オーバーホール作業の流れ

ここでは、実際のオーバーホール作業の流れをハイライトとしてまとめました。アトリエ・ドゥでの作業は、どんな時計でも基本的にこのページでご紹介しているスタイルで行っております。「オーバーホールっていったいどんな作業なの?」とお感じの方などに、ぜひこちらのページをご参照いただきたいと思います。

《 Seiko 66-8050 のオーバーホール 》

【作業をはじめる前の準備】
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まず、机の上に道具を並べます。机の上が常に綺麗で作業のしやすい環境を整えることは、よい仕事をするための最低限の準備と考えます。アトリエ・ドゥでは必ず毎日机の上の道具は片付けて、作業が終了した机の上には、ほとんど何も残らない状態にしております。
【今回オーバーホールする時計】0
作業例として今回取り上げたのは、SEIKO/セイコーの66−8050です。手巻きの3針タイプの時計で、1960年代後半ごろに製造されたものです。現在では補修用の代替パーツも手に入りにくく、修理業者の多くがアンティーク扱いとしていると思います。

 

【歩度測定】

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最初に時計のファンクション(機能)チェックを行い、動作するものは歩度を計測します。計測器はスイス製のWitschi /ウォッチ・エキスパートIIを使用しております。

 

【分解行程】

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続いて時計の裏蓋を開けて、内部のムーブメントを分解していきます。今回のようなスクリューバックケースのタイプの時計には、裏蓋開閉器にホロテックのハンドル型を用いています。
裏蓋を開けたところ。見積もりを行うときはこの状態まで分解して行うことがほとんどです。
文字盤から針を外します。パーツに傷が付いたりしないよう、ビニールを被せた上から工具をあてて引き抜きます。最も神経を使う瞬間のひとつです。ムーブメント本体のみになったら、ホルダーに固定して分解作業を進めていきます。

 

【修理作業例その1・穴詰め】

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香箱と呼ばれるゼンマイが入っている歯車の真の部分から、角穴車(真の四角の溝に入る)を外したところ。香箱を挟み込む受けとなる部分(輪列受け)のうち、真が接触する穴の部分が、大きく擦り減っています。このままではエネルギーの伝達が安定せず、最悪の場合は時計の止まる原因にもなりかねませんので、タガネを使って穴の径を詰めます。
写真左上から右へと進み、右下は作業完了時の様子です。穴が詰まって隙間が小さくなっているのが分かります。

《タガネ作業のようす》5
タガネは穴を詰めるのみならず、ゆるんだ歯車の真をカシメ直したり、圧入されている部品を取り外したり、他にも様々な用途で利用される時計修理では重宝する工具のひとつです。台座にタガネを通し、上からハンマーで叩いて先ほどの輪列受けの穴のまわりを加工します。
叩かれて変形した穴を、リーマーを使って真円になるよう加工します。うっかり削り過ぎたら台無しですから、慎重に行います。
ちょうど良い径まで削ったら、穴の内側を掃除木に研磨剤をつけたもので磨きます。最後にパーツを組んでみて、部品の動き具合などを確認して完成です。

 

【修理作業例その2・振れ取り】

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写真の工具は振れ見といって、歯車などを単体で挟んで回転させ、軸に対して水平方向にブレがなく偏心せずに回る=安定してエネルギーを伝達できるかどうかを確認・調整するための工具です。刃先は歯にぶつかるギリギリ(0.05〜0.1mm位)のところに合わせて、歯車を回します。その隙間が一定の距離となるよう、上下に歯を曲げて追い込みます。こうした作業ひとつひとつの積み重ねが、組み上がった時計の性能を左右します。

 

【修理作業例その3・穴石の調整】

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写真はHORIA製の穴石調整器です。穴石の径にあわせて押し駒と受け駒を本体にセットし、穴石の固定位置を押し込んだり引き出したりします。この作業により、歯車の上下のホゾと穴石の距離(修理の世界ではアガキと呼ぶ)を最適化します。その量は歯車の種類や場所で若干異なりますが、輪列についてのみ言えばおよそ0.02〜0.05mmの間で調整し、香箱からテンプに近づくにつれて段階的に量が小さくなっていくよう調整します。

【洗浄行程】

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ムーブメント本体の修理が済んで分解された各パーツは、ベンジンカップの中に入れて、一つ一つ刷毛で丁寧に汚れを落として行きます。複雑な構造を持つ特殊なパーツなどは、さらにこの後超音波洗浄や薬品による洗浄を行う場合もありますが、通常は手作業でのベンジン洗浄のみで十分に汚れを落とすことができます。

 

【外装部品の洗浄について】

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外装部品については、おおまかな汚れをブラシを使って水洗い中性洗剤で落とした後、必要に応じて超音波洗浄機による洗浄を行い、最後に乾燥機で完全に水分を乾かします。
また、外装パーツのポリッシュ(研磨)はお客様のご指定状況(研磨なし/ライト・ポリッシング/フル・ポリッシング)に応じて実施いたします。

 

【組み立て・注油行程】

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洗浄後のパーツは、微細なゴミや塵が付着することのないよう、とくに気を配りながら組み立てと注油の作業に移ります。また、この行程以降は素手でパーツに直接触れたりしないようにも気を使います。
注油に用いる主な油を並べてみました。オイルカップの中は常に清潔に保ち、ここにもゴミなどが入らないよう注意します。油は使い切ってから交換するのではなく、定期的にカップの中の全量を新しく交換することで、常に新鮮な状態をキープするように心がけています。

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耐震装置に注油して、テンプのそれぞれ上下の受けに組んだところ。組み立てに先立ち、メインプレート(地板)にまずテンプだけを組んでおき、この状態でテンプのヒゲゼンマイの調整などを済ませてしまいます。

テンプのひげぜんまいの中心出し作業例ビデオ  (約5MB)

《注油作業での留意点》11

注油に際しては、油を注す部分の状態にも気を配ります。テンプ以外にも耐震装置のついている部分などは、汚れがないか入念にチェックし、少しでも汚れていれば取り外して徹底的に清掃します。同様に穴石のホゾの入る部分もピカピカでなければいけません。

わずかな毛ゴミ一本が絡まっただけで、場所によっては時計が止まってしまいます。髪の毛よりもさらに細い、衣料品や紙の繊維のようなものが特に大敵です。
こうしたものが注油箇所に入り込んだりしないように注意深く組み立てと注油作業を進めていきます。

また、注油した油が適切に機能するよう、パーツによっては前処理を施します。右下の白いボトルはエピラム液という薬品が入っていて、ガンギ車やアンクルといった特定のパーツを浸して、油が注油ポイントに留まりやすくなるよう表面処理を行います。

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これは香箱の内側のゼンマイと真の部分に注油しているところです。古い時計ほど中のゼンマイは油も乾ききって汚れがたまった状態のものがほとんどですので、洗浄と再注油が欠かせません。アトリエ・ドゥでは、WOSTEPの教科書通りの“五点差し”を守り、実践しています。

なお、手巻きの香箱はゼンマイを取り出さずにそのまま洗浄しますが、自動巻きのゼンマイは構造そのものが異なるため、必ず取り出して洗浄した上で巻き直します。使う油の種類も異なります。香箱だけが理由ではないものの、オーバーホール費用が異なる要因のひとつになります。

 

【組み立て・最終調整】

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本体の組み立てです。まず、センターの2番車と筒カナを組み、続いて裏回りの巻き上げ機構の輪列を組んでいきます。ひとつの部品を組む毎に、動きが滑らかで問題のないことを確認しながら作業を進めていきます。
再び表輪列に戻って、香箱・3番車・4番車・ガンギ車と乗せて、一気に輪列受けまで組み上げます。丸穴車や角穴車まわりまで組んだところでザラ回しを行い、各歯車の回転に問題がないか最終チェックを行います。

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輪列に問題がなければ、いよいよアンクル(脱進器)とテンプ(調速機構)を組んでいきます。写真はアンクルをまず組んだ状態です。アンクルのツメとガンギ車の歯の噛み合い量なども、最終チェックを行ってから注油を施します。

調速機構と脱進器に関しては、あまりに確認/調整項目が多くなり、内容もより専門的で難解となるため、ここでその詳細をご紹介しきれませんが、ツメの噛み合い量など全てが0.01mm単位での繊細な調整作業となり、時計の最終特性に重大な影響を及ぼす部分です。当然ここでもWOSTEPならではの正しい知識と方法による調整技術が発揮されております。

 

【完成】

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アンクルの次にテンプを組んで、ようやくムーブメントの分解掃除の行程は完了です。この後、さらに仮の歩度調整を行い、文字盤や外装部品を元通りに組み上げて完成となります。オーバーホール作業の終了後も、すぐにお客様に返却は行わず、数日間から2週間程度の慣らし運転(エージング)を経て、最終的な歩度の調整を入念に施し、やっと一連の作業は完結します。

以上が基本的なオーバーホール作業の流れとなります。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。

 

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