オメガ・スピードマスター cal.1152

Omega|Speedmaster ref.3511.80

東京都Y.Y.様ご依頼品

オメガ・スピードマスターのオーバーホールご依頼です。ベルトは社外品でご依頼主ご自身にてご用意されたものです。外装研磨サービスのご希望もあったようなのですが、ちょうど一つ前のブログの事例のように、プッシャーひとつ交換で万札が次々に飛んでいくお話をしたところ、お考えが変わったようです。今回は20年以上も整備されていないお品ということもあり、中身だけでも運が悪いともう一個時計が買える位のパーツ交換費用がかかることもありますから。脅しでもなんでもないです。時計のパーツはめちゃくちゃ高いんです。


オメガ・スピードマスター ref.3511.80

分解前の歩度測定から。振りも落ちており、歩度も軒並みマイナス20〜40秒ほどと、すっかり落ちぶれた性能です。おまけに時計本体から磁気が検出されました。あまり磁気の話はここでしておりませんが、時計の部品は主要なものが鋼鉄でできておりますので、強い磁気にさらすと磁化されてしまいます。当工房では強力な交番磁界発生器に時計をくぐらせて一瞬で消磁できるので、こちらの作業には支障はありません。(そのためネタにもなりにくい)むしろ、完成ご返却後にご依頼主側のご使用環境が同じままですと、また磁気おびして歩度が狂いますので、強い磁気が検出された場合は個別にご依頼主に教えるという方法で地道に布教活動をしております。

いつだったか、当工房のサービスにご満足いかなかったのか、別のお店に同じ時計を持って行ったところ「磁気おびが原因だ」と言われたらしく、私の使っている道具が磁気おびしているのではないか?それで時計の部品が磁化されて歩度を狂わせていると、独自の理論を展開して食ってかかってきた方がおりました。なるほど、実に想像力たくましいですね。ご自身の環境には100%問題はなくて、私が悪いわけです。もしその仮定が正しく本当に私の使う道具が磁気おびしているとしたら、、、ネジ外しただけでドライバーだの何だのすぐくっつきますから、アホでもわかるんですが。(苦笑)少し考えれば小学生でもわかりそうなことですが、いったいどういう神経の持ち主なのか。濡れ衣を通り越してもう笑うしかない話で、当然ながら以後その方のご利用はご遠慮させていただいておりますことは、申し上げるまでもないことです。

余談ついでに。磁気おびしている時計を歩度測定器にかけますと、ある特徴的な波形になるため、そこでもすぐ気がつきます。さらに付け加えますと、ウチではご依頼主から届いた時計を取り出して、まっさきにやることがあります。時計をコンパスの上にかざして前後させます。磁気おびしているとコンパスの針が大きく振れますので、そういうものはその場で即座に消磁しております。そのくらい、磁気に対する注意は時計師にとっては当たり前すぎるほど基本的で、間違いようのないものなのです。知らずに変なことを言うと、大恥をかくことになります。

 

裏蓋をあけて内部を分解していきます。

 

裏蓋に『97.8.5』の整備記録あり。96年に新品でご購入されて、一度もオーバーホールに出していないとのことでしたが、何か不具合でもあったのかどこかで整備したご様子。何本か時計を持っていると、どれをいつ整備したか記憶が曖昧になることもあります。

 

乾燥剤の入った保管箱に入れながら、時々使っていたとのこと。それが原因なのかどうかまで断定はできませんが、明らかにパーツの表面が普通ではありません。単に整備せず、20年放置しただけではこういう事にはならないです。内部に水が入ったまま放置したとか、ドライヤーで加熱したとか、この手の普通ありえない系の状態になるまでには、なにか変なことをやっていることが多いです。ご自身では時計に良かれと思ってやったことが、実は時計には良くなかったということは、ままあります。

 

パーツ全体にまんべんなく、一見すると蒸着した油汚れのようなものがこびりついています。

 

ネジの一部が痛んで、そこから赤サビが生じております。過去たった1回でも整備のやりかたに問題があると、このように痛んだ部分からサビが出て、さらに時計にダメージを与えることになります。

 

地板まで分解したところ。クロノグラフ機構群のパーツ表面の蒸着したような痕の主因はこれでしょうか。受け全体に古い油が流れ出しまくっていますね。表面が古い油で光り輝いております。いやあ。前回手入れした業者は、いったい何をやらかしてくれたのか。ネジ頭の痛み+油ドボドボの仕業は、付き合ってはいけない修理業者のお約束です。それとも、、。リュウズの隙間からKURE556のノズルをぶち込んで噴射でもしたか。絶対ダメです。そんなことをするとこうなります。必要な部分には全く油が残っていないにもかかわらず、余計な所に油の海ができて、それがパーツや時計をかえって痛めます。

 

全てのパーツを分解して洗浄したところ。蒸着した油汚れは一部とれたものの、半ば表面を変質させてしまっており、完全には元に戻せませんでした。全部交換したらいくらでしょうねぇ?ムーブメントまるごと新品交換したほうがたぶん安くなるでしょう。

 

三番車のホゾがご覧の通りワダチが出来てしまっています。動作に影響しそうな目立った劣化は幸いこのパーツのみ。あとのパーツは見た目の悪さに反して奇跡的に可動部分などは保たれていたため、再利用してそのまま組み立てることにしました。これだけ交換しても良かったんですが、まだ何とか継続利用できそうなため今回は見送り。気になる場合は今後また5年以内にオーバーホールするときにお申し出ください。

 

バランスの耐震装置は完全に乾いて油が残っておらず。洗浄後、新しい油を満たしたところ。ひげぜんまいなどの調整もかなり狂っていたため、正常に再調整してあります。毎回愚痴で申し訳ないですが、本当にダメな業者はやることなすこと最低の仕事をやらかしてくれます。ひげ修正するだけでも大変でした。

 

ムーブメントを組み立てていきます。おかしな油汚れはベンジンですっかりキレイに落としてあります。あんなにドボドボ流れ出る量の油は絶対量としておかしすぎます。新しく差し直す油の量は、全ての作業分を足したとしても、あのドボドボの海の1/50以下、、いや1/100も使わない位です。正確に計測したわけではないんですが。感覚的に。(いかにあの様子が異常であることかお分りいただけるでしょうか)

 

ベースムーブメントの完成したようす。

 

ベースムーブメントの測定。数値的には全く問題がなく、本当に不幸中の幸いでした。

 

続いてクロノグラフ機構の組み立て。表面が変質してしまっており見た目はアレですが、機能は問題なく動作することを確認しました。

 

文字盤と針つけ。ムーブメントのパーツの劣化ぶりに比較すれば、こちらも奇跡的といってよいほど状態はよいほうです。良く見るとわずかに針やインデックスに蒸着したような汚れがありますが、これは内部パーツ同様に落ちません。無理に落とそうとすればキズだらけになってかえって目立ってしまうので、そのままとします。夜光にも劣化がみられます。たぶんもう何年か使うとボロボロ崩れてくると思います。別のご依頼主のスピマスで針一式交換の記事ありましたが、3万円だったか5万円だったか。スピマスの純正部品はべらぼうです。5年おきにきちんとオーバーホールしていれば、こういうことにはならないです。もちろんウチのような正しい技術をもった業者にご依頼いただくのが大前提です。おかしな業者に出すと何もかもパーにされます。

 

ケーシングまできました。今回は疲れました。

 

最終特性 クロノグラフON

左上)文字盤上 振り角 300° ビートエラー0.0ms +000 sec/day

右上)文字盤下 振り角 307° ビートエラー0.1ms +002 sec/day

左下1) 3時下 振り角 282° ビートエラー0.0ms +004 sec/day

左下2)12時下 振り角 277° ビートエラー0.3ms +004 sec/day

右下3) 3時上 振り角 275° ビートエラー0.2ms +006 sec/day

右下4)12時上 振り角 275° ビートエラー0.0ms +004 sec/day

ムーブメントの cal.1152 は、ETA7750と完全互換品です。まあオメガが傘下であるETAに作らせているのですから当たり前なんですが。一部の重要パーツは選別グレードでも使っているのか、ちゃんと修正すれば目を疑うほど高性能を叩き出すことがあります。今回は本当に運が良く、とても20年も整備しなかった時計とは思えないほどの回復ぶりです。ほとんどお使いにならなかったのかも知れませんが、それにしてもこれだけの性能であることを考えると、前回たった1回のいただけない整備でパーツが痛めつけられ、本来の性能も発揮できていなかったことが悔やまれます。

 

大切にしてあげてください。本当に大切にお使いになるのなら、5年に1回忘れずにオーバーホールに出してあげてください。それから乾燥剤は化学物質のかたまりですから、長期保管など一緒にしてお使いになる場合は乾燥剤の説明書などもよくお読みになった上で、適切なご使用方法としてください。どうも、今回全体的にあまり見かけない劣化の仕方をしておりますので老婆心ながら。(あまり強力な乾燥剤などは時計の保管にはどうかと思います、、)

 

【Omega Speedmaster 3511.80】
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□オーバーホール料金  クロノグラフ ¥ 30,000
□その他
 ・外装研磨サービス 洗浄のみ           ¥ 無料
 ・特別費用 サビ取り&パーツ補修 ¥ 10,000
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合計金額                 ¥ 40,000

 

 

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