今日の時計『セイコーマチックR 8325-8000』

SEIKO|seiko-matic R 8325-8000
SEIKO|seiko-matic R
8325-8000

大阪府T.O.様ご依頼品

測定機で歩度を計測すると、日差が1分近くも進みであるにもかかわらず、「なるべく進みに調整して欲しい」とオーバーホールのご依頼をいただきました。なぜなのでしょう。毎日1分も進んでいたら、「進みすぎるからもう少し遅めにして欲しい」となるのが普通ですね。今回のお品はちょっぴり時計師泣かせの機械です。


オーバーホール事例:セイコーマチックR 8325-8000(大阪府T.O.様ご依頼品)

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セイコーマチックRのオーバーホールのご依頼です。遅れるよりは進み気味の調整をご希望とのこと。分解前の測定ではすでに30秒〜60秒程度の進みになっていますが、実際に着用してみるとそれほどには進まないのだろうと思います。測定機上の静的な特性と、実使用の動的な特性は必ずしも一致しません。(もちろん差がないほどいいのですが、その差がひらいた機械も多いです)一癖あって正直やりにくい時計です。

 

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全てのパーツの分解と洗浄が完了しました。注油は乾ききって、耐震装置の内側には汚れがこびりついていましたので、今回は輪列の受け石も全て分解した上で洗浄しました。まだ油が残っている状態であれば、ベンジンに浸けるだけで落ちることが多いのですが、良く見てケースバイケースで判断します。

 

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香箱のゼンマイも洗浄して巻き直し、新しい油を差します。60年代〜70年代ごろの国産時計は、交換用のスペアパーツが現在はほとんど残っておらず、入手は困難です。この時計のゼンマイもかなり特殊な独自規格のサイズのため、セイコー製品以外には合いません。ゼンマイが切れた場合にセイコー以外の汎用品では互換性がなく、修理できない場合もあります。

 

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ムーブメントを組み立てます。最初にセンターの2番車と受けから組み、輪列へと進みます。(上)この機械は3/4受けに近いため、受けを乗せて一気に組み上がります。アンクルとテンプを組んでベースムーブメントの完成です。(下)

 

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ベースムーブメントの測定です。

左上)文字盤上 振り角 226° ビートエラー0.2ms +011 sec/day

右上)文字盤下 振り角 228° ビートエラー0.0ms +007 sec/day

左下) 3時下  振り角 197° ビートエラー0.1ms +002 sec/day

右下)12時下  振り角 198° ビートエラー0.5ms +026 sec/day

平姿勢はまあまあといったところ。縦姿勢で約Δ30秒の姿勢差がありますが、経験上この機械は姿勢差を詰めようと頑張ってもうまくいかないばかりか、余計おかしくなることが多いので、今回は下手にいじらずこのまま進みます。

 

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カレンダー機構の組み立てと、文字盤を取り付けて剣付け(針付け)まで進んだところです。セイコーマチックRは、手巻きもできて、カレンダー早送りもできる、(先行するセイコーマチック・シリーズと比べて)進んだ機構ということで、特別に『R』がつけられております。今では当たり前すぎる機能ですが、舶来品ですらカレンダー早送りのできない機械が多かった時代でした。オメガやロレックスでさえも、最初はそうだったのです。

 

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ケーシングまで進んだ所です。どうも60年代〜70年代のオールドセイコーでは、自動巻きローターの表面処理(めっき)の方法に問題があったようで、ここだけ地金が緑青をふいているものを多く見かけます。時代が後に作られたものほどその傾向が強い気がするのは少し残念なところです。合理性やコスト重視に走るあまり、何かを見失いつつあった気がして寂しくなります。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 258° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 240° ビートエラー0.1ms +017 sec/day

左下1) 3時下 振り角 232° ビートエラー0.1ms +004 sec/day

左下2)12時下 振り角 223° ビートエラー0.4ms +019 sec/day

右下3) 3時上 振り角 224° ビートエラー0.1ms +027 sec/day

右下4)12時上 振り角 221° ビートエラー0.4ms +021 sec/day

もっとも遅れる姿勢でも日差が±0秒付近となるよう調整しました。姿勢差が30秒程度ありますので、全体としてはやや進み気味になっていると思われます。オートワインダーで数日間テストしましたが、実測では日に20秒の進みという結果でした。人が着用した場合にはさらに個人差があるため、上記は参考程度のデータにしかなりません。使っていくうちにも値は変化していきます。機械式時計で日差を数秒以内に収めることなど、いかにとんでもなく高い技術であるか思い知らされます。

 

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完成

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