今日の時計『タグ・ホイヤー “カレラ”』

Tag-Heuer|Carrera CV2010
Tag-Heuer|Carrera CV2010

神奈川県T.K.様ご依頼品

タグ・ホイヤーといえばコレ、という程の看板モデルであり、ロングセラーのクロノグラフ時計『カレラ』のオーバーホールとフルポリッシュのご依頼をいただきました。ご購入から10年ほどご使用されていて、止まってしまったとのことでしたが、幸いパーツの交換もなく、見た目も中身もすっかりリフレッシュできました。オーバーホールとフルポリッシュのそれぞれのハイライトに分けておりますので、ぜひご覧下さい。


ポリッシング事例;タグ・ホイヤー  “カレラ”(神奈川県T.K.様ご依頼品)

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10年間の使用により、ケースもブレスレットも傷だらけで使用感が強い状態です。特にブレスレットはヘアラインがどの部分だったのかも判然としません。こういった場合にオススメなのが、フル・ポリッシングの研磨サービスです。

 

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ブレスレットは最初に全体の小傷を落として鏡面に仕上げます。(写真左上)次に、鏡面を残したい部分にテープで目張りを行います。(写真右上)その状態でヘアライン用研磨ホイールを用いて表面にヘアライン模様を入れます。(写真左下)同じ要領でテープ目張りと模様入れを繰り返して仕上げます。(写真右下)

 

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研磨ホイールでヘアラインを入れている様子です。(写真左)テープをとって、境界線がきっちり分かれているかチェックしています。問題があればテープを付け直して、ヘアラインの修正を行います。(写真右)

 

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ケース部分もベゼルや裏蓋を取り外して個別に研磨します。ベゼルはクロノグラフ・スケールの部分が塗装されているため、その部分は避けて鏡面の部分のみを再研磨します。今回はケース全体が鏡面仕上げなのでこのまま研磨可能ですが、例えば側面にヘアラインを入れるタイプの仕上げですと、プッシャーもパイプも全部ケースから取り外さないと上手く模様が入りませんので大変です。

 

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研磨が完了したケースの各パーツを元通りに組み上げて、防水チェックを行います。隙間があればケース内部の空気が外に漏れ出してきて、気泡となって表れます。どこからも気泡は微塵も出ていませんので、合格です。

 

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グラスプッシャーを使って、ベゼルをケース本体に取り付けしているところ。(写真左)クロノグラフ・スケールが、風防の内ベゼルと外ベゼルで目盛りが一致していなければいけません。しかし、なかなかこれが1発で決まらずズレてしまう事が多いので、根気強くもう一度取り外してから付け直します。今回は2度目で決まったので良い方です。(写真右下)

 

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オーバーホール済みの内部ムーブメントを組み込んで、ブレスレットも取り付けして完成です。遠目には新品のショーケースに並べておいても、たぶん誰も中古だとは気がつきません。

 

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手に取ってじっくりと見てしまうと、構造が複雑で研磨がむずかしいパーツ(ベゼルやクロノグラフ・プッシャーなど)は、完全に傷が取りきれないことが分かります。(写真左)ブレスレットの中駒にも深い傷があり、フルポリッシュでも取りきれませんでした。(写真右)

 

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完成

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オーバーホール事例;タグ・ホイヤー  “カレラ”(神奈川県T.K.様ご依頼品)

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今回のお品はタグ・ホイヤーのカレラです。ご購入から10年程で動かなくなってしまったとの事で、オーバーホールとフル・ポリッシングのご依頼をいただきました。『カレラ』はタグ・ホイヤーを代表する定番モデルで、オリジナルは60年代にまで遡ります。こちらのCV2010は1996年以降に復刻されたもので、ムーブメントはETA(valjoux) の cal.7750 を搭載した毎時28,800振動のハイビートモデルです。

 

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止まりの原因は、機止めネジが外れて輪列に引っかかっていたためでした。ネジを取り除いたところ動き出したので、分解前に測定ができました。

左上)文字盤上 振り角 248° ビートエラー0.0ms -043 sec/day

右上)文字盤下 振り角 242° ビートエラー0.0ms -040 sec/day

左下)12時下  振り角 220° ビートエラー0.1ms -050 sec/day

右下) 3時下   振り角 221° ビートエラー0.1ms -053 sec/day

全体的に40秒〜50秒/日の遅れです。波形に乱れが無く、突出した姿勢差もないことから、オーバーホールの実施だけで直りそうなパターンです。

 

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全てのパーツの分解と洗浄を行なったところです。この時計はクロノグラフ機構が付いていますので、部品点数は自動巻きの時計よりもさらに多く、オーバーホールの各工程で必要な作業やチェック箇所も格段に増えます。そのため、オーバーホール料金も最も高い設定になっております。

 

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洗浄後のパーツは、ホコリやゴミから守るために伏せ瓶を使ってガードします。しかし、ゼンマイは伏せ瓶には入りきりませんので、組み立ての早い段階のうちに香箱内へ収める必要があります。写真はゼンマイを巻く道具でメインスプリング・ワインダーといいます。今回は7750用に合わせて、ETA専用のものを使用しています。

 

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ワインダーのハンドルにゼンマイを取り付けて、(写真左上)ハンドルを巻いてゼンマイをワインダーの中へと収めていきます。(写真右上)ゼンマイが入ったら、ハンドルを外して、正しく巻かれていることを確認し、(写真左下)香箱の中へとゼンマイを押し出して入れ替えます。(写真右下)

 

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香箱に収まったゼンマイに、香箱真を取り付けて、新しい油を注油しました。あとは蓋を閉じて香箱は完成です。注油の量は香箱の大きさやゼンマイの長さに応じたものとなりますが、7750は比較的大きな香箱のため、手巻きや一般的な自動巻きのものと見比べてみると、香箱が大きいため注油量が少ないように見えます。実際にはいつも以上の量を差しています。

 

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写真はテンプのひげぜんまいの具合などをチェックしているところです。購入後に今回初めてオーバーホールを実施するため、ほとんど修正の必要な部分はなく、比較的素早く調整が完了しました。この作業も本体の組み立てに先立ち、見やすいように地板にテンプだけをつけた状態で先に行なってしまいます。

 

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続いて本体となるベースムーブメントの組み立てです。最初に裏の巻き上げ機構から組んでいき、表の輪列へと移ります。(写真上)輪列受けを組んで、アンクルやテンプまで組み上げたところで、ベースムーブメントは完成です。(写真下)

 

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ベースムーブメント単体でまず、動作のチェックと測定を行ないます。

左上)文字盤上 振り角 268° ビートエラー0.0ms +001 sec/day

右上)文字盤下 振り角 270° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下) 3時下  振り角 242° ビートエラー0.1ms +010 sec/day

右下)12時下   振り角 246° ビートエラー0.1ms +003 sec/day

ここでは平2姿勢と普段使う上で重要な縦2姿勢の4姿勢のみ掲載していますが、実際には6姿勢全てをチェックしています。全姿勢差がΔ10秒以内と問題なく、引き続きクロノグラフ機構の組み立てへ進みます。

 

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cal.7750 のクロノグラフは部品点数が極力少なく済むように、合理的で周到な設計がなされています。まず、クロノグラフのレバー回りやプッシャーに接続する部分の機構から組み上げていき、(写真上)続いてクロノグラフ秒針のつく歯車や、分積算の針がつく歯車などを組み、7750の場合は自動巻き機構もクロノグラフ機構と合わせて同時に組み上げてしまいます。(写真左下)最後に受けを取り付けて、一気に完成する仕組みとなっています。(写真右下)かなり大雑把にまとめてしまいましたが、実際には個々の組み上げるパーツの手順を1つでも間違うと次の組み立てができません。そして、ひとつひとつのパーツが正しく組まれているかチェックする必要があり、問題があれば修正のための特別なスキルも必要になります。

 

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クロノグラフ機構が組み上がった状態で、クロノグラフONの状態で測定します。

左上)文字盤上 振り角 239° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

右上)文字盤下 振り角 248° ビートエラー0.0ms +006 sec/day

左下) 3時下  振り角 220° ビートエラー0.1ms +008 sec/day

右下)12時下   振り角 219° ビートエラー0.2ms +007 sec/day

クロノグラフ機構の動作にエネルギーが必要になるので、クロノグラフOFFの状態よりも、振り角が下がります。それにより歩度も変化しますが、変化の幅が小さければ優秀な時計と言えます。cal.7750 はこの点で大変優れた特性を有しており、ご覧のようにベースムーブメントの時と同様に0〜10秒以内をキープしています。通常テンプは振り角が落ちて来ると、歩度は進みになるように設計されていますが、差が10秒以上あれば日差もその分ずれますから、あまり良い時計とは言えない訳です。

 

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クロノグラフ機構にも問題がなく、カレンダーと12時間積算計の組み立てに移ります。良く見ると、カレンダーディスクの内側にも、曜日ディスク用の溝が残っていることがわかります。cal.7750は文字盤のデザインに合わせて、デイ・デイト機構にそのまま転用できるように作られており、ここにパーツを追加すれば機能が使えるよう共通の構造になっています。ムーンフェイズとカレンダー針による表示モデルの cal.7753 は、このカレンダーモジュールのみが別の作りになっただけで、ベースの構造は7750と同じものです。この辺りも良く考えられています。

 

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本体の組み立てが完了し、文字盤と針を取り付けします。7750専用のホルダーにセットして、小秒針の取り付けから行ないます。(写真上)プッシャーを使って実際に針の運針や戻しを行い、問題がなければ時針/分針/クロノグラフ秒針の取り付けを行ないます。(写真左下)各針と針の間隔や高さが適切となっているか、入念にチェックを行います。(写真右下)

 

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いよいよケーシングまで来ました。ホコリやゴミが混入しないように気を配りながら、ケース本体にムーブメントを収めます。(写真左)機止めネジでしっかりと固定し、最後に自動巻きローターを取り付けして巻き上げ動作をチェックし、問題がなければ裏蓋を取り付けして完成です。(写真右)

 

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最終特性を測定します。まず、クロノグラフOFFの状態です。

左上)文字盤上 振り角 300° ビートエラー0.1ms +002 sec/day

右上)文字盤下 振り角 297° ビートエラー0.1ms +005 sec/day

左下1)12時下 振り角 273° ビートエラー0.3ms +004 sec/day

左下2)3時上  振り角 273° ビートエラー0.2ms +005 sec/day

右下3)12時上 振り角 269° ビートエラー0.0ms +008 sec/day

右下4) 3時下 振り角 264° ビートエラー0.0ms +009 sec/day

 

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続いて、クロノグラフON の状態です。

左上)文字盤上 振り角 266° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

右上)文字盤下 振り角 249° ビートエラー0.1ms +009 sec/day

左下1) 3時下 振り角 243° ビートエラー0.0ms +011 sec/day

左下2)12時下 振り角 237° ビートエラー0.3ms +007 sec/day

右下3)3時上 振り角 239° ビートエラー0.3ms +010 sec/day

右下4)12時上 振り角 235° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

ON/OFF差は、振り角にして約20°〜40°、歩度の差はいずれも5秒以内で、問題ありません。最大振り角も300°あり、(機器側の設定ミスでLift Angle 52° で計測しましたが、測定結果への誤差は僅かと思われます)cal.7750 のスペック値の理想的な範囲内の性能と思います。

 

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完成

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