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謹賀新年(2017)

アトリエ・ドゥは創業から1周年が経ちました。

何の経営ノウハウもなく、いつかは独立と思って少しずつ準備はしていたものの、ほとんど思いつきに近い勢いで脱サラして、サイト運営さえしたこともない中でのスタートでした。まったく無謀もいいところで、よくまあ1年でも持ったものだと思います。おかげさまで、どうにか手応えはつかめたように思います。この一年間にアトリエ・ドゥをご利用いただきました全ての方々に、深くお礼申し上げます。

日々、一件一件の時計と向き合い、従業員として雇用されていたときとはまた違った意味での仕事に対する難しさ、気持ちの変化など、多くのそれまでとは異なる発見や感覚を味わいながら、なんとか目の前の仕事をこなしていくだけで、あっと言う間に月日が過ぎたというのが正直な実感です。しかし、これまでの人生の中において最もスリリングで、かつ充実した日々だったように思います。

どこかの組織に属して給料を得ていれば、確かに生活は安定します。自転車操業の何たるかは身をもって経験してはじめて分かります。かといって、誰かに雇われている限り、たとえどんなに成果を上げても、所詮は属する会社なり店なりの看板の株が上がるだけです。私にはそれが納得できませんでした。自分の名前で店を持ち、活かすも殺すも我が腕一本にかかっている。それは簡単なことではありません。しかし、仕事に対するやり甲斐とそこから得られる喜びは、私にとってステイタスや金銭以上の価値があったのです。何より、一人一人のお客様と直接コミュニケーションを取れると言う事は、分業制の進んだ企業の中にいては決して味わうことができないもので、お褒めのお言葉も(時にはお叱りのお言葉さえも!)他の何にも代え難いものです。

機械式時計をとりまく環境は日々変化し続けております。今日の仕事が明日もあるとは限りません。むしろこれからが正念場だと気を引き締めたいと思います。しかしながら、機械式時計を愛するファンがいて、その鼓動が止む事なく時を刻み続ける限り、アトリエ・ドゥは一つでも多くの時計を修理し続けたいと考えております。

今年が時計ファンの皆様にとって、ますます素晴らしい年となりますように。

日々の雑感

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ゴールデンウィークも過ぎて、3月末まで受付した『ブログに載せて500円引き』キャンペーンの対象ご依頼品も全て掲載が完了しました。普段の修理では行わない、撮影&編集という作業が思いのほか大変で、写真を撮りつつ修理を行うかなりハードな日々を送りましたが、古い年代から現行品まで内外の主要ムーブメントの多くをまんべんなく掲載できる幸運に恵まれ、なんとか無事に目的を達成できました。ご協力をいただきました方には、この場を借りまして深くお礼申し上げます。また、今後は新サービスの『ブログ掲載オプション』のご利用も宜しくご検討ください。

ブログ掲載のペースは今後はだいぶゆっくりとなり、目下のところは月に数回程度のご紹介となりそうです。あたふたせずに作業クオリティの向上に専念でき、少し余裕も出て来ると思いますので、作業事例のほかにも何らかの話題などがブログ上で提供できれば良いなと考えております。


今回の写真はETAの交換用パーツ取寄せしたものを検品しているところです。ETAは今年からサードパーティ向けパーツの供給を停止しました。すでに相当量が市場に出回っており、今すぐにETAのパーツが入手困難になるわけではないのですが、不測の事態を避けるため、交換需要が多いパーツなどは手持ちの予備をストックしています。

ETAのムーブメントが使用されている時計は、現行品では一部のマニュファクチュールを除くと、ほとんど全てのブランド時計に採用されていると言ってよい程の状況です。「中身はよく知らない」という方。過去20年以内にスイス製の機械式時計をご購入であれば、高い確率で中身はETAです。当工房のサービスのページで、オーバーホール事例を見ていただければ、あれもこれも、という位に有名ブランド時計にも多く使われている様子がすぐに分かると思います。

ベゼルや風防やリュウズといった外装パーツは、ブランド毎にオリジナルのロゴが入っていたりして、取り寄せも出来ないものが多いのですが、中身は同じETAのムーブメントだったりします。そのため、どこのブランド時計であっても、ムーブメントがETA製であれば修理が可能というわけです。ETAのパーツは今後何十年にも渡ってストックする価値があると言えます。

 

工房主の経歴について

工房を立ち上げて1ヶ月が経過しました。全く無名の状態で、家業を引き継ぐでもなく、どこかの下請けでもなく、ゼロからスタートして顧客が来るのか心配でしたが、すでに何件かの仕事のご依頼をいただきまして、勇気づけられております。この場を借りまして深くお礼を申し上げます。

しかし、ちょっとまだ申込みには二の足を踏む方も多いのではないかと思います。信頼や実績といったものは、一朝一夕には築くことができません。アトリエ・ドゥの評判どころか名前さえ知られていないのですから当然です。そこで、サービスのご利用判断のために足りないと思われる情報を補うべく、今日は工房主が工房を開く以前の経歴について、時計の修理実績を中心にご紹介いたします。

【上海時代】

月)ロレックス・・・主にDJ 金無垢/ステンレス

火)ジャガールクルト・・・レベルソほか多数 金無垢 ダイヤ付き

水)ゼニス・・・エルプリメロ、エリートなど 金無垢

木)オメガ・・・ほぼ全てのモデル 金無垢/ステンレス

金)フランクミュラー・・・トノー型 金無垢 ダイヤ付き

土)HUBLOT/タグホイヤー/カルティエ/IWC/ブルガリ などなど他多数

とにかく爆買いの中国です。金、金、金であります。笑

私はWOSTEPの資格を取得後、上海へ渡航し現地の大手企業で二年間雇われていました。これには目論みがあり、急激に経済がのびて高級時計を身につける中産階級が台頭しても、サービスの質は追いついていないのではないか?という読みでした。これが的中し、新卒新人ながらWOSTEP認定技術者というだけで、いきなり上席ウォッチメーカーとして迎えられました。(さらに実力が評価され、ほどなく『Watchrepair Specialist』なる肩書きを得ます)日本ではあり得ません。新米は電池交換から始めるとか、古い体質と価値観がはびこっています。

こうして、上記カレンダーのような日々を送りました。延べ 1,000件程度の修理およびポリッシングの経験を積むことができました。(一人で中身も外装も全て担当する制度だったため、あらゆる現行品ブランドのしかも最高級品ばかりをいじれる絶好の機会でした)

【東京御徒町時代】

月)〜土)国産/スイス製 60〜70年代 中心にアンティーク品 ステンレス 金めっき

その後、帰国して御徒町でも一年間という短い期間ながら、中国ではほとんど担当する機会のなかった内外アンティーク扱いの時計の修理を、約500件程度行ないました。特に往年のセイコーやシチズンで今でも人気のある代表的なモデルは、ここで覚えました。御徒町にはエライ人がいっぱいいまして、私の上海時代の話なんか珍しくも何ともなく、誰も耳を傾けようともしません。職人ヒエラルキーのようなものが厳然としてあり、キャリアの長さと実績がすべての縦社会です。私はここで覚えることだけ覚えて、さっさと居心地の悪い日本の修理業界から去ることを決意しました。内向きでお互いの鼻息ばかり伺って、外の世界への風通しがない閉塞感に耐えられませんでした。

そして今があります。こんなちょっと変わった経歴の時計師ですが、おかげでアンティークから現行品まで、ほぼ全ての機械式時計を網羅して、修理経験を短期間で身につけました。ですから、仮に1,000万円の時計を依頼されても臆することはありません。ボロボロの古くて動かない時計だって同じように修理します。

私にとってブランドとは価値ではなく、ただの分類に過ぎません。ブランドによってサービス対価が異なるなら、サービス内容に差があって当然ですが、そういう修理をしている所を見た事も聞いた事もありません。同じような修理内容なのにあるブランドというだけで対価が時に何倍も異なるのはナンセンスではないでしょうか?それが料金一律のサービスを思い立った動機でもあり、これまでの業界にはない新しい挑戦でもあります。

本来あんまり自分の話はしたくない性格なのですが、情報のない所に人は来ない、という経験則があります。ご利用のみなさまのご参考となれば幸いです。

アンティーク時計はなぜ『非防水』扱いなのか

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これは防水検査の試験機を使って、テストをしているところです。

アトリエ・ドゥでは、修理する時計が元々防水仕様のものであれば、なるべく製造時の性能の再現を目指しており、とくに現行品は必ずこの試験機を用いて防水性能をチェックすることにしています。アンティーク製品であっても、製造時に防水仕様を持たせて作られた時計であれば、現行品同様に本来は防水性をチェックして、時計の動作と同様に1年間の保証をつけるべきだとは思います。

わざわざ回りくどい表現をするのは理由があります。まず、防水性を保つためには金属ケースやリュウズや裏蓋、ベゼル、風防といった、個々のパーツを組み上げるときに、ある程度の水圧にも耐えるような気密性が必要となりますが、ここが実はかなり曲者です。裏蓋とケース本体のように、取り外しがしやすく、ゴムで作られたガスケット(パッキン)などが交換しやすい部分では、通常あまり問題は起こりません。ところが、リュウズとケース本体をつなぐパイプの部分など、構造的にも弱い部分は、経年の使用によりヒビが入ったりサビが発生したりして、機械強度的にはまだ使用上問題がなくても、防水性能的にはすでに破綻していることが良くあります。

リュウズやパイプの間に入るパッキン(Oリング)も、汎用品で済む場合は交換可能ですが、中には特殊な規格のものや独自構造を持つものもあり、こうした物などは古くなるほどオリジナルパーツの入手が困難で、汎用の代用品ではうまく機能しないこともあるのです。風防まで含めるともっと話は面倒になり、風防をそもそもどのようにしてケースに固定しているか、だけでも大まかに分けて3通りのタイプがあり、接着剤でケースに付けているもの、Iリングパッキンを間に挟んで圧入しているもの、裏蓋のようにOリングまたは平型パッキンをかませ、ベゼルと共にはめ込むことで固定させるもの、などがあります。それぞれに防水不良を起こしたときの対処も違ってきますし、ムーブメントの修理に負けず劣らず、経験とノウハウが必要になります。たかが防水と思うなかれ、です。

時計の持ち主が自分の時計は防水だから大丈夫と思い、時計をつけたままお風呂に入るとか、プールや温泉などに入ってしまったときに悲劇が起こります。時計の部品は鉄ですから、当然ですが水が入ると錆びます。(温泉や海水はなおさらです)中のパーツにまでどっぷり浸水してしまうと、パーツ交換だけで新品がもう一つ買えてしまう位の値段がかかることもあります。こうした悲劇を招くような誤解はどうしても避けなければなりません。

こうした事情もあり、アンティーク製品では例えそれが製造時に防水仕様であったとして、防水テストをして耐えられるのを確認したとしても、保証は難しい現実があります。相当年月の利用により、いつ防水不良を起こすかはほとんど予測不能だからです。(極端な話、テストに通った翌日に不良化したとしても、何の不思議もないほどです)

そのため、アンティーク製品では基本は『非防水』とせざるを得ないのです。

ポリッシュ作例

sakurei

ポリッシング【フル】の作例ができました。ポリッシュのご希望を選択する際のご参考にしてください。

ポリッシュ【ライト】はヘアラインを入れませんが、【フル】は鏡面部分の研磨に加えて、ヘアラインを入れ直しています。ヘアラインを入れ直すと、写真でも明らかなように、かなり印象が変わります。よーく見てしまうと、打ち傷や擦り傷が完璧には取りきれていないことがお分かりになるかと思います。

予算の都合で悲しい事に大型のバフ研磨機を入れることができておりません。そのため、当面はアトリエ・ドゥにてご提供できるポリッシュサービスは、この作例のレベルが限界となります。何とぞご了承ください。 続きを読む ポリッシュ作例