ジラールペルゴ・ヴィンテージ1945 ref.25835

Girard Perregaux|Vintage1945 ref.25835

千葉県T.T.様ご依頼品

ジラールペルゴのオーバーホールご依頼です。2本の時計を同時にお申し込みで1本目です。いずれも5年ほど前に国内正規販売店にてご購入とのこと。外装も内部ムーブメントも当工房では入手できないため、オーバーホールのみで対応可能な状態のものに限り受付します。また今回は2本共にたいへん高価で珍しいお品であったため、ついつい魔が差しまして『ブログ掲載オプションを合わせてお申し込みいただくことを実施条件』としてお伝えしましたところ、快くご承諾いただきました。たいへん有難う存じます。

ウチも商売なので、なるべく来て欲しい時計を掲載したいのです。(笑)このごろだんだんと分かってきたのが、ブログに掲載したものと全く同じモデルのお申し込みがやたら多いという事実。やっぱり同じ時計の事例があると安心するんでしょうかね。プロの感覚ではついつい「この時計がこれだけできるなら、当然こっちもできるだろう」みたいな推測ができるので、別に全く同じモデルでなくたってすぐに時計師の力量が判断できるんですが。逆に言うと、掲載事例がないから、という理由だけでお申し込みをためらわれているとしたら、それはもったいないなぁと思う次第。お問い合わせは無料ですから、どんどんお気軽にお問い合わせいただきたいです。同一モデルが今では全く手に入らないようなよほどの珍品でもない限り、たいがいのモデルはだいじょうぶですよ。(もっと言えば、私自身が過去に1度も整備を経験したことのないような機械だってできますよ。そういう技能を持っているのが本当の時計師です。またそうでなければこの世界では生き残れません。)


ジラールペルゴ・ヴィンテージ1945

分解前の歩度測定から。振りも精度も出ており、おそらく実用上はそれほど不便も感じないだろうと思われる特性。じつはこれが機械式時計は落とし穴で、動くことをよいことに使い続けると、いざダメになったときはパーツが摩耗しきっていて、オーバーホールだけではもう手の施しようがないことが多い。いつも言っていることですが、そういう使われ方をしてダメになった時計のご依頼が本当に多いです。とくに古い国産モデルはほとんどそれ。パーツ交換にしろ、そもそもパーツ単体で手に入らない。今後はそういう時計はぜんぶ複数台組み上げの予算10万円〜おまかせコースでしか受付しないつもりです。

 

ケースの裏蓋をあけたところ。赤い矢印の部分には自動巻の切替車の中間車が入っているのですが、ホゾの周囲から赤い粉がはみ出しております。ははあ。これは嫌な予感がしますねぇ。

 

やっぱりね。というわけで、受けをはずしたところご覧のとおりホゾは赤サビだらけ。周囲にサビを撒き散らし、近くのパーツにも飛び火が始まっている段階でした。これは特別料金の『サビ取り&パーツ補修』の対象となります。

 

まずは中間車。サビを落として磨いたところ、幸い摩耗の度合いはごくわずかで、再利用が可能な状態。摩耗が激しく寸法が減ってしまっていたら、あいにく当工房では入手できないパーツであるためアウトでした。諦めて正規のブティックなり修理センターでべらぼうな料金で直してもらうしかありません。時計修理の一般的な相場というのはだいたい定価の1/10からです。100万円クラスの時計は最低でもオーバーホールだけで10万円すると思っていいです。パーツ交換はもちろん別料金です。5年に1度アトリエ・ドゥで整備すれば、トータルではお得ですよ。定期メンテナンスに出さず使い続けてパーにしたら、100万円の時計でも価値はスクラップ以下になります。修理に何十万もかかることが分かっているので、高値はつきません。

 

こちらは近くにあった別の中間車。サビは空気中を舞って伝染します。これもキレイに落ちました。よかったですね。あと数年でも出すのが遅かったら、この2点含めて甚大な損害だったかも知れません。そうなるとさすがに時計の動作に影響が出て止まったりしますから、それでようやく気づく人が多いんです。止まったり動かなくなった時にはもう遅いんです。内部の油は5年で乾きます。少しでも油が残ってさえいれば、サビが急速に侵食することを防いでくれます。乾いた状態はサビにとって格好の餌食です。部品のみを組んだ直後の油の全くない状態でも実は時計は動きます。ただ、そのまま動かし続ければ摩耗速度やサビの侵食が極端に早まるというだけの話。油さえ切らさなければ100年でも保つものが、1年とか数年でダメになります。

 

分解と洗浄が済んだパーツをケースに入れたところ。

 

バランスを地板に組み付けてひげ具合などをチェックします。今回はとくに修正は必要なかったため、そのままとします。耐震装置の油はまだ少し残っていましたが、もちろんこれも洗浄して新しい油をタップリと入れ直します。これも完全に乾いた状態で使い込んで天真のホゾがすり減ってしまったようなものをよく見かけます。60〜70年代の国産品とかとくに。根本的にその時代の人たちは時計を定期メンテナンスするものだと思ってない人が大多数だったようで、大切に整備しながら使っていた人は本当に時計の好きなマニアとかごく少数派。オークションあたりでその時代のモデルなんかに目覚めてしまってウチに修理申し込んでくる人が多いんですが、当然そんなものいくら時計師の腕がよくても直りっこないんですよ。ホゾの減ったジャンク品みたいなものばかりですから。

 

こちらは針回し機構のパーツ群。通常のメンズの機械の平均的な大きさより一回りかそれ以下に小さいサイズながら、細部までしっかりと丁寧に作られていて、感心させられます。

 

私の手とピンセットとの比較。こういうサイズ感で、うっかり飛ばすと見つからなかったりして大変です。高級品ほど小さく作ろうとしてくるブランドが多い。

 

地板の裏輪列。(文字盤がつく側で時計としてみた場合は表側だが、ムーブメントではなぜか表が裏で、裏を表と呼ぶ)

 

こんな感じで針回し機構のパーツ群が組み付けられていきます。

 

カレンダーディスクと受けまで組み付けたところ。裏輪列はこれで完成。

 

続いて表輪列。cal.3300 はクロノグラフ用にパーツを追加して転用できるよう設計されており、地板にはプッシャー部分用の切り欠けが巻き真のスリット上下にあるのが見られる。また中心には秒針用の穴があるが、いわゆるセンターセコンド(中三針)のようにも使えるようにしてある。このモデルは3番車から左上に秒カナを配置して、左下の4番車とは別個に駆動させている。

 

輪列受けを取り付けたところ。輪列と自動巻きの歯車群を同じ高さに収めることで、薄型化とスッキリとしたデザインを両立させている。

 

受けのネジはご覧の通り全く痛みはない。アトリエ・ドゥに出し続ければ何回整備してもこのままの美しさが極力保たれるよう、細心の注意を払って整備されます。へんなところに出すと一発でネジ頭やらミゾやら痛めつけられて、どんどん無残な姿になっていきます。(これ本当)

これは時計学校にいるときから教員にも褒められた位。真新しい練習用ムーブメントを1年生でクラス全員持たされますが、何十回とオーバーホールの練習を繰り返して卒業間際にはみんなボロボロ。受けもネジもきずだらけ。そんな中「安藤君のムーブメントは綺麗なままですねぇ」と言ってもらえましたからね。

 

脱進器のアンクルを組み付けたところ。

 

ガンギ車とアンクルのツメ石のかみ合い量をチェック。ジラール・ペルゴは比較的廉価なモデルも出していた時期があったが、近年は高級機路線に絞ってきた様子。上海修行時代にジラールペルゴ本社の時計師たちが派遣されてきて、机を並べて一緒に仕事をしていたこともある。高価な時計にもかかわらず、好況の中国では売れすぎてマトモに直せる人材が当時の上海にいなかったからなのだが、cal.3300はその時に私もずいぶん多く対応した。そんなわけで思い出の機械でもある。あの時のジラールの彼等は今元気だろうか。(当時はそんな出会いは年中あちこちあって、いちいち連絡先も聞かなかった。今にして思えば個人的に連絡できる外国の時計師をひとりふたり作っておけば楽しかったのになと、独りきりになった今頃になってようやく気づいた)

 

ベースムーブメントの完成。

 

半巻き(T24)での特性をチェック。文字盤上で緩急針をぴったり日差ゼロ付近に合わせこむと、縦姿勢では少し遅れるポジションがある。後ほど少し修正することにした。

 

文字盤と剣付けにすすむ。文字盤アールがすごい。カレンダーの窓を見れば、曲がり具合の勾配加減がわかる。しかし、じょうずな曲線でデザインしていて、美しさと視認性のバランスはとれている。

 

スモールセコンドも立体的な演出が手が込んでいる。ギョーシェ模様まで別個につけるこだわりぶり。針はまっさらな鏡面仕上げであり、わずかな小傷でも目立ってしまう。あまり付け直しするとリスクが高いため、カレンダーの切り替えは少し甘め(0時3分前後)とした。こういうものをやるときは緊張感MAXになります。

 

うっかり手をすべらせてカメラをごっとーん、などしないうちに、さっさとケーシングしてしまいましょう。普通に組み立てるだけで大変な時計ですが、ブログ掲載なんかやっていると、二重三重に手間も神経もすり減らして、クタクタになります。それでもこういう時計が当工房のブログでご紹介できることは喜びです♪

 

最終特性

左上)文字盤上 振り角 301° ビートエラー0.0ms +001 sec/day

右上)文字盤下 振り角 305° ビートエラー0.1ms +005 sec/day

左下1) 3時下 振り角 267° ビートエラー0.0ms +007 sec/day

左下2)12時下 振り角 262° ビートエラー0.0ms +002 sec/day

右下3) 3時上 振り角 273° ビートエラー0.1ms +002 sec/day

右下4)12時上 振り角 263° ビートエラー0.4ms +006 sec/day

 

 

【ジラールペルゴ ヴィンテージ1945 ref.25835】
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□オーバーホール料金  自動巻     ¥ 20,000
□その他
 ・外装研磨サービス 洗浄のみ           ¥ 無料
 ・特別費用 サビ取り&パーツ補修 ¥ 10,000
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合計金額              ¥ 30,000

 

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