Citizen: Seven para water 23 jewels

オーバーホール事例:シチズン『SEVEN』パラウォーター(東京都Y.S.様ご依頼品)citizen-seven

シチズン『セブン』のオーバーホールと風防交換のご依頼をいただきました。フルポリッシュをご希望で、バネ棒まで全て交換したいとの事。自動巻きの『クリスタルセブン』に対し、こちらは手巻き型のモデルで、短い期間にしか製造されなかったのか、あまり数がない珍しい個体のようでしたが、思い切ってイメージチェンジしました。その記録です。

 

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クリスタルの風防は交換用部品がすでに枯渇状態で入手は極めて困難です。ご依頼主様はオリジナルにこだわらず、とにかく綺麗にしたいご意向のため、風防は汎用品のサファイアガラスをご提案させていただき、ご了承を得て交換することにしました。I型リングを間に噛ませて圧入を試みたものの、サイズがピッタリ過ぎて少しゆるいため、強度を補うために紫外線硬化型の風防用接着剤を併用して固定しました。(右下が完成)

 

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分解前の歩度測定です。+10〜+40付近まで姿勢差(Δ)30秒ほど。注油はテンプの耐震装置や輪列のホゾは乾ききっていました。その割には振りも出ているほうです。姿勢差もまちまちながら、あまり極端には開いていませんので、オーバーホールのみで直りそうです。

 

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パーツを洗浄したところ。それほど使われていなかった様子で、摩耗や痛みはほとんど見られず、過去にもオーバーホールをした形跡がほとんどないような状態でした。乾ききってこびりついた油跡を落とすのが少し手間だった位で、かえって組み立てはスイスイと進みます。

 

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香箱を分解したところです。ここには唯一、まだ油が残っていました。オリジナルのゼンマイと思わしきもので、さすがに鉄ヒゲではなく新しい合金製ながら、ゼンマイ外端の形状が板溶着ではなく、手作業のような曲げ加工によるものです。これはまだ懐中時計が主流だった時代のやり方ですから、古い工法です。60年代頃の日本経済が目覚ましく延びて大きく変わろうとする勢いと、舶来品のコピー作りの名残りの両方が混在してみてとれ、面白い例だと思います。

 

アンクル中心

写真の点線は『アンクル中心』といいます。ガンギ車とアンクル、それからバランスの天真のそれぞれ軸中心を結んだ線のことで、スイス式レバー脱進器においてはこれらが全て同じ直線上になければなりません。テンワを挟んで天真の上側にはひげぜんまいが付き、下側には振り座が取り付けされています。振り座にはさらに振り石がありますが、この振り石の位置も基本的にアンクル中心に合わせます。

 

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ひげぜんまいは、水平出し(写真上)と中心出し(写真下)を行ないます。水平出しは文字通り、テンプの天真軸に対して完全に90°直行する水平線上にひげぜんまいが乗るようにします。ナナメだったり、傘型やおちょこ型だったりすると、平姿勢の歩度に差が出ます。中心出しは、ひげぜんまいを理想のアルキメデス曲線になるように、内端から外端まで、ひげとひげの間が全て等間隔になるように調整します。こちらは立姿勢に影響します。この両方がどの方角から見ても等しいよう、かつ同時に満たさねばならず、どちらが崩れていても歩度の姿勢差となって表れます。言葉で説明するのは簡単ですが、実際にやってみると途端に閉口いたします。

 

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組み立て前の地板の様子です。輪列の穴石はこのように光を反射させても、曇りや汚れが少しも見られず、一面にキラッと光を均質に跳ね返すようにピカピカに洗浄を行ないます。穴の内側にも汚れがないようにしっかりチェックを行ないます。基本的なことなのですが、疎かになりがちな部分です。ホコリやゴミの混入を防ぐことと合わせて、意識して重点的に取り組んでいます。

 

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キレイな穴石にキレイな輪列の歯車群が映えます。ホゾもカナもまるで昨日作られたかのように新品でピカピカのような輝きを放っています。50年以上も前の製品でこれほど状態の良いものは中々みられません。

 

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輪列受けを組み付けたところ。注油は受け石の内側にあらかじめ施しておきます。油は多すぎると外へ流れていってしまって、かえって良くありません。少なすぎてもすぐに乾いてしまいます。何事も適量というものがあります。多すぎるよりは、少し足りない位のほうが害がないと言えます。どこかで聞いた話です。

 

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ベースムーブメントの完成です。輪列と香箱が一つの受けで、通称「4分の3受け」とも呼ばれております。懐中時計に多い歴史ある構造ですが、腕時計では採用される事がまれです。(現行品の採用例ではランゲ&ゾーネが有名)同じシチズンの『クリスタルセブン』シリーズでは、これと見た目や構造が全く異なる自動巻きムーブメントを搭載していますが、歯車やテンプなどパーツ単位で見ると作りが酷似しており、ほぼ同時期に共通の手法で製造されたものであることが分かります。

 

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ベースムーブメント単体での測定

左上)文字盤上 振り角 242° ビートエラー0.1ms +014 sec/day

右上)文字盤下 振り角 250° ビートエラー0.1ms +009 sec/day

左下1) 3時下 振り角 205° ビートエラー0.4ms +015 sec/day

左下2)12時下 振り角 200° ビートエラー0.5ms +008 sec/day

右下3) 3時上 振り角 205° ビートエラー0.1ms +014 sec/day

右下4)12時上 振り角 207° ビートエラー0.0ms +017 sec/day

姿勢差(Δ)は分解前に約30秒あったものが、全姿勢でもΔ10秒まで改善されました。ややビートエラーに差が出てしまいましたが、この程度なら実用上問題はありません。

 

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カレンダー機構の組み立てと、文字盤に剣付け、ケーシングまで進んだ様子です。ケースはワンピース構造のため裏蓋は存在せず、風防とベゼルを閉じて完成になります。再び取り外すのは裏蓋のように楽ではないため、ホコリやゴミの混入には特に注意しながら行ないます。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 241° ビートエラー0.3ms +018sec/day

右上)文字盤下 振り角 248° ビートエラー0.2ms +014 sec/day

左下1) 3時下 振り角 201° ビートエラー0.7ms +024 sec/day

左下2)12時下 振り角 205° ビートエラー0.7ms +020 sec/day

右下3) 3時上 振り角 205° ビートエラー0.2ms +021 sec/day

右下4)12時上 振り角 202° ビートエラー0.1ms +021 sec/day

剣付けやケーシングを行なうことにより、特性が微妙に変化することがあります。また、ランニングテストを行なう過程においても歩度や振り角などは変化をしていきます。このモデルは裏蓋を開けて簡単に歩度だけを再調整できるような構造ではないため、極力再調整しなくて済むように変化分を見込んで余裕を持たせた調整を行っています。また、ゼンマイ全巻きから半巻きになる過程でも特性は変化していきますので、全巻きでこの位であれば丁度良いところです。

 

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完成

今回のサービス料金:オーバーホール(手巻き) ¥15,000

外装研磨サービス:フルポリッシング  ¥5,000

交換パーツ費用:サファイア風防  ¥7,000 /バネ棒 ¥1,000

合計:¥ 28,000

 

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