どうして見積手数料が必要か

不動品の時計|タイムグラファーでは “No signal” と表示されるのみ

アトリエ・ドゥではサービスの進行可否にかかわらず、1つの時計ごとに所定の見積もり手数料をいただいております。ここでは、どうして見積手数料が必要なのかをご説明しております。

この写真は実際に見積もりを行っているときのようすです。測定機(タイムグラファー)を使って、時計の刻音をマイクロフォンを使って読み取り、コンピューターが刻音を解析して自動的に時計の動作状況(振り角/歩度/ビートエラー)を弾き出してくれます。

動作する時計は測定機で状態をみることができる

動作している時計であれば、この段階である程度その時計の状態を推し量ることができます。もちろん、実際に裏蓋を開けて内部の様子もチェックしなければ分からない欠陥(サビなど)を抱えていることもあり、測定機は万能ではありません。しかし、測定により新品と同じか近い性能が確認できれば、内部のチェックも要所のみに絞る事が出来ますので、見積もりは素早く行うことができ、費用はオーバーホールの実施のみで済むことが多いです。

ところが、ゼンマイを巻いても全く動かない時計(いわゆる不動品やジャンク品)ではどうでしょうか。測定機では “No Signal” (※)と表示されるだけで、それ以上のことは何も分かりません。こういうものは、実際に内部のムーブメントを分解していき、ひとつひとつのパーツに問題がないかを調べていくことになります。

※ “No Signal” はマイクロフォンで刻音を読み取れない場合も同じ結果となります。そのため、一応動く時計であってもテンプの振りが小さく刻音が聞こえないものは読み取ることができません。いずれにしても、そういう状態の時計においては、内部に問題があります。

これはゼンマイの入っている香箱を分解したところです。本来はゼンマイを巻く真の部分がゼンマイの中心になければいけませんが、写真では蓋のほう(写真右)にくっついており、ゼンマイが途中で切れてしまっています。残りが香箱の中(写真左)に残されています。これではいくらゼンマイを巻いても動力が発生せず、時計は動きません。この時計の不動の原因はこれでした。新しいゼンマイに交換する必要があります。

冒頭でお話した動作する時計の場合と比べ、不動品ではオーバーホール料のほかに、追加パーツ費用が必要だと分かります。このように、不良箇所を特定するためには、オーバーホール作業と同じようにムーブメントを分解していって、原因を調べる必要があります。さらに分解したものをまた元に組み立て直す必要がありますので、見積もりの作業には時間が必要になります。

また、原因が特定できたからと言って、その他の部分に問題がないとは限りません。新しいゼンマイを取り寄せてオーバーホールを実施し、さあ時計が動いたぞ!という段階になって、新たな不具合が見つかることもあるのです。例えばテンプのバランスに問題があって、正常とは呼べない動作のために精度が出ず、歩度が安定しないなどです。

この写真はテンプのバランスを振れ見器にかけて、状態を詳しく調べているところ(※2)です。測定機では “No Signal” と蹴られておわりでした。これではテンプの状態について判断のしようがありません。そこで人間である時計師が目と手でチェックを行います。測定機のように歩度や振り角などの数値が正確に分かるのではありませんが、この作業により期待される性能が発揮できる状態であるかどうかを見極めることは可能です。ホゾの曲がりや摩耗などがないか。ひげぜんまいの状態はどうか。バランスの状態をみれば修理完成後にどのような性能になるかおよその見当をつけることができます。まさにこれこそ時計師の仕事であると言えます。何か問題が見つかれば、これも修理なり交換なりの費用を見積もりに加える必要があります。

このように、ただ不良箇所を特定するのみならず、不動の時計であれば他に原因がないかどうか、一通りチェックする必要があり、これはしばしば通常のオーバーホールの作業以上に時間が必要なのです。むしろ動作する時計のオーバーホールを普通に行うほうが、不動品の見積もり作業を行うよりも、ずっと楽なくらいなのです。

※2 実際の作業のようすをビデオでみる 『ひげぜんまい中心出し』(約5MB)


以上述べてきました通り、見積作業には(とくに不動品において)大変な時間と労力が必要だということが、これでお分かりになったのではないでしょうか。

もう一つの側面として、サービスの信用の問題でもあります。いったん見積もりを出してしまえば、当然ながらその費用でサービスを受けられると考えるのが普通だと思います。追加費用はいやなものです。せっかくお客様の承諾を得て、作業進行の段階になっても、そこでまた新たに別のパーツが交換の必要が発覚したら、、。「実はさらに交換パーツ費用が必要になりました」と、あとになってから言われても、ちょっと納得できませんよね?

アトリエ・ドゥでは本当にやむを得ないごく稀な事例はのぞき、基本的には見積もり料金を後から変更することのないように努めております。また、時計の状態が異なれば修理費用が異なって当然だという、アトリエ・ドゥの営業ポリシーにも沿ったものです。

そのためにも、見積もり作業においてはムーブメントを詳しく調べる必要があります。必然的に時間と労力のコストが生じます。しかしながら、見積もり無料にしてしまうと、ご進行せずキャンセルをされる場合は、この部分のコストを回収することができません。まじめに見積もりすればするほど、キャンセルにより損失を出すことになり、事業として運営に支障があります。

そこでアトリエ・ドゥでは、見積もりの時計1つに対して見積手数料をいただき、サービスをご進行されずにキャンセルの場合であっても、見積手数料はお支払いいただくシステムとさせていただいております。

ただし、時計の状態やご依頼の内容によっては、見積もりが5分で済むものから、時には数時間以上かけても終わらないものもあります。パーツの取寄せ可否などを調べるためには最終的な結論が出て見積もりが整うまでにさらに日数を要することもあります。これらを一律の手数料とすることには無理があり、全てのご注文に対して徴収するのは著しく不平等で、公正なサービス精神に反すると思われます。

そのため、サービスをご進行される場合は見積手数料は合計費用に充当とさせていただき、実質的に見積料金を無料とさせていただきます。


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