今日の時計『IWC レディース手巻き時計』

IWC|Ladies Hand-winding Watch Cal.41
IWC|Ladies Hand-winding Watch Cal.41

北海道H.A.様ご依頼品

七夕ですね。私事で恐縮ながら、行きつけの唐揚げ弁当屋に飾ってある短冊の「だんなさまと無事に結婚式が挙げられますように」の句に目がとまってしまい、思わず「がんばれよ」と心の中でつぶやきました。何らかの事情で入籍しても式をあげられない場合もあるのでしょう。オリ姫とヒコ星は年に一度の逢瀬です。私は年中時計たちと一緒です。笑 ええ、幸せですとも。


IWC・レディース手巻き時計(cal.41)

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分解前のタイムグラファーでの測定です。ご覧の通り、もうバラバラです。これではもはや『姿勢によって全く別の挙動をする機械』であって、とても『時計』とは呼べません。最大姿勢差(Δ)120秒と、スクラップ認定寸前です。

 

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テンプの耐震装置には油が1滴も残っていません。毎度おなじみのパターンです。こういう状態で時計を動作させ続けると、ホゾでも何でも摩耗して痛んでいきます。そうすると測定でも明らかなように、波形のおかしな状態となり歩度も振り角も安定せず、正確な時を刻みません。

 

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これはテンプの受けからバランス本体を外したところ。青いひげぜんまいは比較的よい状態ながら、天真のホゾは少し摩耗しているようです。交換パーツは非常に高価ですから今回はなんとか継続利用で頑張ってみます。ひげぜんまいの外端カーブの終端にあるヒゲ持ち付近が、カーブが少し崩れています。矢印の方向へ曲げて修正します。こうしたほんのちょっとに思える修正で、ぜんぜん別物になるのがテンプです。

 

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すべてのパーツを分解して洗浄しました。

 

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香箱の内部も汚れて油も乾ききっています。油の乾いた状態で無理に使い続けたため、香箱内部のメッキが部分的にはがれている様子が分かります。トルクの低下や巻き乱れの原因になりますが、これはもう元には戻せません。香箱ごとゼンマイを洗浄して注油しなおします。

 

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修正完了後のテンプの様子です。静止した状態で『振り石』が『アンクル中心』にあることを確認し、振り石の位置がずれている場合は修正します。

 

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アンクル中心とは写真のように『天真』から『アンクル』のホゾが入る穴石を通って、『ガンギ車』のホゾが入る穴石をまっすぐ一直線に結ぶ線のことです。アンクル中心の上にテンプの振り石の中央が重なる必要があり、この線上から振り石が左右どちらかにずれていくことで、ビートエラー(片振り)となって、誤作動や止まりの原因となります。ビートエラー 0.0ms とは、テンワが右方向/左方向に往復運動するときの振り角が等しく、デットポイントとなる点がちょうどアンクル中心と一致していることを示します。ビートエラー量が増えていけば、その時間の長さだけ左右いずれかの振り角が大きい(反対側は必然的に小さい)ことを意味します。

 

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ムーブメントの組み立ての様子です。3番車のホゾに若干の摩耗が見られる他は、まずまず良好でした。

 

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巻き上げ機構とアンクルまで組んだところです。

 

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最後にテンプを組んでベースムーブメントの完成です。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 238° ビートエラー0.5ms +035 sec/day

右上)文字盤下 振り角 240° ビートエラー0.5ms +022 sec/day

左下) 3時下  振り角 192° ビートエラー0.4ms +022 sec/day

右下)12時下  振り角 190° ビートエラー1.0ms -004 sec/day

主要4姿勢で12時下だけが遅れ傾向となり、ビートエラーも著しく他の姿勢と量がかけ離れています。これは12時下にしたときだけ、テンプが片振りになってしまっていることを示します。原因のひとつは天真のホゾ側面が摩耗により変形していて、断面図が真円でなくなってきているなどがあります。必ずしもテンプとは限らず、アンクル真の場合もあります。またホゾの問題ではなく、まれですが穴石に問題があることもあります。。こうしてあげていくと、とてもたくさんのポイントがチェック対象になることが分かると思います。全てを理想の状態に保つ事は容易ではありません。よく『一生モノ』は、何もしなくても一生持つと勘違いしている方がいますが、とんでもない誤解です。手入れが悪ければ一生どころか四半世紀と持ちません。IWCはきちんとメンテナンスさえしてやれば、子や孫の代まで持つ時計です。

 

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文字盤と剣付けに進みます。シンプルですが、文字盤に彫られた模様が気品を漂わせています。

 

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ケーシングまで進みました。ケースは18金製です。同じキャリバーNo.のムーブメントでも、ステンレス製のケースに入っているものと、18金やプラチナのケースに入っているものではグレードが違うことが多いです。(明示的にランク分けしている場合もありますが、隠れグレードが存在するものもあります)出来のよいものは優先的に上位グレードモデルに使われるのは、どの世界も似たようなものでしょう。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 253° ビートエラー0.3ms +030 sec/day

右上)文字盤下 振り角 240° ビートエラー0.5ms +021 sec/day

左下1) 3時下 振り角 200° ビートエラー0.4ms +015 sec/day

左下2)12時下 振り角 187° ビートエラー1.3ms -004 sec/day

右下3) 3時上 振り角 190° ビートエラー0.6ms -011 sec/day

右下4)12時上 振り角 190° ビートエラー0.1ms +025 sec/day

12時下をギリギリ0付近にもってくると、3時上をのぞいて全て+20秒近くの進みになるので、実使用上は一姿勢だけが遅れる場合も許容できることがあります。とくに3時上というのは着用してみればお分かりの通り、つり革などにつかまるような動作の時以外にはまず起こりませんので、無視してもほとんど差し支えない姿勢です。また、秒針がない二針モデルということもあり、なんとか合格と言えます。分解前の特性を思い出してください。まだスクラップするには惜しい時計に甦りました。

 

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研磨前(左)研磨後(右)フルポリッシュ

 

IWC41-16

研磨前(左)研磨後(右)

 

IWC41

完成

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