ROLEX: Daydate (Ref.18239a)

東京都H.B.様ご依頼品

ロレックスのデイデイトのオーバーホールご依頼です。ご祖父様が所有していた複数の時計のうち、最後まで手放さなかった一本を譲り受けたものとのこと。動作はするものの、カレンダーが正常に機能しない状態です。さて、どこに問題があるのでしょうか。


ロレックス・デイデイト

まずは分解前に歩度の測定を行います。振り角は平姿勢で250°とまずまず振っています。歩度もわずかに遅れの姿勢があるものの、全体でよく揃っており、ベースムーブメントには大きなトラブルはなさそうです。

 

ムーブメントを分解していきます。カレンダー機構のうち、日送り車の歯が複数箇所に渡って欠けてしまっておりました。おそらく、日付変更の前後2時間位の時刻を針が表示しているときに、うっかりカレンダーの早送り操作を行ってしまったものと思います。無理な力がかかると歯が折れます。カレンダーは歯車が噛み合わなくなり、動作しません。新しい純正パーツに交換します。

 

ROLEX純正のパーツを取り寄せて交換します。オークションから時価での入手となりますので、一定ではありません。未開封パッケージ入り品で今回の上代は ¥19,000 となります。

 

今回のお品はS製番であり、1993年頃に製造のものと思われますので、かなりの年月が経ったものです。リュウズは旧タイプで真鍮材に18金のプレートを被せた構造です。メッキよりはずっと厚いので摩耗ですぐに薄くなることはないものの、このように経年と共に緑青が出て汚れもたまります。今回は洗浄・手入れすればまだ使えると判断し、継続使用することに。他メーカーもロレックスのこのねじ込み式リュウズの真似をして次々コピー品が出回りましたが、25年使ってまだいけるのは本家だけです。

 

パーツの分解が完了したところ。文字盤などはパーツケースで保護し、不測の事態により傷などがつかないように厳重に取り扱います。

 

ベンジンカップにパーツを入れて洗浄していきます。「超音波洗浄機でなければダメだ」とか煽るような事をおっしゃる頑迷な時計職人がたまにいますが、そんなことは全くありません。むしろベンジン洗浄で満足に洗浄できないのは腕が悪い証拠です。

 

洗浄が終わったパーツを並べたところ。カレンダーの日送り車をのぞき、交換が必要なパーツは見当たりませんでした。

 

過去に全く分解されたような跡がなく、使い込まれたような摩耗も見当たりません。めずらしいケースです。

 

地板の輪列の穴石が並んでいる部分を拡大。石はピカピカです。

 

バランスを組んで調整します。今回はほとんど直す必要がなく、ほぼ完璧な状態でした。ひげぜんまいもフラットが出ていて、中心もしっかり等間隔に渦を巻いています。

 

香箱のゼンマイも洗浄して巻きなおします。これはワインダーを使ってゼンマイを巻き直すようす。巻き取ったゼンマイをプッシュして、香箱の中に押し出します。

 

香箱に収まったゼンマイに新しい油をさします。

 

ベースムーブメントを組み立てていきます。輪列に香箱から2〜4番車とガンギ車まで乗せたところ。ホゾの状態も良く、摩耗はほとんどみられません。

 

輪列受けを組み、角穴車などを組み付けたところ。ご覧の通り、拡大してもネジ頭はどこにも痛みがなく、まるで新品のようです。正しくネジを取り付けすれば、このようにいつまでもキレイなままのはずなのですが、腕の悪い職人にやらせると、いい加減な作業をされて痛めつけられてしまうことがほとんどです。

 

ガンギ車の次にアンクルを組んでいきます。表面が丁寧に研磨され、面取りもされており、一見してハイグレードな仕上げと分かります。

 

アンクルの受けまで組んだようす。地板はペルラージュ仕上げ。アンクル受けは極光仕上げ。ロレックスが世界中で高級時計として人気があるのは、単に性能がいいだけではなく、模範的な時計づくりをしているからです。一生物にふさわしい品質でアフターサービスも世界レベルで整っています。作りっぱなし売りっぱなしで面倒見が悪ければ、当然客は離れていきます。

 

ベースムーブメントが完成したところ。お祖父様の眼力は確かだったと言えましょう。

 

ベースムーブメントの測定。分解前とあまり差はありませんが、少し全体的に振り角が延びた程度です。ほとんど修正らしい修正が不要でしたので、当然といえば当然ですが、もとの作りが素晴らしいことの証左と思われます。ロレックスの時計は、(もちろんキチンと作業できる腕があることが前提ですが)時計師にとっては非常にやりやすく楽な機械です。

 

カレンダー機構の組み立てに進みます。デイデイトは日車に加えて曜日車をもつcal.3155 が搭載されています。瞬間送り機構は他の追随を許さない独創的で安定度のあるつくりです。

 

文字盤と針付けのようす。文字盤のインデックスは、豪華にダイヤモンドを設えたもの。横からみると通常のインデックスよりもダイヤ分の高さがあるため、わずかに針を上向きに曲げて取り付けしてあります。文字盤だけを社外品に交換したデイトジャストなどがebayなどに出ているのを見かけますが、あれはこの辺の高さの作りが雑であり、真上からみても分かるほど針を変形させなければ取り付けできないような粗悪なものです。本物はダイヤの輝きのグレードもアフターマーケット品より数ランク上のものです。そして、針付けも破綻していません。

 

写真ではうまく伝わらないのですが、実物のダイヤの輝きは仕事を忘れてしばし吸い込まれるように見つめてしまうほどです。魔力というものを感じます。

 

ケースは洗浄のみですが、じゅうぶんにキレイな状態です。シルエットのかっちり感がわかると思います。1度でも研磨するともう角が丸くなってこのようなシャープな稜線が失われます。なるべく研磨はしないほうがいいと思います。

 

ケーシングまで来ました。ケースとブレスレットは18金ホワイトゴールド無垢材。まさにお宝ですね。

 

最終特性

左上)文字盤上 振り角 255° ビートエラー0.5ms +003 sec/day

右上)文字盤下 振り角 255° ビートエラー0.2ms +004 sec/day

左下1) 3時下 振り角 226° ビートエラー0.1ms +001 sec/day

左下2)12時下 振り角 227° ビートエラー0.2ms +004 sec/day

右下3) 3時上 振り角 227° ビートエラー0.6ms +001 sec/day

右下4)12時上 振り角 232° ビートエラー0.5ms +001 sec/day

 

ビートエラーに若干開きが見られますが、ケーシング後に顕著に数値が変化したため、姿勢によりケース固有の残響などを拾って機械がゴーストを数値化した可能性など複数要因が考えられます。いずれにせよ、0.6ms以下であれば許容値であり、実際にはベームムーブメント単体での測定値のほうが信頼性があるため、深刻に考える必要はありません。

よく誤解されますが、数値が立派になるように調整しているのではなく、時計として理想の状態を保つべく作業を行い、その確認として最後に測定でチェックしているにすぎません。

お客さんに「測定機で計ったらコレコレの数値だったから、イクライクラになるように直してもらえます?」という方がたまに来ますが、全てお断りしております。そのようなご依頼は本末転倒であり、そういう楽しみ方をされている方は当工房でのサービスでご満足いただけないと思います。

 

【Rolex: Daydate】
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□オーバーホール料金 自動巻     ¥ 20,000
□追加パーツ費用
 ・ROLEX純正 カレンダー送り車 ¥ 19,000
□その他
 ・研磨サービス 洗浄のみ ¥ 無料
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合計金額      ¥ 39,000

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