Girard Perregaux ref.2599 (cal.3080)

ジラール・ペルゴ automatic ref.2599

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ジラール・ペルゴのクロノグラフ“ref.2599” のオーバーホールのご依頼です。cal.3080 を搭載し、毎時28,800振動のハイビートモデルです。

 

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ケースからムーブメントを取り出し、まずはクロノグフラフ秒針を抜きます。クロノグラフ時計のオーバーホールにおいて、クロノグラフ秒針を抜く瞬間は、屈指の難関作業のひとつであったりします。特に今回のような文字盤がフラットでなく、段差があったりするようなものは普通のやり方(クロノグラフ秒針抜き用の工具を使った作業)だとうまくいきません。どうやって外すか知恵競べになります。

 

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無事に針を外せました。文字盤のフチは直接ケース本体の内側に接しているため、接点が経年の使用により剥がれております。文字盤はマットホワイト調の塗装が施されていますが、このように脆くて剥がれやすいことがお分かりになると思います。針を抜くときにやり方が悪いと、針穴の周囲がこんな風に傷だらけになってしまいます。今回はご覧の通りキズひとつ付けることなく抜けてくれました。(モノによってはメチャクチャ固く針がついており、力を入れて抜くと文字盤や針にどうしても傷や跡などがつく場合があります)

 

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文字盤を外したところ。文字盤のアールに合わせて中央にスペーサーを兼ねた受けがついていることが分かります。

 

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スペーサー取り付けネジに舐め跡があります。これを見ると大変不安を覚えます。この程度のネジをきちんと綺麗に取り付けられないようでは、やっと自転車の補助輪が外れた時点で、競輪に出場するとか言っているようなものです。そのくらい今回の時計は難易度の高いものなのですが、さてさて…。

 

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分解前の歩度測定です。平姿勢(文字盤上・下)はいずれも+25〜30秒程度の進み。縦姿勢(3時下・12時下)は逆に−20〜−40秒程度まで大きく遅れています。姿勢差(Δ)はざっと60秒あり、実用性があるとは言いにくい状態です。ますます嫌な予感がし、修理を受付したことを後悔しはじめるタイミングです。さあ、オーバーホールのみで回復するのでしょうか。

 

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ムーブメント本体を分解していきます。ref.2599 はクロノグラフ部分がモジュールになっており、ベースのcal.3080 と分離できます。あまり普段見かけない機械ということもあり、万全を期して最初にベースムーブメントのみ分解掃除することにしました。

 

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ネジはほかにも何箇所か痛んだ部位があったものの、肝心のパーツそのものはどうやら無事でした。洗浄をして作業別に応じて小分けします。

 

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香箱のゼンマイを巻き直して注油したところ。予想に反し、香箱内はまともな状態でした。(もしかすると、香箱の分解は前回手入れの業者では行わなかったために、かえって製造時の正しい状態が保たれていたのかも、、、)

 

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香箱を閉じて、角穴車に相当するパーツを取り付けます。このように香箱に歯車を取り付けるタイプは、老舗のスイス・ブランド時計の高級機においてしばしば見受けられるものです。ブランパンやオーデマ・ピゲ、パティック・フィリップなどと同じです。香箱上面にも同心円状にコート・ド・ジュネーブ(さざ波模様)が施されており、たいへん丁寧で美しい作りです。(3本の小ネジは最も小さいパーツのうちのひとつ。ここのネジはやけに綺麗だ。ということは、やっぱり、、、笑)

 

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バランスを地板に組んで、ひげぜんまいなどの具合を調整します。拡大しているため、いつも通りの作業に一見みえますが、実際はレディース並みの小型ムーブメントであるため、正しい調整のためには極めて高度な技術が要求されます。例えば、同じクロノグラフでもETAの7750などと比べると、ムーブメントはおよそ半分程度の容積しかありません。小さくなるほど難しくなります。

 

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ベースムーブメントの組み立てのようす。受けは2枚に分かれており、組み立てはそれほど難しくはないように考えられています。ただし、自動巻き機構などが独自のタイプのため、ジラール・ペルゴを知らない技術者だと最初は少し戸惑うと思います。装飾技法こそ高級機ではどのブランドも似て来るものの、独自ムーブメントであればこそ、こういった部分に個性を出すことができるのがマニュファクチュールらしいところです。

 

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こちらは裏回りの巻き上げ機構と、アンクル取り付けのようす。アンクル受けの大小のネジがアクセントになっています。国産機が同じことをやったら「なんでわざわざ別のネジにするんだ」とこき下ろすと思います。マニュファクチュールがやると「リズム感があって素敵だわ」とか褒めだします。我ながら説明のつかない不思議な思考回路であります。

 

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テンプまで組んでベースムーブメントの完成です。百聞は一見にしかず。結局、これを見て、何を感じるのか感じないのかで、人によって評価が分かれていくのでしょう。個人的な意見で恐縮ですが、この美しさが理解できない限り、スイス高級時計の牙城を切り崩すことは夢のまた夢だと思っております。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 317° ビートエラー0.0ms +006 sec/day

右上)文字盤下 振り角 300° ビートエラー0.0ms +008 sec/day

左下) 3時下  振り角 288° ビートエラー0.0ms +008 sec/day

右下)12時下  振り角 280° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

冒頭の不安が杞憂に終わりました。

 

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希望の光がみえましたので、クロノグラフ部分の分解と洗浄は鼻歌まじりです♪

 

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オペレーティング・レバーまわりから組み立てはじめます。ピラーホイールを拡大したところ。実際はものすごく小さいパーツですが、細部まで丁寧に作られているため、拡大しても小ささを感じさせないところがスゴイです。(それにしてもネジの至る箇所に舐め跡が散見されることが非常に惜しいです。ダメな業者に出すと、一発でやられちゃいます)ちなみに写っているネジの直径はほとんどが約1mm〜1.5mm程度です。

 

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クロノグラフ・モジュールが組み上がっていくようす。もちろんこれもジラール・ペルゴ独自モデル。基本となる設計思想はピラーホイール型というものに分類されます。近縁種でいうと、かの有名なロレックス・デイトナにも採用されたことで知られる、ゼニス社の『エル・プリメロ』などが相当します。工房主はエル・プリメロの経験も豊富です。今回のジラール・ペルゴのそれは、ちょうどエル・プリメロをさらに縮小した感じに近く、このモジュールを分解したのは実は今回が初めてでしたが(ベースのcal.3000系は何度も経験あり)、特段難しさは感じずにできました。しかし、ETA7750などポピュラーな機械と比べたら、その小ささゆえ難易度の高いものです。クロノグラフ経験の乏しい時計師がやったら、どこかしら壊すかも知れません。

 

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剣付けまで来ました。文字盤は一見すると昔からあるオーソドックスな角型タイプのデザインを踏襲しつつ、スモールセコンドのあたりを良く見ると段差がつけられており、盤面もアール形状をしていることが分かります。ディテールまで周到に計算されたかなり手の込んだもので、コストの安い価格帯の製品では真似しにくいものです。

 

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真横からみたところ。こうしてみると、アール形状がはっきり分かりますね。針も文字盤のカーブに合わせて曲げてあります。ベースの作りがちゃちいと、針を回したときに軌跡が一定せず、フラフラと回って針同士がぶつかったり、文字盤と接触したりトラブルを起こしやすいものです。こうしたちょっとした所にも真の技術力の差がでます。マニュファクチュールは伊達ではありません。

 

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いよいよケーシングです。“Manufacture”と誇らしげな銘が印象的なジラール・ペルゴの回転錐を取り付けます。スムーズな動きを確認し、裏蓋を閉じて完成です。

 

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最終特性 (全巻き/クロノグラフON)

左上)文字盤上 振り角 292° ビートエラー0.0ms +008 sec/day

右上)文字盤下 振り角 281° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下1) 3時下 振り角 260° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

左下2)12時下 振り角 259° ビートエラー0.0ms +001 sec/day

右下3) 3時上 振り角 264° ビートエラー0.1ms +001 sec/day

右下4)12時上 振り角 258° ビートエラー0.3ms +008 sec/day

 

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完成

今回のサービス料金:オーバーホール(クロノグラフ) ¥30,000

外装研磨サービス:洗浄のみ  ¥0

ブログ掲載オプション:¥5,000

合計:¥ 35,000

 

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