たまっていたモヤモヤしたものがなくなってスッキリしました。

これで当面はしばらく値上げはしないつもりですので、何とぞご了承くださいませ。

アトリエ・ドゥ