Gérald Genta: Chronograph (ETA2892A2+dubois-depraz)

ジェラルド・ジェンタ クロノグラフ

今回はジェラルド・ジェンタ製品の中から、カルティエのパシャを思わせるクロノグラフ時計のオーバーホールのご依頼です。他社がやったらただのパクリと言われます。しかし、パシャもまた彼の手によるデザインですから、これは文句の付けようがありませんね。ケースには使用感があり、前回手入れした業者が不得手だったらしく、フラッシュフィットのネジ頭や周囲にキズなどが見られるものの、比較的まだ新しく全体的には綺麗な状態です。ブランド固有の専用パーツは当工房では取り寄せできませんので、万一を考えて外装は洗浄のみとさせていただきました。

 

分解前の測定から。少し全体的に遅れ気味ではあるものの平姿勢で280°振っており、まだそれほど性能は劣化していない様子。この、『少し遅れ始めてきた時』なども、オーバーホールの頃合いとしてちょうど良いタイミングです。

 

さっそくムーブメントを分解していきます。本機はETA2892A2をベースとして、デュボア・デプラのクロノグラフ・モジュール(ビッグデイトカレンダー付)を組み合わせたもの。部品点数が多く、クロノグラフのほうは先に分解洗浄して、パーツケースに入れてあります。

 

ベースムーブメントであるETA2892A2のパーツの洗浄が完了したところ。

 

香箱のゼンマイも洗浄と注油しました。やはりまだ新しく、ほとんど汚れは見られなかったのですが、ゼンマイは一応ちゃんと取り出して洗浄をしています。隠れたところも見ないといけません。見てから言うものは自信がもてます。見ないで言うものは、それは単なる想像でしかありません。だろう、じゃダメです。それがポリシーです。

 

テンプのバランスを組んで、ひげぜんまいの調整です。以前に手入れした業者がヒゲを壊したようで、傘型に、、。少し妙な壊れ方をしていたものの、なんとか理想的な状態に戻しました。修理業界のある有名な鎮の口癖で『時計を壊すのは、持ち主ではなくて時計師だ』という言葉が頭をよぎります。

 

ベースムーブメントを組み立てます。青ネジの頭などに若干のキズがあるも、受けや歯車などのパーツは比較的良好な状態で、ぱっと見は新品と変わらない様子。地板や受けにはペルラージュやコートドジュネーブ模様が施された、ETA2892A2 ハイグレード・バージョン。こういうものは穴石でも歯車でもキチンとメーカー出荷時に調整されているので、当工房のような修理の現場ではほとんど手を焼かずに再組み立てできます。ただし、理想的なメンテナンスを受けていることが前提になります。(私が下手クソ業者の仕業に毎度ながら目くじら立てる理由がお分りいただけると思います。奴等は私の時間ドロボーです。)

 

ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 308° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

右上)文字盤下 振り角 317° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下) 3時下  振り角 280° ビートエラー0.2ms +007 sec/day

右下)12時下  振り角 283° ビートエラー0.1ms +001 sec/day

振りは分解前から全体的に20°以上あがって、平姿勢では300°超に。あまり振りすぎると、『振りあたり』という現象が起きてしまうので、どんなに振っても320°位までが限界です。これは目一杯その限界近くまで元気よく振っています。このまま自動巻き時計として完成するには元気良すぎですが、クロノグラフモジュールを組むと、それを動かすエネルギーを少し取られますから、完成時はちょうどよくなるでしょう。

 

自動巻ブロックを仮組みして、動きをみます。非常にスムーズな回転で、問題ありませんでした。

 

続いてクロノグラフの組み立てにうつります。ベースムーブメントとは全く様子が異なり、こちらはどのネジも製造されたばかりのようにピカピカでキズひとつありません。(つまり、前回業者はいっさいクロノグラフモジュールの分解や洗浄などを行わなかったということです)分かっちゃうんですから。

 

順を追って組んでいかないとうまく組み立てできない構造で、主なクロノグラフのムーブメントの中でも組み立て難易度が高い部類の機械です。それだけに、腕の良い職人でないとパーツを痛めてしまいます。ある意味では前回のダメな業者にやられなくてよかったのかも知れません。(悲しい見方ではありますが、、。)

 

受けまで組んで、ようやくプッシャーを押してON/OFFをカチカチと切替テストができるようになります。工房主は過去、ダメにされた古いデュボアデプラには泣かされてきました。痛みがなく、こんなに新しい個体はこれが初めてで、「ほうほう新品ならこんなにスムーズに動くのか!」と新発見があったりして、勉強になりました。メーカーでの注油のやり方なんかも、こういう新しい個体からさりげなく盗む(=覚える)のです。オリジナルのパーツの状態や調整具合を知っておけば、いずれまたダメダメ個体が回ってきても、格段に対処しやすくなります。時計師は一生これの繰り返しです。

 

カレンダーはビッグデイト型。これは非常によく考えられた構造で、1日〜31日までの切り替わりをご覧の通り2枚のディスクのリレーにより、巧みに表現します。メモリーとなる特殊な溝を持った歯車と連動させることで、それぞれのディスクを送る日と送らない日が決まっており、31日周期で元に戻る仕掛けです。ちゃんと構造を理解して組まないと、『05』日の次が『15』になってしまったり、『32』日が出現したりと、アレレ〜?てな具合になってしまいます。結構頭も使います。

このほかさらに月別による30日と31日(2月のみ28日)送りの違いを1年分メモリした、12ヶ月周期で元に戻る簡易パーペチュアルカレンダーのタイプもありますが、本機はデイトのみのため、延々31日周期で動作し続けます。30日までしかない月は1日分手動で日付を早送りさせる必要があります。(いわゆるパーペチュアル・カレンダーは、さらに4年に1度の閏年で2月が29日になることを含む、4年分のメモリがされたものを差します。最も複雑な機構のひとつとされます。)

 

文字盤と剣つけまで進みました。デュボア・デプラは分積算・時積算ともにアナログな動きで連続して針が回っていきます。(7750など多くの他のクロノグラフ時計では、分積算は1目盛り毎にカチッと針が動きます)こんなさりげない違いも、なかなか個性的で面白いですね。

 

ケースは洗浄のみ。プッシャーも外してよく洗います。ピカピカになりました。

 

いよいよケーシングです。組立調整にかなり手間のかかる時計師泣かせの機械ですが、なぜだか憎めないのがデュボアデプラです。

 

最終特性(クロノグラフON)

左上)文字盤上 振り角 305° ビートエラー0.1ms +005 sec/day

右上)文字盤下 振り角 308° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下1) 3時下 振り角 278° ビートエラー0.2ms +006 sec/day

左下2)12時下 振り角 280° ビートエラー0.1ms +000 sec/day

右下3) 3時上 振り角 272° ビートエラー0.1ms +006 sec/day

右下4)12時上 振り角 275° ビートエラー0.1ms +008 sec/day

 

最終特性(クロノグラフOFF)

左上)文字盤上 振り角 311° ビートエラー0.1ms +006 sec/day

右上)文字盤下 振り角 310° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下1) 3時下 振り角 278° ビートエラー0.2ms +008 sec/day

左下2)12時下 振り角 278° ビートエラー0.1ms +000 sec/day

右下3) 3時上 振り角 280° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

右下4)12時上 振り角 287° ビートエラー0.1ms +010 sec/day

クロノグラフOFFでも、アイドリングに相当するエネルギーがモジュール側で常に消費されており、素のベースムーブメントの時よりも振り角(とりわけ平姿勢)が落ち着いているのが分かります。ちょっと出来過ぎ感がありますが、今回は十分に理想的な特性と思われます。ひげぜんまいの再調整も効いていると思います。

 

完成。

———————————————————————————————
Gérald Genta: Chronograph (2892A2+デュボアデプラ)
———————————————————————————————
□オーバーホール料金  クロノグラフ ¥ 30,000
□その他
 ・研磨サービス 洗浄のみ ¥ 無料
 ・ブログ掲載オプション ¥ 5,000
———————————————————————————————
合計金額      ¥ 35,000

 

 

トップへ戻る