Rolex: oyster date ref.15000

ROLEX|Oyster DATE ref.15000

東京都S.S.様ご依頼品

ロレックスのオイスターデイトのオーバーホールご依頼です。ref.15000は1980年代を中心に製造されたモデルでムーブメントはcal.3035 を搭載しています。アンティーク品としては新しいほうですが、製造から30年以上経過しているものですので、内部には問題を抱えていることもあります。

最近よくあるお問い合わせに「いくら位になるでしょうか?」といったものがあります。それは中身を分解して詳細に調べたうえでなければ分かりません。特に交換パーツの必要の有無により、見積りの合計金額は大きく変動します。このモデルのように人気のあるヴィンテージ品はパーツ代のほうがオーバーホール作業料をはるかに上回ることも多く、今回もそういう事例のひとつです。見積もり金額が高いとキャンセルされる方がいて、なかなか進行しませんので、ブログオプションにも掲載事例があまりありません。しかし、実際には中古品の見積もりご依頼の半数以上で何らかのパーツ交換を必要とし、今回同様に合計10万円を超えることも珍しくありません。製造年から20年以上経過した古いモデルの時計を手に入れて、はじめて整備するような場合はとくにご承知おき願いたいと思います。

ただ、初回にしっかり直してしまえば、あとは5年以内おきに再度こちらへ整備をご依頼してくだされば、2回目以降はほぼオーバーホール料のみでメンテナンスが可能です。当工房ではそういう風に整備を行っております。中途半端な整備をするから年中あちこち調子が悪くなって、それでまた別の修理業者を渡り歩いたりして、ますますおかしくされるのです。古いアンティーク品にもかかわらず、2〜3万位で修理を請け負う店も多いのですが、その金額でできるのは小手先の修理だけです。きちんとパーツを新しく交換したら、絶対にそんな料金ではすみません。なぜでしょう。今回の事例は特にその辺りに光をあてて詳しく解説しています。こういう高価なヴィンテージ品をほんとうに長くお使いになりたければ、腰をしっかり据えて長く付き合える時計師をみつけることがポイントになると思います。

 


ロレックス・オイスターデイト ref.15000

分解前の歩度測定からはじめます。振りも精度も出ていますので、タイムグラファーの確認のみで「オーバーホールのみで進行できます」とうっかり安請け合いをしてしまいそうになります。今回はこの年式の時計にしてはめずらしいほど性能が保たれております。性能が出ていれば、内部パーツには問題がなく、少なくともオーバーホールにより悪化することはなさそうだと連想されがちです。多くの業者は見積もりといっても、タイムグラファーでの測定に加えて、裏蓋をあけてバランスや脱進器といった2、3の工程で簡単にその場で分解でき様子がみられて、かつ交換する場合に非常に高くつくパーツのみに絞ってチェックするだけです。中には測定結果だけで見当をつけて、裏蓋すらあけずに見積もり金額を弾き出す所も。

しかし、実際には内部のムーブメントを全て分解し、ひとつひとつのパーツをつぶさに観察しなければ見えてこない欠陥が隠れていることが往々にしてあります。アトリエ・ドゥではオーバーホールを行う時と同じように、見積もりにおいてもムーブメントを分解していき、より内部深くのパーツまでチェックします。これには時間とコストが多くかかるため、見積もり手数料をいただいております。

 

裏蓋を開けて、内部の分解へと進みます。一見すると状態もよさそうですが、よく見ると回転ローターの受けの縁がまるまる削り取られた痕がついております。削り粉などが内部のどこにも見当たらないことから、すでに過去の修理において原因には対処済みと見られますが、こういう個体は過去に問題のあった証拠ですから、注意深くみていく必要があります。

 

自動巻ローターとブロックを分解していくところ。スルドイ人はもう気づいたでしょうか。ローター中央の軸のまわりが少し変です。一部が影のようになっています。さてこれは何が悪いのでしょう?

影ができる=平らではないことを示しています。さてさてどうしましょうか。

 

軸だけを新しいパーツに交換することも可能ですが、今回はローターをまるごと交換することに。ほかにもいくつか交換必要なパーツがあったため、海外から取り寄せます。今やインターネットを駆使すれば、世界中から交換パーツを探し出すことができます。この方法での調達が可能であり、修理の需要があるかぎりはビジネスを続けるつもりです。

当工房は何十年も続く古い地元の時計屋さんではありません。基本的に古い時計のパーツや在庫のようなものはなく、必要最小限のよく出る一部パーツをのぞけば、あとは全て修理毎にオン・デマンドで調達します。そのためパーツ代金はすべて時価です。お寿司やさんと同じです。ネタのあるうちが華です。どこかの大国が乱獲して資源が枯渇してしまうことが恐ろしいことです。(幸い彼らには”まだ”アンティーク時計を弄るという趣味はないようだ)

そのため、修理申し込み時点で入手の見込みのないパーツの使われている時計は、お断りせざる得ないこともあります。同じブランドの同じモデルでも、タイミングによっては運良く受付できることもあれば、できないこともあるということです。

 

今回取り寄せたロレックス純正パーツ群。価格は末尾にまとめてあります。(目が飛び出るよ)

それと少し余計なお話を。見積もり後に金額みてビックリするのか、安くしたいのか、「自分のほうでパーツ用意したいのですが、、、」のような提案をされる方がたまにおられます。それ、お店に入ってメニューを見てから、コーラに350円を払いたくないので、自販機で買ってきたペットボトルのやつをここで飲んでいい?って聞いている位、商売の人には非常にカチンとくる言動で失礼きわまりないものです。それなら自分でパーツ買って、ついでに自分で直したら?って言いたくなる気持ち、お分かりいただけないですかね??

仮にですが100円で仕入れたもの100円で売ってたら、それ商売にならないですよ。私に首を吊れとおっしゃるのでしょうか。何とぞご理解いただきたいです。

 

新しいパーツを取り出して並べて見たようす。こうやって見比べてみれば、あれれれ?と、そのトンデモ修理ぶりが時計師じゃなくてもよくお分かりになると思います。古いほうは軸芯がおそらく大きく曲がったか何かで、カシメ直した痕がありますね。新しいほうも基本的に同じでカシメで軸をとりつけてあるんですが、専用工具を使いますからキレイですよね。古いほうは手持ちのタガネか何かで適当に何箇所かひっぱたいたような痕が見れば一目瞭然です。

この軸芯を交換するための専用工具は持っているんですが、今回はそれで打ち直すと、古い痕がさらにベコベコになって、ローターもすでに一部が曲がっているし、その修正も面倒だわで、万全を期してローターまるごと新しくする判断です。こういうところをケチって小手先修理すると、結局また忘れた頃におかしくなるわけです。

金属はまっすぐなものをひんまげるのはいともたやすいのですが、曲がったものをまっすぐにするのは、とてつもなく大変です。人間の根性のようですな。

 

ローターの受けも傷がひどい旨をご依頼主に伝えたところ、交換してほしいとのことで変えることに。まあ、こちらは性能には直接関係はしないので特に見積もりにも当初は含めませんでした。あとでまた整備されるとき、傷などないほうが過去の修理内容を勘繰ったり、余計な神経を使わなくてすみますから、お言葉に甘えてキチンと直すついでにこれも思い切って交換しちゃいましょう。こちらは残念なことに新古品では手に入らず。中古品から可能なかぎり状態の良いものを選抜で。中古ですら純正ロレックスのパーツはとても高いです。新品同様なら価格はさらに倍はすると思ってください。モノがないです。

 

こちらはクリップというパーツで、ロータの軸を飾り受けに通して裏側から留めるための部品です。馬の蹄のような形をしております。一見するとどこも壊れている様子もないし、こんなもの1つで10,000円とはずいぶん高い気もしますが、知れば知るほど理由があるんです。

真横からみますと、わずかに厚みが違うことがわかると思います。実は、このクリップには3種類ありまして、ローターの軸のスリットに合ったものを取り付けないと、ガタガタとよぶんな隙間が生じて水平に軸が回転いたしません。これも冒頭のように受けとローターが接触を起こして削ってしまう要因のひとつになります。

これはほんの一例で、時計のパーツには専門に扱っている時計師でなければ知らないような細かい情報がいっぱいあります。素人がネットに流出しているロレックスのパーツリストだの何だので名前と番号調べて、オークションあたりで手にはいるかというと、無理です。売り手のほうも分かってなくて、適当に売ってるだけの人もいますので、間違いのないパーツを見分けたり、相手に確認したりするスキルも必要になります。偽物だったり、一部がサビていたり、中古品を加工してMint(新品)とか称して売っている輩がいたりと、なかなか海の向こうの相手も手強いです。

そういうところから、必要なものを必要なだけ適正な金額で手に入れられるようになるまで、たいへんな経験と勉強料はらってます。誰でも簡単に真似できると思わないでください。

 

クリップはこのようにして軸芯を留めます。ちょっとした違いなのですが、キチンと合ったものでなければ、故障の原因になります。ロレックスは秘密主義で有名なブランドで、こういうパーツに関する情報などはいっさい教えてくれず公開されません。時計師の間でも、知己に元ロレックス公認時計師がいるとか、そういうところから漏れ出た生の情報を頼りに個々でノウハウのデータベースを作っているのが実情です。(経験豊富な年配の時計師が威張っていられるのは、そんな人脈関係や知識がモノをいう側面があるので)当工房のように個人で店をやっていたり、経験の浅い時計師の中には知らない人もいるかも知れません。そういうところで修理すると、間違ったパーツのまま組んでムーブメントが痛んでしまうのです。失敗を数え切れないほど繰り返して、時計師として成長していくんです。

時計師たちが個々に必死に得た情報を、部外者がタダで教えてくれないか?なんていうのは、いかにナンセンスかということです。図々しいにもほどがあります。日本人は情報をタダだと思い込んでいる人がまだまだ多いですが、それで飯を食っているわけですから。もちろん当工房でもその手のご質問にはいっさいお答えいたしません。あしからず。

 

新しいパーツに交換した自動巻ブロックを仮組みして、動作をチェックします。交換前は一応修理済みのようでも、なんとなくフラフラとしたあやしげな動きでしたが、交換したことで非常になめらかに、カッチリとした動きになって、ご機嫌です♪

 

こちらも今回交換対象となったパーツのひとつ、三番車。ここまで分解が進んで、ようやくアクセスできる位置にあるため、裏蓋をあけただけ位では状態がわかりません。

 

ホゾの先端をよく目を凝らして見てください。わずかにワダチのような旋条痕がみられます。これは摩耗の初期状態。このまま使えないことはなく、組み直して新しい油を差せば何のことはなく使えるし、動きます。冒頭の通り特性も出ることも分かっています。

しかし、ここからさらに摩耗が進んでいけば、ある日突然止まってしまったり、性能が急激に落ちていくことが予想されます。今動いているからいいやという考え方ではダメです。将来に渡って可能な限り性能が保たれることまで、ちゃんと保証できなければいけません。

そのため、まだ初期段階のうちに交換してしまいます。このあたりの考え方は、古参の時計師の中には対症療法的に後手後手に回って、「ダメになってから変えればいいじゃねぇか」という人も多い。私の感覚ではそれでは遅い。時計が止まれば、お客さんにあの時計店はダメだと言われて、すぐ変えられちゃう。昔みたいに時計修理といえば街中のアノ店しかなくて、いやでもそこへ持っていかねばならなかったのは過去の話。今は、ダメだと思われたらもう二度と来てもらえない。あっさり見捨てられる恐怖。。 E コマースも楽じゃないよ。

 

続いてこちらはおなじみバランスのひげぜんまい調整。このようにピンセットでひげをつまんでエイヤッと曲げたり引いたり押したりと、非常に繊細な力加減で熟練を要する作業です。まさに職人技の真骨頂のような芸当で、技を極めた人はものの数秒で、難しいものでも数分とかからず歪みや不具合を直して理想的な状態に調整し直すことができます。ひげをはじめていじりだした頃なんかは、1日中やっても満足な状態にはできません。むしろあっちこっち余計に悪くなって、どんどん理想的なアルキメデススパイラルから遠ざかっていきます。ため息と疲労感だけが残ります。そんなことを毎日毎日繰り返して、気の遠くなるような時間を修行して、ようやく身についていく技です。

 

まずは左の修正前の画像をじっくりご覧ください。どこに問題があるか分かりますか??

つづいて、右の修正後の画像と見比べてください。こうやって並べて見比べれば違いが分かりますよね。それは写真をこのように編集しているからです。実際の作業では目の前にあるバランスのひげ現物をハッタと睨んで、どこが悪いかをよく観察して見極め、首尾よく最小の工程でパッと直せなくてはなりません。

念のため解説しますと、修正前はスパイラルの間隔が右方向に開いています。(中心軸には逆方向である左のほうに余分な力がかかっていることになり、この状態では理想的な動作にならない)修正後はスパイラルの間隔が等間隔になっています。

ほんとうにわずかな差です。でも、これが気づけない人は時計師になれません。気づける目と、直せる手、その両方が要求されます。

 

香箱からゼンマイを取り出して、香箱と共に洗浄します。このように古いものでは内部の油が乾ききってカスとなってこびりつきます。これは定期メンテナンスを行っておらず、とっくにオーバーホールの頃合いを過ぎてしまったような状態です。普通の時計なら振り角も落ちて精度の具合も乱れ、下手をするとゼンマイが切れてその衝撃で輪列の歯車のホゾが折れたり曲がったりしてもおかしくないのですが、ロレックスは設計が優れており、パーツの品質も群を抜いているため、冒頭でみたような性能が出ちゃったりします。それでお客さんのほうでまだまだちゃんと動くからいいやと勘違いしてメンテに出さずに使い続けて、結局ダメになってから修理に持ち込む、という悲劇が繰り返されます。高価なロレックスを山ほどバブル期に買い漁って、今そのときの遺産がぐるぐる中古市場を回っているような按配です。いっときの景気の良さで手に入れたはいいが、メンテナンスもろくに行わないうちに高く売れることをいいことに結局手放した。所詮はそんなもの。くれぐれも中古品の購入には気をつけましょう。

 

洗浄前と洗浄後。新しいグリスオイルを差したところ。

 

 

全てのパーツの分解と洗浄がすんでパーツケースに収めます。あとは組み立てて再注油していくだけです。この先はいつものようにスイス時計だけにスイスイと進みます。

 

輪列と受けの組み立て。受けなどには若干の整備傷などもありますが、全体としては状態は良好でキレイなほうでした。

 

香箱受けと脱進器まわりの組み立て調整。ネジ頭やミゾの痛みがほとんどないことは好感が持てます。もっとも、過去ほとんど整備されなかっただけかも知れませんが、、。

 

ベースムーブメントの完成。cal.3035は、その後継であるcal.3135と人気を二分する機械です。時計師の間でもやれ賑やかな贔屓合戦が酒席などで熱く展開されることがあります。

使われている鉄が硬いだとか、パーツの作りがああだ、こうだ、と。ネタに尽きることはありません。それもこれも名機の証と思います。これもまた美しいムーブメントのひとつだと思います。

 

半巻き24時間後(T24) 特性

左上)文字盤上 振り角 241° ビートエラー0.2ms +003 sec/day

右上)文字盤下 振り角 249° ビートエラー0.0ms +002 sec/day

左下1) 3時下 振り角 215° ビートエラー0.2ms +000 sec/day

左下2)12時下 振り角 220° ビートエラー0.ms -001 sec/day

右下3) 3時上 振り角 210° ビートエラー0.3ms -001 sec/day

右下4)12時上 振り角 217° ビートエラー0.1ms -004 sec/day

自動巻きの機械なので、身につけている限りは半巻きの特性になることはまずないのですが、腕から外したときということもあるので一応の特性は手巻き・自動巻に関係なくいつもチェックしています。等時性がよく24時間経過後もあまり歩度に変化がありません。とりわけ文字盤上では重要です。(腕から外して、フツーの感覚の人間は文字盤上にして時計を置きますからね)

 

ベースムーブメントに問題がなく、カレンダーモジュールの組み立ておよび、文字盤・剣付けへとすすみます。文字盤にはごくごくわずかな薄い線傷などもあるものの、裸眼ではほとんどきづかない程度。針も表面に油膜があったので慎重に取り除きました。こちらはおかしな傷などもなく、キレイな状態です。

 

ケーシングまで進みました。あたらしい回転ローターが映えます。これだけでもグッと印象が変わりますね。これであと何十年でもこの先”一生モノ”としてお使いになれます。

アトリエ・ドゥのやり方は確かにお金がかかります。今回その理由に焦点をあてて解説させていただきました。なぜ私がその場しのぎのやっつけ仕事をしたがらないか。安くやろうと思えばできるんです。でもやりません。それは本当に時計と持ち主のことを考えるからです。いつまでも末長く時計と共にあってほしい。使い続けて欲しい。長い目でみればキチンと直したほうがよく、当工房をご利用し続けていただければ、お互いにとって有益であるからにほかなりません。

 

最終特性

左上)文字盤上 振り角 280° ビートエラー0.0ms +006 sec/day

右上)文字盤下 振り角 280° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下1) 3時下 振り角 255° ビートエラー0.1ms +002 sec/day

左下2)12時下 振り角 250° ビートエラー0.0ms +003 sec/day

右下3) 3時上 振り角 250° ビートエラー0.3ms +000 sec/day

右下4)12時上 振り角 253° ビートエラー0.2ms -001 sec/day

 

【Rolex oyster date ref.15000】
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□オーバーホール料金  自動巻   ¥ 20,000
□追加パーツ費用
 ・Rolex 純正 3番車     ¥ 16,000
 ・Rolex 純正 自動巻受け   ¥ 40,000
 ・Rolex 純正 自動巻ローター ¥ 40,000
 ・Rolex 純正 クリップ    ¥ 10,000
□その他
 ・外装研磨サービス 洗浄のみ  ¥ 無料
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合計金額                                ¥ 126,000

 

 

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