今日の時計『オメガ・ジュネーブ Cal.1481』

Omega|Genève Cal.1481
Omega|Genève Cal.1481

東京都R.K.様ご依頼品

70年頃に製造のオメガ・ジュネーブのオーバーホールご依頼をいただきました。スペシャル・エディッションのモデルで、ケースの形状が独特なものになります。ケースのナナメに大きくカットされた部分に旭光仕上げのヘアラインが入っており、ご依頼主様はこの部分を含めて再仕上げを強くご希望だったものの、形状が特殊なこともあり、当工房では製造時のクオリティに匹敵する仕上げの実施は困難であるため、ライトポリッシュとさせていただきました。ヘアラインの入れ直しにはリュウズの差し込み部分のパイプを抜く必要もありますが、特別仕様のモデルにつき外装パーツが入手できず、リュウズもパイプも取寄せできない点もネックとなりました。こういった場合も、うちで出来る限りのことは行います。その典型例です。


オメガ・ジュネーヴ・オートマチック Cal.1481

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分解前の測定から。内部の油が乾ききって、振りも小さくなっていることに加えて、今回の時計のケースはかなり厚みのある頑丈なものであるため、内部の刻音をうまく拾う事ができず、正しく測定できない状態。しかし、よく見るとマイナス10秒程度かな?ということはグラフから人間の目で読み取れます。機械が指し示す数値は『−425秒/日』、、これは本当の値ではない。機械を信用しすぎてはいけません。

それに時計が正確に動かなくなった原因がひとつとは限りません。測定値だけをみて判断できるような簡単なものではないのです。私は測定器のデータのみで故障や不具合の原因を判断しているわけではありません。持ち主が使用していて感じている不便や不具合などをお聞きして、それに実際の時計内部の様子を見て、データと照らし合わせた上で、総合的に判断を下します。機械で見て分かるのは「ただいま時速100km」のような単なる事実であって、そこに至るまでの過程までは機械は教えてくれません。

 

 

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夏は暑さでイライラしがちです。1/100mm がどうとか言う世界は、南の楽園のような国じゃ育たないだろうと思います。道理でスイスはアルプスのど真ん中です。諏訪セイコーも日本アルプスに囲まれてますね。(まあ亀戸のほうは東京にあったわけですが)エアコンというありがたいものがなければ、夏は仕事になりません。ちなみにスイスの時計師は8月はバカンスで仕事なんかしません。この時期にパーツの発注なんかしても、送られてくるのは9月以降というわけです。(それも9月に来ればまだ早いほう)

前置き長過ぎですね。リュウズ外したらゴムパッキンがぼろぼろだった、というお話をするつもりだったのですが、どうも調子狂います。

 

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リュウズを分解したところ。本来あるはずのガスケットのパッキンが、溶けてぐちゃぐちゃです。原形をまったく留めておらず、もちろん防水性はゼロです。持ち主は案外気がつかないものですが、60年〜70年代頃に作られた古いヴィンテージ時計では、こういう状態になったものはかなり多いです。ここまでボロボロに溶けていなくとも、古い時計なら2つに1つは何かしらリュウズまわりに問題があると言って過言でないほどです。画像がグロいこともあり普段あまり掲載してないですが、修理の現場ではサビと並んで日常茶飯事です。

 

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オメガなら純正パーツも入手は可能ですから、今回も取寄せを考えました。しかし、今回の時計はケースを見ても明らかなように、スペシャル・エディッションのものでリュウズも特殊なため、取寄せ不可のパーツでした。かといって放置もできませんので、当工房のできる限りの処置を施します。まずはヘドロ状になったゴムをかき出しているところ。

 

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ケース本体とリュウズの洗浄が完了したところ。

リュウズは分解して再組み立てを前提には作られておりません。それなりの知識と技術、なにより経験が必要になります。あっさりやっているように思われるのがシャクと言うのではないですが、時計師なら誰でも出来るかと言うと、出来ない人は歴30年のベテランだろうと出来ません。ハイリスクの難しい作業です。「これは防水が通りませんから」の一言で片付けて、ヘドロ放置はよくある話。(むしろ誰でも当たり前のように出来る作業なら、高確率で不良ガスケットに遭遇するはずないんです。私のところで直す前に過去にどこぞで直してあるはずですから)

 

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ガスケットは汎用詰め合わせの中から、一番サイズの合ったものを選び出します。リュウズ内部のガスケットのサイズは、ブランドやメーカーごとに全くバラバラで、規格のようなものがありません。(一応スイスにはNIHSという、日本でいうJISのような工業規格は存在するが、ガスケットに関してはメーカー毎に全く異なる仕様のため、カット&トライで対応するのが現実的な対処になる)時計師のノウハウ次第で防水性を活かしも殺しもします。ピッタリなものがストックに無い場合もあるので、運も影響します。出来る限り防水性が得られる努力はしますが、保証はできません。こうした面からも古い時計を防水保証することがどれだけ困難であるかお分かりいただけるものと思います。今回詳しく作業をご紹介する理由でもあります。

 

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完全にピッタリではなかったものの、防滴性能程度は得られる状態に直りました。防水性能とは、静止した状態で水没させても内部に水が入らないことです。防滴性能とは、軽い水しぶき程度であれば内部に水が混入しにくいことです。呼称は似ていますが、全く別の性能を示す言葉ですからご注意ください。

防水性能を得るためには、ガスケットのサイズは相当にシビアです。メーカーではモデル毎に専用品を発注して大量生産するわけですが、リュウズやパイプの径などはある程度の規格に沿って作られているため、ガスケットもそれに合わせたサイズなら一通り揃えています。しかし、中にはこうした特別モデルのものもあって、オリジナルと全く同じサイズのガスケットは汎用品に存在しないことも多々あります。

そのこともあり、基本的には取寄せ可能なモデルであればリュウズごと新品を取り寄せて交換することをオススメしております。今回の処置はあくまで次善の策にすぎません。だからといって、防水性を簡単にあきらめているわけではないのです。保証はできなくとも、こちらで出来る事はさせていただきます。

 

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ムーブメント本体の分解と洗浄が済んだところ。

 

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ここからは毎度おなじみの組み立てです。巻き上げ機構から組んで、輪列の組み立てへ進みます。

 

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輪列受けを組んで、アンクルまで取り付けたところです。

 

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テンプを組み込んでベースムーブメントは完成です。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 249° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 253° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

左下) 3時下  振り角 222° ビートエラー0.0ms +004 sec/day

右下)12時下  振り角 225° ビートエラー0.0ms +015 sec/day

まずまず良好です。

 

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カレンダー機構を組んで、文字盤と剣付けに進みます。文字盤はそれほどでもないですが、針は表面の酸化が目立ちます。針の材質はいわゆるブルースチール(青焼き)系をのぞくと、真鍮などの非鉄金属であることが多く、防水不良の状態で使い続けると容易に表面のめっきは剥がれて、地金の酸化物がブツブツとなって表れてきます。ロレックスのように針そのものが18金無垢で作られていれば再研磨という道もあり得ますが、通常のものは交換するより他に手はありません。というより、再研磨&再メッキ加工を施す工費より、新品に換えたほうがはるかに安く入手できます。(当工房では実費での針交換のみ対応。いずれにしろ針の再研磨や再メッキ加工などは承っておりません。文字盤のリダンも同様です。)

 

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ケーシングまで来ました。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 283° ビートエラー0.2ms +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 290° ビートエラー0.0ms +009 sec/day

左下1) 3時下 振り角 256° ビートエラー0.0ms +016 sec/day

左下2)12時下 振り角 260° ビートエラー0.0ms +002 sec/day

右下3) 3時上 振り角 272° ビートエラー0.4ms +001 sec/day

右下4)12時上 振り角 254° ビートエラー0.4ms +008 sec/day

振りもしっかりしており、歩度もまずまず良好と言えそうです。

 

Omega1481

完成

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