今日のつぶやき

ある修理のひとコマより

RADO | AS.1758 の香箱受け (barrel bridge)

これは香箱を受けるためのパーツです。修理の途中で、赤いルビーの穴石の一部がご覧のように破損してしまいました。

私が壊したわけではありません。おそらくすでにヒビが入っていたのでしょう。持ち主が時計を何かにぶつけた拍子で入ったのかもしれませんし、はたまた過去に手入れした際の時計師が何か失敗して、きちんと直さず接着剤か何かでやっつけ仕事したり。(信じられない話に聞こえますでしょうか?時計修理の現場ではそういうトンデモな駄目修理されちゃった時計は日常茶飯事で回ってきます)これは洗浄のとき、刷毛でやさしく触ったら、それだけでポロッと取れて写真のようになりました。ご存知とは思いますが、人造とはいえ合成ルビーはそんな事で欠けたり割れたりするようなヤワな物性のものではございません。

穴石の人造ルビーは特殊なサイズですから、汎用品では対処できません。今回はたまたま同じラドのムーブメントをパーツ取り用に持っていたため、ここからパーツを抜き取ります。ムーブメントの型番は同じですが、製造時期の違いなどにより細かくディビジョンが異なることがあり、ルビーではなく金属製ブッシュが入っておりました。今回はこれを使うことにしました。

見積もり時に見抜けませんでしたから、新たにパーツ費用は生じません。アトリエ・ドゥでは基本的に見積もり時の金額が、作業完了後に変更となることはないように努めております。

この営業スタイルがいかに赤字の危険と隣り合わせかおわかりでしょうか。同じパーツがたまたまあればいいですが、無ければ全く同じムーブメントを必死に探して入手するしかありません。50年も昔の時計の穴石だけ都合よく売られておりません。時計材料屋に相談しても態よく断られます。オークション上にもまずありません。

直してあたりまえ。直せなければダメな店だと罵られる。割に合わない商売です。

10万円〜からの特別コースを新設したのは、実はこういう事例に対処する意味合いも大きいです。これと同じことが起きる匂いのプンプンする人気ヴィンテージモデルで、かつ不動品のジャンクに近いようなものは、これから全部その新しいコースでしか受付しないことにします。つい最近もIWCのcal.89でオークションで買ったとかで、リュウズもついていないような不動品を直せるか?とご相談が。見積もりすれば「やめます」というのが目に見えていたので、「最低でも10万しますけど」と時計送らせる前に伝えたら、案の定それから音信不通に。(爆笑)

IWCのcal.89みたいな往年の人気モデルだったら、ムーブメントだけのジャンク品ですら5万円以下では手に入りません。ウソだと思ったらebayあたりで「IWC cal.89 parts」とでもキーワード打って検索してみてください。まして動作するものは最低でも10万円からですし、状態の良いものは20万以上と差が広いです。ケチってヤフオクあたりの某店で7、8万で買えるヤツだと、だいたい中身に問題ありますから、パーツ取り用にも使えないようなボロボロのものかも知れません。そういうものをパソコンの出品画面の情報から見分けるためには、すごくノウハウが必要です。素人が真似して絶対うまくいきません。まがい物つかまされるのがオチです。パーツ取り用のつもりでなんかジャンク品買っても、それはただ使えないゴミが増えるだけです。まさに安物買いの銭失い。難しい世界なんです。

それが、リュウズも巻芯もついていないような不動のジャンク品をオークションなんかで入手してきて、ブログの他の機械みたいに3、4万で直ると思っているんだとしたら、お笑いでしょう?

これまでは、現物を見るまでもなく、お問い合わせの状況から明らかにパーツ取り用の同じムーブメントがもうひとつないと修理できないような時計は、かなり受け入れを慎重にせざる得ませんでした。

でも、せっかく当工房の技術を見込んでお問い合わせいただいて、お断りしなければいけないのは非常に辛い。ひとつは技術的にそもそも私には無理な場合で、これは仕方がありません。もうひとつは技術的には可能でも、費用の面で今度はお客さんのほうがうんと言わない。見積もりする前に、だいたいいくら位するものなのか、お客さんには分かりっこないですが、あまりに単純にオーバーホール代金だけで何でも直ると考える傾向にある人が多すぎると感じています。

そして、見積もりだけなら無料だから、という軽い感覚で時計を送ってくる人も多い。見積もり金額みてビックリでキャンセル。→ブロクには見積もり安くてOKもらえたやつばかり掲載される→それを見て「ああ、この程度で直るんだ」と多くの時計ファンが勘違いする→見積もり無料ならやってみるか、となり、、、(悪循環)

もうお問い合わせの段階で、そういうパターンの人もある程度わかるようになってきました。そのため、そういう方のご依頼には「あなたの時計なら10万コースですよ」と言って、事実上キャンセル料とる形でしか受付しないことにします。

しばらく様子をみまして、他のコースも見積もり無料を見直したほうが良いと判断した場合は、今後また少し営業方針を変えるかもしれませんが、とりあえずはヴィンテージ品など一部の特殊な時計について、従来のスタイルでは無理があったものからやり方を変えていきます。