Audemars Piguet:15026BC.GC.1117BC.01 cal.2080

AudemarsPiguet|15026BC.GC.1117BC.01 cal.2080

東京都J.H.様ご依頼品

オーデマ・ピゲのオーバーホールご依頼です。ひとつ前のブランパンと同じご依頼主で、こちらもお父様の形見分けで譲り受けたものとのこと。オーバーホールは過去に一度もされていないようです。正規の直営店などで見てもらうようおすすめしたものの、以前に別の時計の手入れを当工房にて行っていただき、今回も是非にもとのことでお引き受けすることになりました。ありがたい限りです。


オーデマ・ピゲ

分解前の歩度測定。姿勢差がだいぶあります。内部の油もすっかり切れているため、波形も一部苦しそうな動きがみてとれます。もしこのままの状態で使い続けていたら、部品が摩耗してしまいオーバーホールのみではどうにもならなくなったと思います。直営ブティック経由などで修理受付してスイス送りになりますと、修理代も桁が違いますから大変な時計です。

 

さっそく分解してパーツの洗浄を行います。機構で特に難しいことはありませんが、サイズがものすごく小さいため扱いは慎重に行う必要があります。

 

パーツの洗浄が済みケースに入れたところ。

 

地板にバランスを組んでひげぜんまいの調整などを行います。メンズの時計ですが、レディース用のムーブメントと同じかそれ以下のサイズです。小さくなるほどバランスの調整はむずかしくなります。

 

こちらは香箱のようす。洗浄して注油しなおします。

 

輪列の歯車をならべたところ。オーデマ・ピゲのパーツも細部まで丁寧に仕上げがされており、目を見張る美しさです。

 

巻き上げ機構のパーツ群。

 

巻き上げ機構を組んだようす。操作した時の感触にまで高級感があります。

 

アンクルの裏を拡大したところ。ツメ石を固定するシェラックの流し方が素晴らしいです。多すぎず少なすぎす、均一にかつ滑らかな感じで石を包み込んでいますね。これはどうやっているのでしょう。しかもこの極小サイズで。(シェラックは加熱して溶かすロウのようなもので、扱いが非常に難しく意のままの量を任意の場所にとどめるには熟練が必要)こういうものをお手本にすることで、自分の腕を磨きます。

私がみてきた限り他のどのブランドよりも綺麗なシェラックづけです。こういうちょっとしたひとつひとつのことにも、最高の技と感性をもっているということです。

 

アンクルを組み付けて脱進器の調整を行います。輪列受けのカーブの美しさと、脱進器の見やすさが両立されています。優れたヨーロッパの時計は必ずといってよいほど時計師の目線で考えられた作りになっています。

 

脱進器を真上から見たところ。アンクルのツメ石とガンギ車の歯との噛み合い量をチェックします。入り爪と出爪の両方をみますが、地板には窓がきってあり、このように裏側が見通せる構造になっていれば石に光が入るのでとても見やすいのです。

アンクルの仕上げの良さもさることながら、もちろん調整も完璧でした。ツメ石とガンギ車はまったく理想的な噛み合い量であり、1/100 mm たりとも再調整の余地はありません。ここでも私はただただその仕事ぶりの確かさを感心しながらチェックするのみです。万が一、修正の必要のある個体に出くわしても、こういう構造なら性能を追求する気にもなりますし、そして腕が確かな調整ほどそれに応えてくれるムーブメントです。時計師を夢中にさせる魅力のあるデザインです。

 

ムーブメントの組み立て完成。佇まいにも気品が漂います。

 

2番車と3番車の間に中間車があり、ベアリング駆動になっています。これはなかなかめずらしい機構ですが、技術的にちゃんと意味があります。詳しくは割愛しますが、私流にひとことで表現しますと、これは3番車に対する愛情であふれた措置なのです。単に時計をモノとしてしか見られない脳ミソでは一生思い浮かばない発想です。大切にずっと使って欲しい。いつまでも世代を超えて受け継がれて欲しい。私にはこの機構に込められた製作者の心からの声が聞こえます。

 

歩度測定 T24(半巻き)

左上)文字盤上 振り角 255° ビートエラー0.1ms +024 sec/day

右上)文字盤下 振り角 256° ビートエラー0.0ms +020 sec/day

左下1) 3時下 振り角 211° ビートエラー0.2ms +016 sec/day

左下2)12時下 振り角 222° ビートエラー0.1ms +017 sec/day

右下3) 3時上 振り角 219° ビートエラー0.1ms +005 sec/day

右下4)12時上 振り角 221° ビートエラー0.0ms +003 sec/day

分解前と比べると振りも上がって姿勢差もだいぶ小さく収まっています。

 

文字盤と剣つけに進みます。とくに汚れもみられず、今回はなにもせずにそのままの状態で済んでいます。文字盤がとても凝った作りです。立体感の造形も手が込んでいますが、仕上げの表面も七宝のように光の当たる角度で表情を変えるような具合で、お色味もなんとも言えない深さが感じられます。

 

ケーシングまで来ました。外装のサイズはメンズとしてはむしろ普通より小型でボーイズサイズほどです。それにもかかわらず、ムーブメントはさらに小さいサイズですから、ケースとの対比がまるでデカウォッチのように感じられます。これにも立派な哲学があるのですが、ここではこれ以上触れないでおきます。単に性能重視でいくらスペックばかりを強調したりしても、哲学のないものは世界で認められないとだけ申し上げておきましょう。

 

最終特性 T0 (全巻き)

左上)文字盤上 振り角 280° ビートエラー0.0ms +020 sec/day

右上)文字盤下 振り角 278° ビートエラー0.0ms +018 sec/day

左下1) 3時下 振り角 233° ビートエラー0.2ms +017 sec/day

左下2)12時下 振り角 244° ビートエラー0.0ms +014 sec/day

右下3) 3時上 振り角 260° ビートエラー0.1ms +005 sec/day

右下4)12時上 振り角 247° ビートエラー0.1ms +011 sec/day

せせこましくギリギリの調整などせず、余裕ある仕上がりにいたしました。それがこの時計の製品哲学にもかなったものと信じます。

 

【AUDEMARS PIGUET 15026BC.GC.1117BC.01 cal.2080】
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□オーバーホール料金 手巻き    ¥ 15,000
□その他
 ・外装研磨サービス 洗浄のみ ¥ 無料
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合計金額            ¥ 15,000

 

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