56GSセイコー・ハイビート

福岡県S.K.様ご依頼品

セイコーGSハイビートのオーバーホールご依頼です。この56GSの機械は、カレンダー早送り車が樹脂でできていることから割れやすく、よくカレンダー送りのできない個体の修理相談が来ます。しかし、残念ながら交換用パーツは現在では入手できません。設計ミスによるリコールのようなものですから、同じ型番の同じパーツだけが異常に交換必要となって枯渇するパターンです。古いアンティーク時計の世界ではしばしば見られる現象です。

セイコー 56GS ハイビート

分解前の歩度測定から。縦姿勢でビートエラーの目立つものの、歩度は揃っています。まずまずの状態と思われます。

 

ムーブメントを分解していく様子。輪列や耐震装置の油は完全に乾いてしまっているものの、香箱や一部パーツは油がドボドボ状態で、注油のバランスがよろしくない。前回メンテした業者の腕はあまり感心しません。だから今回ウチにご依頼されたのかも。中身をみれなくとも、おかしな作業がされればなんとなく調子が変だとわかるものです。特に長年に渡ってご愛用されている機械の場合は。

 

洗浄してパーツをケースに収めます。56系はムーブメントと文字盤の間にスペーサーをかませるのですが、これがまた曲者で、カレンダー早送り車と同様に樹脂で作られています。これも素材をよく吟味しなかったのでしょう。ある一定の年月が経つと非常にもろく割れやすい傾向がみられます。この型番のムーブメントのものに限って、スペーサーやカレンダー送り車の割れたものばかり見かけます。今回カレンダー送り車は無事でしたが、スペーサーは割れており、過去に接着剤のようなもので修正を試みた跡がみられました。しかし結局また同じ部分が割れてしまっています。二箇所が割れると用をなしませんが、一箇所のみなので継続利用します。(これも交換しようと思ってもパーツは入手できません)

 

香箱とゼンマイを洗浄して再注油したところ。

 

ムーブメント本体を組み立てます。輪列付近のようす。

 

ベースムーブメントが完成したところ。

 

ベースムーブメントの測定のようす。縦姿勢のビートエラーは基準以内に収まりました。

 

続いてカレンダー周りの組み立てです。カレンダー早送り車のほかに、曜日送り車というパーツも樹脂製です。こちらは構造が単純で無理な力もかかりにくい形状のためか、割れているものは見たことがありません。この頃からセイコーはやたらパーツの素材に樹脂を採用しはじめます。おそらくコストの関係だったと思います。同時にクォーツ式時計も以後は低価格化競争が極限まで進みます。やがて歯車や地板まで樹脂製になり、完全に使い捨て型となります。その頃には機械式時計は製造ラインから消えて、いったん終止符が打たれることになります。

正直、こういうものはお世辞にも修理がやりやすいとは言えません。何世代にも渡って使われることをも想定したような、スイスの高級時計などとは全く設計思想が異なるため、年月を経るほどあちこち壊れてしまい、かつ樹脂製パーツなどは金型産業の申し子ですから、修理のために一個だけ手作りできるような性質のものでもなく、交換パーツがなければ修復しようがないのです。

 

文字盤と剣つけをしました。文字盤下のスペーサーが割れているため、ホルダーなどで固定することもままならず、デルリンの汎用台の上にムーブメント直置きで作業せざる得ませんでした。このため、非常に剣つけがやりにくく、おそらく過去のメンテでも同様の事態に陥ったためか、ずいぶん針や取り付けるほうの歯車などは痛んでおり、正しく取り付けても針回しが綺麗な水平に回らない有様。たかがスペーサーなどと思ってはいけません。このようにあちこちに影響が出ます。なんとか針同士や文字盤と接触しないよう、調整しながら取り付けました。

 

なかなかオーナー視点では気づきにくいというか、まず意識された方はいないと思われますが。職人視点では、じつは不人気ナンバーワンに輝いてしまうような、悪しきムーブメントというものが存在します。これはまだそこまでひどくないです。でも、何かとため息が出てしまう機種のひとつではあります、、。

 

最終特性

左上)文字盤上 振り角 253° ビートエラー0.1ms +008 sec/day

右上)文字盤下 振り角 255° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下1) 3時下 振り角 235° ビートエラー0.1ms +006 sec/day

左下2)12時下 振り角 239° ビートエラー0.1ms +012 sec/day

右下3) 3時上 振り角 255° ビートエラー0.2ms +010 sec/day

右下4)12時上 振り角 246° ビートエラー0.2ms +001 sec/day

性能は高年式のハイビートらしく、ETAなどと比べてもそれほど遜色のないものです。とにかく合理的に高性能と低価格化を推し進めていった結果と思います。実は本機はお父様の形見のお品だったとのこと。半ば使い捨ての道に時計づくりが向かっていこうとした時代にあって、親子二世代に渡って使われたこの時計はモノとして幸せだったのだろうと思います。こういう修理の需要がある限りは、ブツクサ文句をいいつつもなんとかしたいものです。

 

【Seiko 56GS 】
———————————————————————————————
□オーバーホール料金  自動巻  ¥ 20,000
□その他
 ・研磨サービス 洗浄のみ  ¥ 無料
———————————————————————————————
合計金額      ¥ 20,000

 

 

トップへ戻る