今日の時計『ロンジン・リンドバーグスピリット』

Longines|Lindbergh Spirit
Longines|Lindbergh Spirit

神奈川県R.M.様ご依頼品

ご依頼主の友人が長年放置していたものを譲り受けたとのこと。あまり使っていなかったようで、外装も中身もまだまだこれからという状態です。不思議なことに家族や友人など“人の縁”で伝わった時計には良品が多い気がします。相当使い込まれていても救いようがあったりします。オークションなど中古品で出所が全くの他人から流れたものは、大金を使ったあげく、まがい物をつかまされてしまったり。ぜんぶがそうとは言いませんが、やはり売り手は少しでも高く売りたいのが人情ですから、不都合な事実が隠されていることもあるわけです。得よう得ようとするほど何かが逃げて行く。それは与えようとするほどに寄って来る。めぐる時計に刻まれたドラマが、裏蓋の奥に見え隠れします。


ロンジン:リンドバーグ・スピリット L2.618.4

Longines7750-1

分解前の測定から。平姿勢で300°近く振っており、歩度も10秒〜15秒前後と問題なし。しかし、手でリュウズを巻くと自動巻ローターが高速で回り出す“共回り”現象が見られるとのことで、オーバーホールのご依頼をいただきました。さっそく分解していきます。

 

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共回りの原因は経年による油切れと汚れなどにより起こります。幸いパーツの摩耗や損傷はなく、交換が必要なパーツは見当たりませんでした。

 

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クロノグラフともなるとパーツの量も多くなります。伏せ瓶も小分けしつつホコリや汚れからパーツをしっかりガードします。

 

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分解前(左)は汚れもみられないものの、注油は乾ききっています。洗浄して注油しなおしました。(右)

 

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分解前は耐震装置にほとんど油が残っていません。(上)しかし、わずかでもまだ残っていれば救いがあります。完全に乾ききったまま動作させると、テンプのホゾを痛めてしまう原因になります。そうなるともう交換しない限り元の性能に戻ることはありません。(そんな時計は実に多いです)洗浄後に耐震装置への油をしっかり差し直しました。(下)

 

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ムーブメント本体の組み立て。まずは裏回りの巻き上げ機構から。おおきなタマネギリュウズが印象的です。ロンジンはさすがに老舗だけあり、この辺は「わかってるなあ」と感心します。cal.7750 はそれほど手巻きが重いわけではないものの、ゼンマイ持続時間が50時間以上あり長いゼンマイが入っていますので、手で完全に巻き上げるのは少し疲れます。こういう径の大きなリュウズだと楽に巻けるという訳です。ケーシングしたとき、デザイン上のアクセントとしても上手い使い方と思います。(自動巻きの時計はあまり手で巻かないほうがいいので、その点はご注意ください)

 

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続いて表輪列の組み立てです。あまり使われていなかった様子で、パーツの状態は新品とほとんど変わりません。

 

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ベースムーブメントの完成したところ。ペルラージュ模様が受けや地盤に彫り込まれていて、綺麗な仕上げです。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 297° ビートエラー0.0ms +003 sec/day

右上)文字盤下 振り角 301° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下) 3時下  振り角 266° ビートエラー0.0ms +008 sec/day

右下)12時下  振り角 265° ビートエラー0.1ms +008 sec/day

なかなかゴキゲンな特性で問題ありません。

 

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クロノグラフ機構の組み立てに進みます。一つ一つのパーツを組んでは動作させて、正しく機能することをチェックしながら組みます。うっかりチェックをし忘れたまま進むと、後で発覚したときにまたそこまで分解してやり直しになるため、大変なタイムロスになります。時計師になりたての頃は随分失敗もしましたが、この頃はほとんど全て一発で組んでそのまま完成しています。

 

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クロノグラフ機構に加えてカレンダー機構も組んでいきます。

 

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デイデイトのディスクまで組み、文字盤を取り付けて、剣付けまで完了しました。クロノグラフ秒針など、針の軸にまで塗装されているため、取り付けるときは塗装を落とさないよう神経を使います。クロノグラフ針は帰零(リセット)の衝撃に耐えられるよう、とてつもなくガッチリ押し込まれています。そのため、取り外す時が最も難しく、針の袴が取れてしまったり、勢い余って他の部分を傷つけてしまったり、あまり心臓に良い作業ではありません。メーカーなら交換パーツはいくらでもありますが、ほとんどの修理業者にはありません。(そして針を取り寄せると異様に高いんだなこれが。苦笑)どうか多少の擦り傷程度はご勘弁ください。プロがやっても付いてしまうことがあるほどの難易度です。(素人がやったら傷どころでは済まないです。間違いなく壊します。ホゾ折ります。文字盤ぐちゃぐちゃになります。ホントです。)ひげぜんまいはニコニコ直せる私でも、クロノグラフ秒針を抜くときは目が据わります。

 

Longines7750-13

ケーシングまで完了です。シースルーバックですから、いつも以上に毛ゴミなどがないか厳重にチェックをします。裏蓋を閉じた瞬間、ホッとして背中から何かが抜けて行くほど神経のスイッチが切れます。「ああ、今日も無事になんとかやり遂げた」神様ありがとう。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 311° ビートエラー0.0ms +000 sec/day

右上)文字盤下 振り角 322° ビートエラー0.0ms +004 sec/day

左下1) 3時下 振り角 288° ビートエラー0.0ms +004 sec/day

左下2)12時下 振り角 276° ビートエラー0.1ms +004 sec/day

右下3) 3時上 振り角 269° ビートエラー0.1ms +008 sec/day

右下4)12時上 振り角 284° ビートエラー0.0ms +008 sec/day

最大振り角320°と目一杯振っています。最大姿勢差Δ8秒とまずまずの性能です。機械式時計はご使用と共に少しずつ特性も変化していきます。あまりメンテナンス直後の状態にこだわらず、変化を楽しむ余裕を持ってつき合うほうが楽しいと思います。また、測定機上の結果と実際に使用した時では差が出ることもあります。あくまで上記は参考のデータです。

 

Longines7750-15

外装研磨サービスはライトポリッシュです。ほとんど傷がなかったため、ライトでも十分にピカピカです。

 

Longines7750

完成

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