IWC: Automatic Cal.8531

IWC オートマチック “寄り目デイト” Cal.8531

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分解前の測定から。ビートエラーがだいぶ大きく、歩度も遅れ気味ながら、姿勢差は極端に開いておらず、オーバーホールで直りそうな様子。

 

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リュウズと巻芯を拡大したところ。非防水構造のため、どうしてもこの部分は使用に伴ってサビが生じやすいものです。赤いサビは空気中を伝染しますので、落とすか交換しないといけません。交換パーツはこういうヴィンテージ品の人気モデルのものは市場に少ないため、オークションなどでは高騰しています。同時代のあまり人気のないモデルなら1本数千円で何本でも簡単に手に入りますが、このクラスのものは無理です。最低でも10,000円以上はみてください。また今後も交換できる保証もありません。枯渇してなお人気があるものは、パーツ1個すらプレミアム価格になっていきます。巻芯1本の交換に何万も払う気のない方。この時計のご使用はあきらめてください。錆びないよう厳重にコレクションケースにでも入れて保管してください。そういう領域に入りつつあるモデルです。

 

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リュウズの内側にも緑青がでています。あまりサビが進行してしまうと、リュウズから巻芯を抜こうと思っても固着しているため抜けず、無理に力を入れると根元で折れてしまってネジがリュウズの中に残ってしまい、そうなると巻芯もリュウズも両方とも交換する羽目になります。このようにネジ溝がまだ健在で取り外し可能なものはサビを落とすことで再利用も可能です。ネジ山が分からない位にサビが進行していて、リュウズと巻芯ごと交換するしかない場合、パーツが入手できないモデルは修理そのものをお断りすることもあります。

 

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ケースと裏蓋の間にも赤サビが大量に出ています。ドライバーなどを使って、荒く削り落とした後、錆びとり液などを使って落としますが、完全には落とせません。ステンレス鋼の錆び方はとても特殊で、蟻の巣のように内部深くまで進行していきます。そのため表面だけを落としても100%は落とせません。しかし、落とさないよりはましですから落とします。地味で地道な作業です。店によっては有料です。うちもあまりにヒドイものは有料にしようかなと思っている(※)位、はっきりいってやる気の出ない作業の筆頭です。時間ばかりかかって、そのくせ「やってくれたのね」とは感謝されない為(そもそも表から見えない部分ですから当たり前ですが)、職人のモラルや心意気次第の部分です。

※注;2016年9月より有料化となり、特別料金の適用対象となりました。

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とりあえず、やれることはやるというのがアトリエ・ドゥのポリシーですので、可能なかぎりキレイに落とします。表面のサビは全部落とせましたが、内部に進行した部分は虫食い跡のように残ってしまいました。

 

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サビの話が長くなりました。ようやくムーブメント本体ですが、中央をご覧下さい。秒針の受けが割れています。ホゾの部分がなんとか残っているため、ごまかして継続利用していますが、当然これはアウトです。前回の修理業者の見識を疑います。こういう部分を見逃して金を取る所はろくなもんじゃありません。

 

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オークションで中古純正パーツを見つけて入手しました。お代は8,500円也。高い?そう思ったアナタ。アンティーク時計の愛好には向いてません。量販店のクォーツ時計でもしてください。こんなの板に穴開けただけじゃないの?とんでもない。穴の位置が『100分の数ミリ』(ただの数ミリじゃないよ)でもずれたら、不良品という代物です。民生用のボール盤なんかで真似して作ろうと思って作れません。専用の精密な工作機械がなければ作れないのです。素材からして吟味されています。ホームセンターなどで市販されている汎用の真鍮板や銅板では駄目です。一般用の材料は年月が経てば伸びて狂います。出来立ての金属材料ではすぐに加工できないのです。何年も寝かした狂いの少ない上質の材料をこういう老舗の時計メーカーは大量に保有しています。その上さらに特殊合金であったりします。加工法にもノウハウがあったり特許が絡んでいたりするのです。何も知らないで見た目だけ安易にコピーしたものでは長くもたずに摩耗してしまうでしょう。どこかの国の製品がすぐにダメになるのはそういう事です。以上を理解した上で、この価格です。

 

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パーツの分解と洗浄が完了したところ。パーツの状態にしても、持ち主が大切に使い続けてきた愛機のメンテナンスという場合と、オークションで入手したけれど整備状況など以前の経歴が不明なものとでは、製造時期が同じメーカーのモデルであっても、往々にして天と地ほどにパーツの状態が違います。この事例と同じ価格でどんなものでも修理できると思わないでください。あくまで内部のパーツの状態によりけりです。古いものほど修理価格の差は開きます。

 

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香箱の中も汚れがたまっていました。洗浄して注油しなおします。

 

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振り石が分解前(左)では左にずれています。分解前測定でビートエラーが大きくずれていた原因はやはりここです。バランスを取り外してひげぜんまいの調整を行ったところ、とくに振り石は動かしていないにもかかわらず、ほぼ中央に戻りました(右)前回にこの時計を手入れした業者は、こういう部分のチェックも手抜きだったということです。受けが割れていても平気でそのまま組んでしまうような職人は、結局何をやってもザルということです。そういう所へ出すと時計壊されます。

 

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ムーブメント本体の組み立てです。内部パーツにも所々にサビなどがありましたが、幸い動作に影響のある部分は免れたため、ご覧の通りキレイになっています。

 

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アンクルまで組んだ所です。新しい秒針受けの収まり具合もよろしく、順調です。

 

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ベースムーブメントの完成したところ。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 284° ビートエラー0.2ms +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 285° ビートエラー0.2ms +005 sec/day

左下) 3時下  振り角 231° ビートエラー0.3ms +010 sec/day

右下)12時下  振り角 240° ビートエラー0.1ms +013 sec/day

分解前は3時下という最も重要な姿勢だけ−25秒という遅れで、残りは−10秒程度で揃っていたのを覚えているでしょうか。ウソのように別物になりました。主要4姿勢で姿勢差(Δ)も15秒あったものが7秒まで半減しています。振りも元気良く申し分ありません。

 

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溜飲を下げたところでカレンダーです。

 

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文字盤と剣付けです。

 

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ケーシングまで来ました。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 280° ビートエラー0.3ms +008 sec/day

右上)文字盤下 振り角 286° ビートエラー0.4ms +000 sec/day

左下1) 3時下 振り角 238° ビートエラー0.3ms +009 sec/day

左下2)12時下 振り角 237° ビートエラー0.1ms +010 sec/day

右下3) 3時上 振り角 233° ビートエラー0.5ms +008 sec/day

右下4)12時上 振り角 241° ビートエラー0.3ms +002 sec/day

全体でもΔ10秒に入りました。年式を考えれば十分合格です。

 

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完成

今回のサービス料金:オーバーホール(自動巻き) ¥20,000

外装研磨サービス:洗浄のみ ¥0

交換パーツ費用:秒針受け ¥ 8,500

特別料金:パーツのサビ落としおよび補修:¥10,000(※2)

合計:¥ 38,500

(※2)2016年9月に加筆・修正

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