
北海道H.A.様ご依頼品
ユニバーサル・ジュネーブのホワイトシャドウのオーバーホールとライトポリッシュのご依頼をいただきました。マイクロローターと呼ばれる小型の回転錐を搭載した、すこし変わったタイプの機械です。ご依頼主様いわく、「自分の時計の中身を見る機会など滅多にない」とのことで、『ブログ掲載オプション』をお申し込みになりました。まさしく当工房の意図するところです。こういった需要にもアトリエ・ドゥのサービスがお応えできたらいいなと思っております。
オーバーホール事例:ユニバーサル・ホワイトシャドウ(北海道H.A.様ご依頼品)
ユニバーサル・ジュネーブのホワイトシャドウのオーバーホールとライトポリッシュのご依頼です。分解前の測定では全体的に日差1分程度の遅れとなっていますが、大きな姿勢差もなくオーバーホールのみで直りそうです。
ムーブメント本体を分解してパーツの洗浄を行い、並べたところです。所々にサビが少しありましたが、交換パーツは古い時計で手に入りにくいため、動作に影響しない程度であればサビ落としで対応し、再利用します。
香箱のゼンマイも取り出して洗浄し、巻き直します。左は分解前で右は注油後です。
テンプの調整をしているところです。上は調整前で下が調整後です。緩急針のヒゲ棒が曲がっていたのと、ひげぜんまいの水平が出ていなかったので、それぞれ修正を行いました。
ムーブメント本体の組み立ての様子です。自動巻きがマイクロローターと呼ばれる珍しいタイプの機械です。ムーブメントを薄型化するために、回転錐を二階建てにせず他の機構と同じ高さにしてあるため、かなり特殊な巻き上げ機構や輪列配置になっています。そのせいもあって、少し頭を使わないと組み立てにくい機械です。
テンプまで組み上がったところで、ベースムーブメントはひとまず完成です。
ベースムーブメントの測定
左上)文字盤上 振り角 284° ビートエラー0.2ms +014 sec/day
右上)文字盤下 振り角 290° ビートエラー0.0ms +005 sec/day
左下) 3時下 振り角 262° ビートエラー0.0ms +010 sec/day
右下)12時下 振り角 257° ビートエラー0.2ms +020 sec/day
+5秒〜+20秒まで、主要4姿勢で姿勢差はΔ15秒です。振りもしっかり平姿勢で280°以上、縦姿勢でも260°近辺でており、十分合格と思います。
自動巻き機構の組み立ても済ませました。マイクロローターの動きもチェックします。ゼンマイを一杯に巻いても、滑らかにローターは回転しますので、機能に問題はありません。小型ながら良く出来た機械と思います。しかし、ケースが非防水構造であることが祟って、長い使用のうちには華奢な造りのパーツが錆びたり劣化したりで問題を起こしやすく、故障が多い機械でもあります。
文字盤と針を取り付けて、ケーシングまで進んだところ。ガラスには傷が多数ありますが、特殊な形の風防なので交換用のパーツは汎用品にはありません。なお、文字盤と針は当工房では基本的に現状のままとさせていただいております。文字盤のリダンや針の研磨などは行っておりませんので、美観を気にされる方は他店にご依頼ください。古いものは古いなりの風格をお楽しみになるのが一番いいと思います。
最終特性
左上)文字盤上 振り角 294° ビートエラー0.6ms +003 sec/day
右上)文字盤下 振り角 300° ビートエラー0.4ms +005 sec/day
左下1) 3時下 振り角 261° ビートエラー0.5ms +011 sec/day
左下2)12時下 振り角 252° ビートエラー0.2ms +022 sec/day
右下3) 3時上 振り角 267° ビートエラー0.4ms +010 sec/day
右下4)12時上 振り角 261° ビートエラー0.7ms +005 sec/day
ケーシング後にビートエラーが一見悪化したように見えますが、これはケースの構造などによっては刻音が反響したりゴーストを生じ、測定器が上手く補正して読み込めないために起こるようで、しばしば見受けられる現象です。実際にはベースムーブメント測定のときに正しく調整済みですので、気にする必要はありません。振りもバッチリ300°マークして、歩度も概ね良好です。マイクロローターの犠牲になりテンプは小さいので、高精度が出にくい機械ですが、これだけ性能が出ていれば年式からすると十分過ぎる位だと思います。
完成