A. Lange & Söhne : Lange 1 (cal.L901.0)

A. Lange & Söhne | Lange 1 (cal.L901.0)

千葉県T.T.様ご依頼品

ランゲ&ゾーネ・ランゲワンのオーバーホールご依頼です。市販されるリテール品の中においては、パティック・フィリップと共に世界最高峰の双璧と目される時計ブランドの製品です。これ以上となると独立時計師のつくる一点モノしかありません。ついに当工房でもこの時計の修理記事をご紹介できる日が来ました。アトリエ・ドゥでは他のブランドと同じ価格にてオーバーホールいたします。交換用パーツは外装/内部いずれもいっさい入手不能ですから、パーツ交換の必要のない実働品のみ受付可となります。カレンダーやパワーリザーブなどの構造がやや複雑なのでクロノグラフ相当でのオーバーホールをお受けすることにしました。


ランゲ&ゾーネ・ランゲワン

分解前の歩度測定から。全巻きで平姿勢においては300°に近い振りがあり、歩度も表+009秒裏+005秒とまずまずです。ところが、縦姿勢では振り角こそ概ね260°で正常ながら、歩度が-1〜-10秒くらいまで各姿勢とも遅れを示しており、これは少しいただけません。さてさて。

 

ムーブメントを分解していきます。他のハイエンド・ブランド時計の例にもれず、パーツはとても細かく小さい作りです。そして量も多い。

 

ひとつずつ丁寧にベンジンカップの中で洗浄を行います。華奢な作りですから、ちょっとでも乱雑に扱うと、それだけで折れたり曲がったりして壊れてしまいます。

 

洗浄したパーツをケースにおさめたところ。

 

バランスの調整を行います。受けには彫り模様が施されています。本青焼きネジとピカピカに磨き上げられた緩急針の輝きが非常に美しく、芸術品レベルです。

 

バランスを受けから外して裏返したところ。ひげぜんまいの通るヒゲ棒が、調整前(左)は片方がくの字に曲がってしまっており、まっすぐではありません。この2本の棒の間にひげぜんまいが入って双方の壁を往き来しますので、ひげの当たる部分はまっすぐ平行でなくてはなりません。力加減を間違うとポキっと折れてしまう非情な作りでたいへん調整が難しく、多くの時計師があまり手を出したがりません。理想状態でなくとも、緩急針のアオリとしての役目さえ果たせればそれでよいと考えて、見て見ぬ振りをしてしまうことが多いところでもあります。最終的な時計の歩度を決定づける要因はひげぜんまいのほか、テンワや天真の素材および加工精度、設計の良し悪し、片重り取り調整技術など、ほかにいくらでもあり、トータルなものです。ヒゲ棒だけをいくら完璧にしてどうにかなるとかいう単純なものではありません。かといってひとつの要素に問題があれば、それは間違いなく時計の精度に悪影響を及ぼします。どのラインを合格とするかは、時計師の見識次第です。

前回の手入れは赤坂のたいへん有名な某ジャパン・サービスセンターだそうですが、これを直さないとは。おそらくアオリ幅を狭めようとして外側から棒を押して変形させたのでしょうが、よほど作業時間に余裕がなかったのでしょう。腕の良い時計師をたくさん囲っているはずなんですが、飼い殺しを心配します。納期を守らせることは大切ですが、それだけではよい技術者に育たない。他所様はともかく、ウチでは曲がったものを真っ直ぐにしないという選択肢はありません。リスクも考えずにエイヤッと修正してしまいました。(右)5分とかかりませんでしたがね。

 

つづいて、地板に輪列パーツ群を組んでいきます。

 

むきだしの二番〜四番車と、受けをのせた部分は秒カナと伝え車2つ。このように三番車から秒カナ方面(秒針のつく部分)と四番車・ガンギ方面へ動力を分ける方式。力の伝わり方などに配慮がみられます。

 

こちらは巻き上げ機構部分の組み立てのようす。

 

各パーツに惜しみなく手間暇かけて仕上げされた様子がみてとれます。

 

3/4受けを組んで、ガンギ受け、アンクルまで乗せてみたところ。

 

アンクルを組んでツメ石の調整を確認。理想状態よりもやや深めの調整だったものの、冒頭の特性から十分に振り角は出ており、おそらくこれが最適ポイントなのだろうと判断。なんでもやみくもに理想を追求すればよいとは限らない。今回あきらかに変だったのはむしろヒゲ棒のほうだったので、アンクルは現状のまま特に何もせず。どこに手を加えれば思い描く特性に導けるか。時計の修理はむずかしい。

それにしてもなんという美しい仕上げ、、、。受けのフチや石の周囲がすべて面取りされてピカピカに磨き上げられています。アンクルのツメ石上面にまでアールをつける徹底ぶり。まさに極み。

 

ベースムーブメントの完成。

 

さらにパワーリザーブ機構の組み付けへと進む。かなり特徴的なカマ型のパーツにパワーリザーブ針がつきます。歯車の先端は香箱へとつながっており、ゼンマイの巻き上げと同時にキリリと回転していきます。

 

パワーリザーブのモジュールの上には、ビッグカレンダーがつきます。立体的にかなり手の込んだ仕組みで、詳しく解説する余裕のないのが少し残念ですが、今回は記事として紹介するのはもちろん、私自身がこの機械をいじるのも実は初めてということもあり、作業クオリティの維持のほうに専念させていただきました。

 

なんとか無事にケーシングまで漕ぎ着けました。裏蓋を閉じて、ホッと一息。

 

最終特性 (T24) 半巻き

左上)文字盤上 振り角 270° ビートエラー0.1ms +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 270° ビートエラー0.2ms +008 sec/day

左下1) 3時下 振り角 227° ビートエラー0.0ms +012 sec/day

左下2)12時下 振り角 230° ビートエラー0.0ms +008 sec/day

右下3) 3時上 振り角 235° ビートエラー0.4ms +011 sec/day

右下4)12時上 振り角 229° ビートエラー0.3ms +011 sec/day

 

最終特性 (T0) 全巻き

左上)文字盤上 振り角 306° ビートエラー0.1ms +011 sec/day

右上)文字盤下 振り角 304° ビートエラー0.2ms +010 sec/day

左下1) 3時下 振り角 268° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下2)12時下 振り角 270° ビートエラー0.0ms +006 sec/day

右下3) 3時上 振り角 270° ビートエラー0.3ms +009 sec/day

右下4)12時上 振り角 267° ビートエラー0.2ms +011 sec/day

分解前と比べて、縦姿勢が顕著に改善されたと思います。ヒゲ棒の調整具合ひとつをとってもこれだけ違います。歩度は全姿勢でプラスマイナス3秒以内に入っており、かつ24時間後の半巻きの特性も変化が少ない優秀な性能を示しております。

パーツの仕上げといい、機械の性能といい、独創的な文字盤のデザインと相まって唯一無二の存在感を醸し出しております。まさに最高峰の呼び声にふさわしい逸品と思います。

 

【A. Lange & Söhne – Lange 1 (cal.L901.0)
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□オーバーホール料金 手巻き(クロノグラフ相当)¥ 30,000
□その他
 ・外装研磨サービス 洗浄のみ  ¥ 無料
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合計金額                      ¥ 30,000

 

 

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