今日の時計『International Watch Co. automatic (cal.8541)』

International Watch Co. automatic (cal.8541)
International Watch Co.|automatic (cal.8541)

東京都 K. N.様ご依頼品

インターの往年の人気モデル85系です。当工房では何度か同じモデルをご紹介しており、おなじみ感が出てきました。当ブログをご覧になり、「私もやってもらいたい」という方もいらっしゃると思います。無論それは有り難い話なのですが、もしこれから新たにオークションなどで入手されようとしているなら、少し気をつけたほうが良いです。このモデルを含め、60年代〜70年代頃に製造された時計は、製造から約半世紀が経過しているため、立派な『アンティーク時計』です。ここ10年〜20年以内に製造された現行品と比べると、あちこち痛んでガタが来ていることも珍しくありません。そういうものだとご理解されている方なら良いのですが、まるで現行品と同じように、整備さえすればバリバリ使えるものだと考えておられるとしたら、ちょっとした認識のズレから大きな誤解を生じかねません。今回はそのあたりの部分についても触れております。古いアンティーク時計の修理をご検討中の方はぜひご一読ください。


インターナショナル・ウォッチ・カンパニー (IWC) cal.8541

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インターのcal.8541 オーバーホールのご依頼です。祖父様の遺品整理で出て来たもので、昔スイスで買ったものだとの事。1960〜70年頃に製造されたものと思われます。相当期間に渡って保管されていたものらしく、風防はプラスチックが劣化して表面に細かいヒビが一面にでている状態です。

 

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分解前の測定です。全体的に+60〜80秒とかなりの進みですが、振りはしっかりしており、最大姿勢差もΔ20秒ほどですから、テンプの状態は悪くなさそうです。オーバーホールで回復できそうです。

 

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時計内部にはサビや緑青が至る所に生じておりました。錆びとり&パーツ補修の適用が必要となります。

 

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風防は新しい汎用プラスチック風防に交換します。ケース本体もライトポリッシュをすることになり分解します。ベゼルの裏側や裏蓋とケース本体いずれにも赤錆が生じています。これらも可能な限り落とします。

 

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リュウズが差さるパイプは、付け根付近が摩耗でボコボコになっており、本来ならば交換したほうが良い状態。しかし、過去の修理でパイプと時計本体をロウ付けしてしまったらしく、これでは簡単には取り外しできません。(ロウ付けされたということは、オリジナルと同じサイズのパイプを差すとスカスカということですから、むしろ下手にいじらないほうが良いです)

 

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リュウズのスリット付近のようす。リュウズと巻芯を分離するときに、ピンバイスで噛んだと思われる溝跡がついています。ちょっとこれはいただけません。(噛む場所が悪い)表面がギザギザのままでしたので、滑らかになるよう補修します。

 

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こちらは地板のリュウズが差さる部分を拡大したところ。スリットと接する部分が削られて、すっかり地金(真鍮)が露出し、緑青までふいております。これは明らかに巻芯の表面についたギザギザ傷が、ちょうどドリルのような作用をしてしまい、地板と接する部分が削られたものです。緑青は洗浄で落とすとして、削られた部分はもうどうしようもありません。直す手段としては地板ごと交換するほかありません。

パーツはまず見つかりません。運良く入手できる場合も時価となり数万円かかります。あれもこれも交換してたらあっという間にパーツ代だけで10万超えます。

幸い、時計の動作に致命的な影響を与えるような性質のものではありませんから、厚めに油を塗ることで解決とします。リュウズの操作感などに多少の影響(ガタガタするなど)はあるかも知れません。まれに神経質なお客さんがいて「異音かする」とか、動きや感触がどうのこうので、「なんとかして欲しい」旨のご相談をいただきますが、実情はこういうことです。「直りますよ。パーツ代ウン万円ですけど」(だいたいこれで音信不通になるという。。苦笑)

 

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パーツの洗浄が完了したところ。サビや緑青もとれて、ピカピカです。

 

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テンプの調整のようす。ひげぜんまいが鉄ヒゲのブルースチールです。ここが錆びると手の施しようがありませんが、幸い無事でした。若干修正が必要だったものの、他の部分の荒れ具合に比べたら軽症だったと思います。

 

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こちらは香箱にゼンマイを巻き直したところ。香箱の内部もガタガタかと思いきや、比較的良い状態でした。

 

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二番車を拡大したようす。ホゾの付け根(受けの穴と接する部分)が、かなり摩耗しています。こちらも本来なら交換相当ですが、パーツは入手できませんので補修して継続利用とします。

 

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ベースの組み立てのようす。

 

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ベースの完成したところ。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 266° ビートエラー0.0ms +017 sec/day

右上)文字盤下 振り角 266° ビートエラー0.0ms +011 sec/day

左下) 3時下  振り角 220° ビートエラー0.3ms +017 sec/day

右下)12時下  振り角 224° ビートエラー0.1ms +010 sec/day

 

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自動巻き機構を組み付けします。分解前はかなり汚れが目立っていましたが、キレイになって動作にも問題はありませんでした。元の作りがしっかりしているためと思います。

 

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ローターを仮組みして動きを確認しているところ。スムーズな動きで、問題ありません。IWCのペラトン式巻き上げ機構は丈夫で故障しにくい印象があります。今回も期待を裏切りませんでした。しかし、輪列のホゾなどは二番車はじめ、三番車にも摩耗がみられ、全体的には満身創痍で寿命が近い状態です。あまり無理なご使用(毎日フル着用)はなさらず、たまに故人を偲びつつお使いになる程度のほうがよろしいかと。

 

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カレンダー機構の組み立てをしたところ。日付はリュウズを引いて針回しを行い、0時を少し過ぎてディスクが切り替わったら、針を巻き戻して23時台にし、再び0時をくぐらせる(以下繰り返し)で日付調整する仕組みです。カレンダー早送り機構というものはついておりません。

 

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文字盤と剣付けをしたところ。針や文字盤表面には小傷などが多数みられます。ホコリやゴミなど容易に除去できるものを取って、あとはそのままとします。年式相応のものですが、文字盤表面などは剥がれもなく状態はまずます良いほうだと思います。

 

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ケーシングまで来ました。すっかりキレイになりました。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 270° ビートエラー0.2ms +019 sec/day

右上)文字盤下 振り角 275° ビートエラー0.1ms +015 sec/day

左下1) 3時下 振り角 244° ビートエラー0.2ms +011 sec/day

左下2)12時下 振り角 232° ビートエラー0.1ms +011 sec/day

右下3) 3時上 振り角 210° ビートエラー0.5ms +005 sec/day

右下4)12時上 振り角 215° ビートエラー0.4ms +005 sec/day

最小+005〜最大+019 と、やや進み気味な調整となりましたが、姿勢によって波形が非線形であることやムーブメントのパーツ摩耗状況など総合的にみまして、今後特性が変化することを見越し、余裕をもたせてあります。

 

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完成

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