MHR・マハラ

MHR|mahara Genève (cal.ETA2824)

東京都J.H.様ご依頼品

一つ前のBVLGARIと同じ方のご依頼です。こちらはオーバーホールに加えて、外装研磨サービス・手仕上げのご希望をいただきました。

このところ、立て続けにブログ掲載オプションのお申し込みがあった分の処理を急いでおり、ちょっと疲れております。腕そのものは鳴っております。5月、10月くらいが暑くもなく寒くもなく、集中して一気に作業がはかどりやすいので、たまりにたまった修理待ち時計の修理作業を進めております。次の掲載予定は10月中旬か下旬頃までに数件、あとは11月以降となります。(それでようやくお盆前くらいまでに申し込み・受付した分が対応完了となります。7月〜8月頃に申し込んだ方、もうしばらくの間お待ちください)


MHR・マハラ

分解前の測定ですが、全く動作いたしません。今回は中身のムーブメントがETA2824であることが分かっており、最悪の場合でもムーブメントを丸ごと新品に交換してしまえば修理自体は可能であるため受付いたしました。全く動かない時計というものは、中身をみてみないと何が原因なのか予断を許しません。果たして今回はどうでしょうか。

 

裏蓋をあけたところ。ケースと裏蓋との接点を中心に盛大な赤サビが生じております。不思議なことに、サビやすいブランドのケースはある程度決まっているような気がします。同じお客様がご使用になっていても、例えば今回はブルガリのほうはケースには全くサビがございませんでした。これはやはり製造メーカーによって採用するステンレス材料や加工方法の違いによるものでしょう。いつも厳しいコメントをしがちな国産ブランドで往年のセイコーなどは、実はあまりこの手のサビが見られません。さすがに時計専門メーカーでは素材レベルまで吟味しているものと思われます。ETA採用機で本業がファッションブランドなどで作った時計では、しばしばこうした弱点がみつかることがあります。

 

リュウズを外したところ。根元のカシメがすっかり緩んでガタガタになっており、巻き真をまっすぐ固定できません。当然ながら、このような状態で手でゼンマイを巻き上げたりはできず、空回りしてしまいます。パーツのカシメは、このリュウズだけのために作られた専用工具がないと行えない構造のため、残念ながら当工房ではなす術もなく、リュウズと巻き真ごと新しい汎用品に交換することになります。なるべくデザインや形状が近いものにしますが、全く同じものはありませんのであらかじめご了承ください。

 

ケース本体上面の一部を拡大したようす。ベゼルと風防の隙間にも見てわかるほどのサビがはみ出しております。オリジナルの風防は強化ガラスの一種のようですが、無反射コーティングの摩耗による剥がれや、一部打ち傷などで凹みも何箇所か見られます。これもオリジナルと全く同じ交換パーツは入手できませんので、汎用品からサファイヤガラス製の風防に交換します。強度的にはむしろオリジナル以上の品質のものですが、表面のコーティング材料などの違いにより、文字盤の色味などが交換前とは違って見える場合があります。

 

ケース側面のリュウズが差さるパイプ部分。パイプは真鍮製でかつ特殊形状(ネジロック式の内溝あり)ですが、汎用タイプのステンレス製パイプに交換します。

 

ベゼルを取り外して裏返したようす。やはり全体にサビが目立ちますね。こういう見えない部分のサビもよく落とす必要がありますので、研磨サービスは手間と時間がかかります。

 

風防まで分解したところです。ガスケットにもケース本体から生じたサビがこびりついています。素材は樹脂ですから、サビを落とせば再利用もできそうに思いますが、実際には経年の使用により変形したり、サビも奥まで食い込んで思うようにはキレイに除去することができません。少しでもサビが残っていると、そこからまた伝染しますので、ケチらず新しいガスケットに交換するのがいちばんです。

 

ケース本体の研磨が完了し、仮組みしたところ。のちほどムーブメントやパイプなどと合わせて、新しいリュウズの取り付けを行います。研磨によりかなりの部分の小傷は落とせましたが、今回は深めの打ち傷がケースやベゼルの至る部分にみられ、完全には落とせなかったところも少しあります。全体的にはご覧の通り、ピカピカになりました。

 

ムーブメント本体のパーツを全て分解・洗浄したところ。結局のところ何かが壊れていた訳ではありませんでしたが、巻き上げ機構のパーツが一部脱落を起こしており、おそらく壊れたリュウズで操作した際に通常は起こりえないような力が働いて、内部パーツの噛み合いが外れてしまったため、その部分がストッパーとなってしまい時計の動作を妨げていたようです。こういうこともあります。

 

香箱のゼンマイも洗浄と再注油を行いました。こちらも特に問題は見られません。

 

ムーブメント本体を組み立てていきます。並グレードで装飾は施されていない機械ですが、もちろん作業に手抜かりはありません。

 

ベースムーブメントの完成。ピクリともしなかった時計は、オーバーホールにより無事に再び元気よく動き出しました。

 

ベースムーブメントの測定です。各姿勢とも動作はよく揃っており、合格です。

 

カレンダーまわりと、文字盤・剣つけ。サーモンピンクの文字盤が素敵です。よく見ると文字盤は3針のみタイプで、カレンダー用の窓は切ってありません。ムーブメント自体はカレンダー機能があるため、少しもったいないような気もしますが、これがデザインというやつか、、、と欧風の感覚を見せつけられた思いです。

ええ、もちろんカレンダーはちゃんと『0時』で切り替わるように針をつけさせていただきましたよぅ。目では見えずとも、カチャっと音でわかります。あ、もしかしてそういうコンセプト?(そんなはずはありません)

 

真横からみたところ。針の素材にはこだわりがあったらしく、鋼鉄製です。かなりカッチリとした取り付け感で、見た目にもシャープな印象を与えています。真鍮製の汎用タイプの針だと、どこかなんとなく安っぽいのですが、さすがにデザイン・メーカーらしく、こういう所は他のブランドにないオリジナル性の演出が上手だなあと思います。

 

ケーシングまできたところ。新しいリュウズもほどよく合ってくれて、ホッとしました。各メーカーでパイプやリュウズの大きさや規格はまちまちなので、手持ち品でうまく合うものを探すのはいつも苦労します。

 

最終特性

左上)文字盤上 振り角 260° ビートエラー0.0ms +002 sec/day

右上)文字盤下 振り角 264° ビートエラー0.0ms +004 sec/day

左下1) 3時下 振り角 236° ビートエラー0.2ms +009 sec/day

左下2)12時下 振り角 232° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

右下3) 3時上 振り角 231° ビートエラー0.0ms +003 sec/day

右下4)12時上 振り角 233° ビートエラー0.2ms +007 sec/day

全く問題がなく、歩度もよく揃っております。あまりに良好なので見落としましたが、これも実は測定機の拘束角設定が少し不適切で、実際には文字盤上で300°以上振っていると思います。しかし、測定ミスにもかかわらずこれだけ振っている数値が出てくるとは、、ETAの機械は大したものです。

 

Before & After

全体に小傷があると、光を乱反射するため、ケースの金属が白っぽく見えます。研磨され、表面が滑らかなものは、反射角度が一点に集中するため、光を反射していない面は黒っぽく見えます。(反射させてしまうと一面にピカッと光が強すぎて、今度はカメラのレンズでうまく像を捉えられません)

こればかりは、実物をみないとなかなか感じが伝わらないですが。きっとご依頼主の笑顔がみられますように。そう願っております。

 

【MHR (ETA2824)】
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□オーバーホール料金  自動巻     ¥ 20,000
□追加パーツ費用
 ・汎用リュウズ&パイプセット一式 ¥ 10,000
 ・サファイアガラス風防      ¥ 10,000
 ・ガスケット類          ¥ 2,000
□その他
 ・研磨サービス 手仕上げ                  ¥ 10,000
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合計金額                                           ¥ 52,000

 

 

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