IWC: Automatic cal.8531

オーバーホール事例:  IWC Automatic Cal.8531(東京都J.S.様ご依頼品)

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日本の時計ファンの間では「寄り目デイト」の愛称で呼ばれる、インター人気のキャリバー85系から cal.8531 のオーバーホールのご依頼です。ケースはライトポリッシュですが、風防はヒビだらけで研磨不可のため交換することに。

 

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風防は内側にリングのない通常の非防水タイプ。8531の次に登場する8541からは防水機能になり、これまたファンにはおなじみの「おさかなリューズ」が採用されます。

 

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分解前の測定です。文字盤上で-15秒文字盤下が-60秒で、裏平差はΔ45秒もあります。3時下は−80秒で12時下も−90秒と、縦姿勢の遅れ具合も良くありません。相当これは内部のムーブメントに問題がありそうです。

 

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本体を分解していくと、パーツは全体的にサビや摩耗が見られ、受けのホゾ穴も擦り減っていて、ただのオーバーホールでは直らない状態です。写真はとくに摩耗がひどい2番車の様子です。カナもサビており、本来なら交換相当ですが、交換パーツはありませんので(あったとしても1万円超えます)今回はなんとか補修で対応することに。

 

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受けの擦り減った穴はタガネで詰めます。アンティーク時計にはアンティークのタガネが実によく合います。写真はK&DのNo.18というタガネで私のお気に入りです。台座に受けとタガネをセットし、ハンマーで叩きます。つぶした穴をリーマーで修正し、最後に木の棒に研磨剤をつけて穴の内側をよく磨きます。

 

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受けの穴の修正前(左)と修正後(右)だ円だった穴が真円になり、径も小さくなって2番車の横あがきが大幅に改善されました。しかし、これは2番車の受けの修理としては、かなりの荒療治です。cal.8531 は2番車の受けに石が入っておらず、擦り減りやすいのが欠点だと思います。(cal.8541 からは2番車にも他の輪列同様ルビーの穴石が入っています)

 

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全てのパーツを分解して、洗浄が完了しました。

 

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香箱の注油も乾ききっていましたので、ゼンマイを取り出して洗浄し、巻き直して注油します。よく見ると香箱真まで一部がサビています。853xは非防水であるがゆえに、854xと比べると状態のよくないものが目立ちます。わずか1ディビジョン違いですがパーツにも互換性はなく、設計思想は受け継ぎつつも別の機械です。

 

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ムーブメントを組み立てます。巻き上げ機構と輪列から組み(上)次いでアンクル/テンプまで組みました。(下)

 

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ベースムーブメントの測定です。

左上)文字盤上 振り角 246° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 266° ビートエラー0.1ms +011 sec/day

左下) 3時下  振り角 211° ビートエラー0.1ms +012 sec/day

右下)12時下  振り角 222° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

数字だけみると一見よさそうですが、波形をよく見ると前後に大きく波がでており、振り角も安定しておりません。やはり2番車をはじめ、ホゾのダメージが大きく、研磨や修正だけでは限界があります。パーツが安く入手できれば本当は換えてあげたいところですが、2番車と2番車の受けだけで3万円。3番車、4番車、ガンギ、、、と欲を言えばキリがなく、あっという間に10万位になります。どれかひとつだけ換えたところで直りません。全体的に経年劣化したものは、もう寿命としか言いようがありません。

 

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カレンダー機構の組み立てと、文字盤に剣付けまで進みます。針もずいぶん何度も付けたり外したりしたためか、ベコベコでした。針と針の間隔は余裕をもたせてやや大きめに取りました。ゆるんできてしまい、高さが多少変化したとしても針と針がぶつからないようにするためです。

 

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とりあえず一番ひどい2番車まわりは延命措置を施したので、もう少し何年かは使えると思いますが、次に擦り減って時刻が合わなくなった時は、パーツを全部交換するより他に手はありません。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 286° ビートエラー0.1ms +012 sec/day

右上)文字盤下 振り角 256° ビートエラー0.0ms +014 sec/day

左下1) 3時下 振り角 235° ビートエラー0.2ms +012 sec/day

左下2)12時下 振り角 231° ビートエラー0.1ms +014 sec/day

右下3) 3時上 振り角 240° ビートエラー0.4ms +012 sec/day

右下4)12時上 振り角 235° ビートエラー0.3ms +000 sec/day

全姿勢差はΔ約15秒のようにみえますが、実際には歩度はフラフラして安定せず、実質的にはΔ20~30秒位はみたほうが良さそうです。パーツの状態の割には健闘している結果だと思われます。使っていくうちに、どんどん姿勢差も開いていくことが予想されます。後はランニングテストで実測値を見て、もう少し進み気味に調整することにします。

 

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完成

今回のサービス料金:オーバーホール(自動巻き) ¥20,000

交換パーツ費用:汎用プラ風防 ¥2,000

 

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