今日の時計『セイコー・ロードマーベル36000』

SEIKO|LoadMarvel 36000 Cal.5740C
SEIKO|LoadMarvel 36000 Cal.5740C

福岡県A.F.様ご依頼品

お祖父様の形見のセイコー・ロードマーベルをリニューアル!ご依頼主様は今回は珍しく女性の方ですが、とてもイイと思います。お祖父様も自身の愛用していた時計が、こうして世代を超えて使い継がれてきっと喜ばれているに違いありません。こういうご依頼は大歓迎です。奮発しまして、ないものが出て参ります。どういうことなのかは下記リンクよりご覧下さい。


セイコー ・ ロードマーベル 36000

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分解前の外装の状態は、全体的に擦り傷などが多数あり、かなり使い込まれた様子。ケース本体のフルポリッシュと風防の交換を行うことに。なお、ゼンマイが切れているため分解前の測定はできず。こういうものを預かるのは実は少し勇気がいります。(ゼンマイ入れて動かした途端、別の不具合が発覚したりするため。そうかと言って、見積もり時点でゼンマイを入れ替える訳にもいかず、、。)

 

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ケースを分解していくと、ベゼル内側に半ばお約束のサビがびっしり。これはケース内部やムーブメントのものではなく、常に外気に触れている部分なので、サビが出て当たり前。内部に生じたサビほど神経も使いません。ゴシゴシ落として研磨でピカピカに。綺麗さっぱりします。

 

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風防は純正品(SEIKOトキライト)が運良く入手できたため、取寄せしました。管理が悪くて、新古品なのにまるで中古のようなものも多いのですが、今回は昨日作ったばかりのように状態が良く、ほっとしました。プラ風防は新品でも小傷のひとつふたつ付いていることはザラにあるので、2、3個予備を取って一番いいやつを選ぶこともあります。おかげでほとんど利益でないです。(トホホ)

 

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ケースの研磨が完了し、新しい風防に交換したところです。全面が鏡面仕上げなので、比較的作業は楽なほうですが、カンのところに斜めカットがアクセントで入っており、こういう部分を丸っぽくならずに、キリっと平面を保つような仕上げを行うのは少し難しいです。研磨の本職の中には『ザラツ研磨』なる、それはそれは素晴らしい鏡面仕上げもあります。まあ、それが出来たらそれだけで引っぱりだこでメシが食えるほどの技術です。ウチはあくまで時計修理メインで研磨はおまけみたいなものなので、到底そのレベルには及びません。上には上がいるんです。

 

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かわってムーブメント本体の分解と洗浄に移ります。これは輪列受けです。5740Cはご覧のように3番車とガンギ車の入る穴石に、さらに耐震・保油装置がつけられているハイグレードな作りになっています。しかし、金色のバネを外してこの部分の受け石を取るのが難しく面倒なので、外さすそのまま洗ってしまう人が多く、洗浄が不十分となりやすい所です。

 

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上が洗浄前。下が洗浄後。明らかにピカピカになっている様子が分かると思います。こうでなくてはいけないのです。わずかな汚れが残っていると、使用に伴ってすぐに性能が落ちてきます。できるだけ長い間よく動いてもらうためには、わずかな汚れも見逃せません。

 

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目がなれてくると、このくらいの倍率でも状態は判別可能です。表面にわずかでも汚れがあると、このように一面に光を反射せず、必ず影が見えてしまうので、汚れていると分かります。これはもちろん、文字通り『一点の曇りもない』状態です。

 

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こちらはゼンマイの入っている香箱を分解したところ。まだ洗浄してないにも関わらず、異様なほどキレイで、注油も全くされていません。ゼンマイが切れるときは中心に近い部分が折れるようにして切れていることが多いのですが、まれに外端と呼ばれる部分が壊れていることもあります。今回は後者の例です。

 

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パーツの洗浄が完了し、ゼンマイを取り外したところ。外端に本来ついているはずの留め具が外れてどこにも見当たりません。以前にゼンマイを巻いた業者はもちろん知っていたはずですが、おそらく替えのゼンマイがなく、外端を修理する技術もなかったため、そのままケースに収めてしまったようです。

 

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外端に留め具はなく、かわりに申し訳程度に折り曲げてありますが、もちろんこんな小細工ではどうにもならず、ゼンマイは巻けばすべって空回りしてしまいます。(留め具があれば、香箱の壁にひっかけてゼンマイを巻き上げることができます)前回の整備がどういう経緯だったのか詳細不明ですが、このまま香箱に収めるのはちょっと残念な修理です。

 

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新しいゼンマイに交換します。セイコーのオリジナルパーツはすでに市場には残っておりません。同等品として使えそうな近いスペックのものをこちらで用意しました。毎時36000振動(毎秒10振動)の時計は非常に動力エネルギーを要するため、太いゼンマイが入っており、これがまた切れやすいのです。代替で良い部品もあまりないので毎回苦労します。10振動のゼンマイ交換は今回のような形見のお品とか、どうしても直して欲しいだろう場合をのぞき、もう受付やめようと思っています。10振動はその位ゼンマイ交換しにくい機械です。

 

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新しいゼンマイを収めて注油したところです。少し見にくいですが、香箱右下あたりの部分を良く見ると、ゼンマイの外端に留め具がついており、香箱内に設けられた溝(スリット)にピタリとはまっているのが分かります。(分解前の写真と見比べると、違いがさらに良くわかると思います)

 

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香箱のフタを閉じて完成。このモデルはフタに穴石が入っていますが、これは太いゼンマイを巻いた時に生じる、強いトルクに耐えられるようにするためです。たいへん良い作りだと思います。これがなく通常のただの丸穴ですと、香箱の素材はだいたい真鍮ですので、強いトルクに耐えられずに、使う程どんどん擦り減ってしまいます。くどいようですが、それ位に太くて特殊なゼンマイが入っているということです。ほとんど専用設計のゼンマイですから、市場に代替品があるはずないのです。10振動の修理を断る店が多い理由はこれです。

 

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ベース本体の組み立てに入ります。

 

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巻き上げ機構を組んでいるところ。幸い内部パーツの状態は良いほうで、交換しなければならないものは見当たりませんでした。10振動の時計は2番車のホゾや3番車/中間車などの摩耗がひどくて、交換パーツもないので修理不可となるパターンが非常に目立ちます。この時計はちゃんと定期メンテナンスをして大事に使われて来た様子がパーツから伝わります。中を見れば分かるんです。(オークションで入手した整備歴不明の時計を大事に手入れしていた形見です等と称しても見抜けますから、そういうウソな依頼はやめましょう)

 

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巻き上げ機構の完成したところ。

 

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続いて輪列側の組み立て。

 

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輪列受けをつけたところ。ピカピカに穴石が磨かれていると、ゼンマイを軽く巻き上げたときに各歯車は滑らかに回転し、停止直後にわずかに逆回転をみせます。(バックラッシュと呼ぶ)これが見られない場合は、石の汚れや欠け、または歯車のホゾの摩耗や変形など、ごくごく細部のわずかな瑕疵さえもが疑われます。のほほんと組んでいるわけではありません。

 

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ベースムーブメントの完成。

 

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ベースムーブメントの測定(半巻き)

左上)文字盤上 振り角 212° ビートエラー0.0ms +014 sec/day

右上)文字盤下 振り角 218° ビートエラー0.0ms +023 sec/day

左下) 3時下  振り角 196° ビートエラー0.1ms +004 sec/day

右下)12時下  振り角 197° ビートエラー0.1ms +000 sec/day

少し姿勢差があるものの、まずますのところ。むしろ分解前の状態では測定不能だったこともあり、なんとか日常使用できそうなレベルに収まり少しホッとしたところ。(とんでもない数値が出てくれば、またやり直しになります)

 

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最終特性(全巻き)

左上)文字盤上 振り角 276° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 273° ビートエラー0.0ms +024 sec/day

左下1) 3時下 振り角 191°(250) ビートエラー0.1ms +004 sec/day

左下2)12時下 振り角 194°(250) ビートエラー0.1ms +001 sec/day

右下3) 3時上 振り角 259° ビートエラー0.0ms +011 sec/day

右下4)12時上 振り角 262° ビートエラー0.0ms +020 sec/day

3時下と12時下だけ、なぜか振り角が200°以下を表示していますが、もちろんこんなことはまずあり得ません。表示は瞬間的に250°を差し、次の瞬間に190°、また250°に戻る、といった具合で、10振動の時計でたまに見られる特異現象です。(実際は振り角がそういう変化をしているのではなく、機械が正しく読み取れていないことに起因しているようです。目視では振り角が安定していた様子からも機械の誤作動だと判断できます。)いつも言っていますが、機械の表示を鵜呑みにしてはいけません。

一番大事なのは、実際に使ってみてナンボなの?というところ。データなんかは参考でしかありません。

 

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今回はご依頼主様の意向で、新しいベルト()をお付けいただいたので、写真のモレラート製ベルトに交換します。

※当工房では時計ベルトの販売は行っておりませんのでご注意ください

 

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新しいベルトに交換した様子。雰囲気がパッと明るくなりました。

 

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研磨前(左)研磨後(右)

 

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完成

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