今日の時計『オメガ・スピードマスター・オートマチック』

Omega|Speedmaster Automatic Cal.1152
Omega|Speedmaster Automatic Cal.1152

茨城県M.M.様ご依頼品

ヤフオクで5年落ちのオメガ・スピードマスターを入手したものの、歩度が説明と一致せず、おまけにクロノグラフ・プッシャーの感触がおかしい。それで当工房に修理の依頼と相成りました。時計は外見の状態だけでは判断できません。裏蓋をあけて中身を見てみないことには。歩度(日差)もそれほどあてになりません。なぜならこの時計は平姿勢で1日2秒の進みという、まるで新品時の性能のような説明だったそうです。それはウソではなかったのですが、思わぬ落とし穴が、、、。


オーバーホール事例:オメガ・スピードマスター・オートマチック

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最初に分解前の測定から。12時下をのぞいてほぼ0〜1秒というギリギリな調整。メーカー製造直後はこういう状態のものが多い。しかし、年月が経てばパーツは摩耗し、変形し、分解掃除で油を差し直した後は、これと同じような調整はできなくなります。やるとどうなるか?それは間違いなく身に付ければ遅れる時計になります。タイムグラファーをうのみにして日差0秒に合わせればいいのか。そんな単純なものではないし、それでうまく行くなら時計師なんかいりません。よく「日差何秒にして欲しい」など希望される方がいますが、そういうリクエストは基本的に受け付けません。私の時計師としての経験により、あくまでも機械の状態を加味した上で、最善と思える調整を常にしております。それがいやでしたら他へお願いします。

 

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裏蓋を開けたところ。内部に水が入った跡があり、パーツは全体的に蒸気で表面にスモークがかったような汚れや変色が至る所に見られる状態でした。幸いにして注油は完全に乾いてはおらず、油の差さっている部分は保護されたために、見た目の悪さとは裏腹に肝心な部分は正しく機能しているため、オーバーホールのみで直ります。無理にもう少し使い続けていたら、サビが全体に回ってお釈迦だったと思います。危ないところで間に合いました。

 

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水の侵入経路はクロノグラフ・プッシャーでした。ヤフオクで入手したものの、ボタンの操作がおかしいので当工房に修理の依頼がきたものです。外装は中古にしては良好ですが、ふたを開けてみたら中はこういうことも良くあります。プッシャーはオメガ純正品も取寄せ可ですが、今回はご依頼主様の意向により錆びとりで対処することに。ただし、防水保証はできない点が条件となります。一度錆びたものは交換しない限り元の性能に戻ることはありません。

 

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ムーブメント本体側も、プッシャー・ステムと接触する部分を中心に激しい赤サビが出ています。錆びを落としてそれ以上に進行しないように処理します。黒っぽく変化した黒サビは赤サビと違って内部に腐食が進行しません。見た目は良くありませんが、機能に問題はありません。

 

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全てのパーツの分解と洗浄が終わりました。変色してしまった部分は取りきれず残りましたが、これはもう仕方がありません。

 

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香箱とゼンマイも洗浄して再注油しました。フタで覆われていますから、こちらは中がキレイなままでした。

 

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テンプもまだそれほど変形や痛みがなく、あまり難しい調整もなくささっと済みました。

 

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ベース本体の組み立てです。オメガのcal.1152は、バルジュー(ETA)7750を基本にオメガ専用キャリバーとしてデザインされています。ちょっとした所が”シャア専用”みたいにオメガ独自パーツだったりするのですが、ほぼ7750といってよい機械です。(決して3倍も性能は良くないです念のため)

 

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ベースムーブメントの測定 (半巻き)

左上)文字盤上 振り角 247° ビートエラー0.1ms +004 sec/day

右上)文字盤下 振り角 246° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下) 3時下  振り角 217° ビートエラー0.0ms +003 sec/day

右下)12時下  振り角 214° ビートエラー0.4ms +004 sec/day

分解前でもすでに姿勢差(Δ)5秒程度と精度そのものは良かったため、それ以上には良くなりません。本機は特にCOSC認定マークはどこにも表示されていませんが、このままで十分にクロノメーター・グレードの性能が出ております。

 

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続いてクロノグラフ機構の組み立てに移ります。パーツの変色跡が目立ち、すごく古めかしいように見えますが、これも機能上は問題ありません。

 

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剣付けはcal.7750用の台が使えます。内部とは異なって文字盤側は比較的キレイな状態が保たれていました。

 

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ケーシングまで来ました。今回の処置により、余命半年のような重篤な状況から、普通にまだまだ使える時計へと戻りました。前の持ち主がどんな使い方をしたのか分かりませんが、間違っても水につけたままプッシャー操作とかアホの極みのようなことはしないことです。メーカーが言う『○○気圧防水』というのは、ボタンもリュウズも操作せず、そーっと水中で静置させた状態ならここまで大丈夫ですよ、というだけの話ですから、水中でのボタン操作したりなどの使用は想定範囲外です。(それを知らずにやったとしか思えないサビの出方をしている事例でした)

 

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最終特性 全巻き(クロノグラフON)

左上)文字盤上 振り角 308° ビートエラー0.1ms +007 sec/day

右上)文字盤下 振り角 314° ビートエラー0.1ms +008 sec/day

左下1) 3時下 振り角 279° ビートエラー0.0ms +009 sec/day

左下2)12時下 振り角 283° ビートエラー0.3ms +009 sec/day

右下3) 3時上 振り角 279° ビートエラー0.3ms +010 sec/day

右下4)12時上 振り角 278° ビートエラー0.0ms +012 sec/day

全姿勢差Δ5秒 最大振り角も平姿勢で約310°縦姿勢で約280°と、全く問題ない性能です。ランニングテスト後に歩度の変化の状況を見て、現状と変わらないようであればもう少し全体的にゼロ寄りに詰められそうな余力もあります。しかし、普通の実用時計としては、もう十分に合格と思います。むしろ、長く使ううちには次第に遅れてきますので、毎年オーバーホールに出すならともかく、3年〜5年を使う事を考えたらこの位がちょうど良いのです。(ギリギリに合わせるとせいぜい1〜2年しか持ちません。それで後になって遅れるようになるのが早いとか、商売上手だとか何だとか文句言われても困ります。)

 

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今回は洗浄のみですが、外装はそれでも十分に綺麗です。まあ金持ちのドラ息子がろくに機械式時計のことも知らずにヘンテコな使い方したうえ飽きたのでポイも何だからヤフオクで売り逃げた(辛辣)、、、という、鬼のような妄想をせずにいられない特異な事例でございました。安くないのに、、ネェ。笑

 

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完成

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