今日の時計『オメガ・スピードマスター・オートマチック』

OMEGA|Speedmaster Automatic Cal.3220
OMEGA|Speedmaster Automatic Cal.3220

東京都Y.H.様ご依頼品

ご家族様が急逝されて、遺品となった時計の修理ご依頼です。持ち主が機械式時計を愛好するきっかけとなったお品とのことで、随所に使用による跡があり、フルポシッリュも同時に行うことに。1カ所リュウズの真上あたりに深い傷があり、そこだけは研磨不能な箇所のため残りました。故人の生きた証ですから、形見となるお品には面影があっても良いのではないかと思います。


オメガ・スピードマスター・オートマチック(Cal.3220)

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リュウズを巻いても手応えがなく、針もピクリともしません。“No Signal” と表示され、全く鼓動していないことが分かります。動いている時計にそっと耳を近づけると『チッチッチ』という音がしますね。これは刻音と呼ばれますが、測定器はマイクロフォンで刻音を読み取ることで動作状況を解析します。

 

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今回はオーバーホールとフルポリッシュのご依頼です。ケースを分解して先に研磨から行うことにしました。フルポリッシュはヘアラインの入れ直しをするため、リュウズとクロノグラフのボタンなどが邪魔になります。写真のようにパイプまで除去する必要があります。手間が多くかかりますので有料となる要因のひとつです。

(実はこれがかなり厄介で、パイプは簡単に抜けてくれません。下手にやるとキズが付いたり、折れたりして再利用できませんから、パイプも新品に替えねばなりません。しかしフルポリッシュにその料金は含まれません。やっちまったら自腹なんです。簡単そうに見えるかもしれませんが、パーツを痛めず取り外すには相当な技術が必要です。)

ちなみに、ライトポリッシュの場合はパイプまでは抜き取りません。必要な手間と作業にかかるリスクが全く違うのです。

 

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ヘアラインを入れ直す部分はあらかじめ鏡面に磨きあげておきます。(写真上)その後、ヤスリを使って手作業で目付けします。(写真下)一気に迷いなくヤスリがけしないと、線がキレイに入りません。手元が狂って余計な部分にはみ出したりしたら当然また鏡面研磨からやり直しです。意外とアナログな方法でやっております。

なお、当工房で可能なヘアライン加工は、直線で引ききれるものに限ります。ケースが複雑な形状で機械で入れるような模様(例:旭光仕上げ)や、曲線のヘアラインなどは専用設備がないと入れることができません。

 

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ケース側面にヘアラインが入ったところ。この後、ブレスレットも研磨&ヘアライン入れ直ししました。

 

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外したパイプなどを再インストールします。

 

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ベゼルと裏蓋、リュウズを装着して、ケース単体のみで防水チェックをします。今回のスピマスは製造から20年以上経過しており、アンティーク・非防水扱いのため防水の保証はしておりません。しかし、保証には関係なくテストします。パイプの取り外しなどをした場合は、従前の状態と異なっているかも知れないからです。(正しくパイプが装着されているか確認の意味で行います。)

 

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こちらは代わってムーブメントの分解とパーツ洗浄を行ったところ。ゼンマイが切れていたので、新しいものに交換します。

 

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香箱の中には油が残っており、それほど汚れが酷いわけでもないのですが、ゼンマイは切れるときには切れてしまいます。新しく入れ替えて注油します。

 

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一見ムーブメントが2台あるように見えますが、これで1個分です。オメガcal.3220は、ベース部分にcal.2892を用い、クロノグラフ部分はデュボア・デプラのユニットを合体させることで、ひとつの時計として完成しています。同じスピマスでも手巻きのcal.861系や、オートマチックではこれとは別にcal.7750系などがあります。その中にあって、cal.3220 は個性的なモデルです。スピマスと一口に言っても、このようにバリエーションが豊かです。

 

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ベースの cal.2892 は当工房ブログで何度も取り上げていますので、今回は詳細を割愛します。ベース部分の完成により、部品の半分が無くなりました。残りがクロノグラフ部分になります。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 278° ビートエラー0.0ms +006 sec/day

右上)文字盤下 振り角 275° ビートエラー0.0ms +004 sec/day

左下) 3時下  振り角 245° ビートエラー0.3ms +014 sec/day

右下)12時下  振り角 238° ビートエラー0.0ms +016 sec/day

特に問題ありません。若干進み気味ですが、クロノグラフ完成後にトータルで修正を行います。

 

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ひと休憩♪

 

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いよいよクロノグラフ部分の組み立てです。左上から右下へと組み立てが進んでいきます。

 

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この機械はかなり厳密に組み立て手順が決まっており、手順を間違えると先に進めなくなってしまう構造になっています。しかも、最後に受けを取り付けるまでクロノグラフボタン操作ができない(やるとバラバラになる)ため、一発で組み上げられるようになるには慣れが必要です。

 

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クロノグラフのモジュールが完成(写真上)、ベース部分と合体させます。(写真下)

 

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剣付けとケーシングまで来ました。

 

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最終特性(クロノグラフON)

左上)文字盤上 振り角 264° ビートエラー0.0ms +002 sec/day

右上)文字盤下 振り角 262° ビートエラー0.1ms +003 sec/day

左下1) 3時下 振り角 234° ビートエラー0.4ms +009 sec/day

左下2)12時下 振り角 220° ビートエラー0.0ms +011 sec/day

右下3) 3時上 振り角 233° ビートエラー0.1ms +004 sec/day

右下4)12時上 振り角 226° ビートエラー0.1ms +003 sec/day

クロノグラフOFFと比べて、振り角は約−10°〜−20°下がっていますが、これはクロノグラフモジュールの輪列を動作させるエネルギーが取られるためで正常です。歩度も合格といってよいと思います。

 

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ブレスレット装着後の様子

 

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反対側

 

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完成

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