セイコー・ロードマーベル 初期型

複数台組み上げ【すべておまかせコース】

奈良県I.H.様ご依頼品

セイコー・ロードマーベル の初期型の整備ご依頼です。セイコーやシチズンなど国産の古い時計につきましては、今後は原則として『すべておまかせコース』にて複数台組み上げにてご対応いたします。国産の時計はスイスなど舶来品と比較して、交換用のパーツが極端に少なく、現在ではほとんど入手できません。それにもかかわらず、どういうわけか修理の需要だけは多いため、毎回どうやって直すか非常に苦労をします。従来の修理方法では限界を感じつつあるのも事実です。時代も令和となりましたので、これを機に思い切って新しい方針に変えます。


セイコー・ロードマーベル 初期型

これはパーツ取り用に調達した同じムーブメントの入っている時計です。18金のケースにしたのにはちょっとした理由があります。同じムーブメント搭載機でステンレスバージョンと18金バージョンの両方がある場合、だいたい18金のほうにより優れた機械が入っていることが多いです。メーカーによっては認めず「いえ同じです」というかも知れませんが、私の経験則では明らかに違います。

機械式時計とは関係ないものの、CPUのクロック周波数も高いやつと低いやつがありますが、全く同じ製造ラインで全く同じロボットが作っているにもかかわらず、性能にはバラツキが出るそうです。より高周波に耐えうる出来のよいやつが上級バージョンのスペックで動作し、劣った性能のほうは少しクロック倍率を落として廉価バージョンとして売るそうです。ご参考まで。

 

分解前の歩度測定から。まずはご依頼品のほう。振りだけ妙に出ているものの、全部の姿勢が遅れています。振り角は高ければいいというものではありません。正しい動作ができなければいくら振りが高くても意味がありません。

 

パーツ取り用のほう。ご依頼品よりはマシな状態ですが、姿勢によりバラツキがあり、性能だけでいえば五十歩百歩かもしれません。もちろん性能をあげるためだけに取り寄せたのではありません。この2台の時計の良いところだけを組み合わせて、新たに一つの時計をつくります。

 

裏蓋を外したところ。全体的な状態はおおむねどちらも変わらず。

 

同時に分解していきます。

 

香箱の受けの角穴の部分にご注目ください。ご依頼品(左)のほうは穴の周囲になにやらキズのようなものが、、、。

 

受けを分解したところ、なんとクサビ型に何かを打ち込んだ痕が穴の間近に2箇所みられます。これは穴の内側がすり減って隙間ができてしまったものを、無理やりこうして穴を詰めて一時的に動作できるように修理したつもりなのでしょう。オリジナルの穴と比べると歪に変形した様子がよくわかります。当然こんなやっつけ仕事では長くもたず、何年も使わないうちにまたすぐダメになってしまいます。しかも、次にダメになったときはもう手の施しようがありません。こんなデタラメな修理をしてしまう職人が時計修理の業界には多すぎます。

こういう事されちゃうと、もうこれ以上は直しようがないんですよ。穴の周囲をハンマーで叩き潰して、もう一度穴を開け直すという荒技でもしないと。でも、それやるとオリジナルの受けの厚みが薄くなってしまうので、別の問題が生じたりしてやっぱり具合がよくない。う〜ん困った。。と、なるわけです。

パーツさえあれば、ダメな部分だけ交換できるんですが。ないんです。国産の古い時計のやつは。どこを探しても。

 

2本ともにムーブメントの分解とパーツ洗浄が完了したところ。

 

バランスのようす。リバランス用の穴がテンワに開けられています。ひとつひとつ違います。このためひげぜんまいや振り座などバランスを構成する何かひとつのパーツでも交換すると、リバランスはやり直しが必要となります。当然それには特殊な技術が必要です。本ブログの過去事例でも何度か紹介したことがありますが、基本的にはあまり穴を開け直すのはよくないので、今回はバランス受けごとトータルで良いほうをまるごと採用とします。

 

こちらは2番車のカナを拡大したところ。ご依頼品(左)のほうはカナにがっつり赤サビが生じておりました。パーツ取り機(右)は幸いピカピカで全くサビはなし。今回はそっくり交換してしまいます。早いです。

 

これは従来の方法で補修する場合の一コマ。サビとり液を使ったり、研磨剤を使ったり、手作業で細かい部分を時間をかけて磨いていきます。こんなことをやっていると、歯車ひとつ補修するのにあっという間に1時間とか経っちゃいます。ウチみたいに時計師=店主みたいなところでなら好きにやれますが、サービスセンターのような鬼の上司がいるような環境でやってたらどうなると思います?

「お前なにやってるんだ!早く終わらせてさっさと次の時計やれ!」

と怒号が飛んでくるでしょうねぇ、、、。時計1本の修理にかけてよい時間が厳密に決められているところもあります。スケジュール表に従って、今日はこの時計とこの時計とこの時計を、この時間までに。とか。

そんなんで、こんな古い時計直せると思います?直せるはずがないんですよ。だから、そういう組織とか系列のからむ修理の窓口に行くとこうなるんです。

「申し訳ございません。当店ではこの時計の修理の受付はいたしかねます」

と!!

 

そして従来のやり方で補修した場合の結果はこんな感じ。使えないことはないのですが、サビが再発する可能性がゼロではなく、一抹の不安がつきまといます。ご依頼主様はコレクターかも知れません。夏空の元で思いっきり腕に着用してお使いになる方かも知れません。いちいちそんなことを考えていたら修理なんてできません。1年の保証期間内にはせめて再発しませんようにとか、セコイ考えが頭よぎってしまうこともあります。そんな修理はやっていて嫌になりました。

それもこれもパーツさえ手に入るならこんな苦労はなくて済むんです。

 

リュウズの巻き真にもサビあり。これは軽傷のほう。少しずつサビを削り落として、磨いて、補修によりどうやら再利用できます。これも毎回決まって頭を悩ませる頭痛の種パーツの筆頭です。リュウズのガスケットは劣化しますが、交換できる構造とは限りません。これも交換パーツはないです。巻き真は運良く手に入るものもありますが、今回のような初期型のパーツはよくてアヤシゲなジェネリック品くらいしか手に入りません。自分で別作したほうがいいくらい。作れないことはないんですが。しかしそんな事をしている時間はありません。よほど毎日巻き真ばかり作っている人はともかく、私がこれと同じクオリティの巻き真を自作したら丸1日かかってしまいます。1本3万円はいただかないと割に合わない。そんなもの、誰が買ってくれるのか??

オメガとかロレックスなら、このセイコーのやつと同じ頃に作られたモデルでも、いまだにちゃんと1個から交換用パーツが手に入るんです。巻き真なら純正品で5,000円からせいぜい10,000円もあればスイス製は多くのブランドもので手に入ります。自作なんかするより安くてずっと間違いがなく早いです。国産の時計パーツに限ってないんです。

セイコーでもシチズンでも国産のサービスセンターは製造中止から決まった年数の経った時計のパーツは保有せず、直してくれません。つまんないところで法律遵守で、企業としての理念とかマインド的なものは建前ばかりで。ヨーロッパの足元にも及ばんのですよ。心意気のようなものを失っている。

 

リュウズを差し込むオシドリネジが錆びています。もうこんな感じで、あらゆるパーツを全部なんとかしようとすると、同じムーブメントから抜き取ってしまったほうが早いです。複数台組み上げは実に合理的な修理方法なのです。

 

ベースムーブメントの組み上がっていくようす。私はいつでも胸を張ってこう言いたい。

「この先30年でも50年でも一生モノとしてお使いになれます」

と!!!!

 

最終特性 (ベースムーブメント)

左上)文字盤上 振り角 284° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 282° ビートエラー0.0ms +011 sec/day

左下1) 3時下 振り角 230° ビートエラー0.3ms +026 sec/day

左下2)12時下 振り角 237° ビートエラー0.1ms +004 sec/day

右下3) 3時上 振り角 236° ビートエラー0.4ms +007 sec/day

右下4)12時上 振り角 201° ビートエラー0.4ms +020 sec/day

まあまあですが、良くはありません。この機械にしては健闘したほうでしょう。

 

文字盤と剣付け。状態は良好。

 

ケーシングまで来ました。

正直に申し上げて国産の古い時計は機械として優れているとは思いません。パーツは手に入らないし。中古は状態の良くないものばかりだし。なぜ今もこんなに人気があるのか、よくわかりません。

はっきりしているのは、修理したい需要には従来の方法で対応するのに限界があり、パーツが手に入らなくなった以上はもはやなりふり構っていられないのだということです。

パーツ単体で手に入らなくても、幸い同型のムーブメントが搭載された機械なら手に入ります。(もちろんそういうものを入手して修理を依頼される方が多いわけですから当然なのですが)

それならばいっそ時計をもう一台使って直してやろうということです。

国産の古い時計(または舶来品であってもパーツ単体で入手できない時計)を当工房で修理される場合、

  1. 初回は原則として複数台組み上げ(すべておまかせコース)で修理
  2. 2回目以降の定期メンテナンスは通常コースで受付

今後はこのようにさせていただこうと思います。

 

【ロードマーベル(型番なし初期型)】
———————————————————————————————
□オーバーホール料金 手巻き複数台組み上げ ¥ 30,000
 ・すべておまかせコース
□追加パーツ費用
 ・同型ムーブメント搭載中古機取り寄せ   ¥ 125,000
□その他
 ・外装研磨サービス 洗浄のみ ¥ 無料
———————————————————————————————
合計金額                  ¥ 155,000

 

 

トップへ戻る