RADO: Cornell (ETA cal.2782)

ラドー・コーネル

ラドーのコーネルのオーバーホールとフルポリッシュのご依頼です。外装にはキズ多数で文字盤も一部は変色しております。

 

分解前の歩度測定。平姿勢で200°縦姿勢で160°ほど。典型的な年代物の特性。

 

ケースオープナーで裏蓋を開閉するところ。これくらい大袈裟な道具を使っても、蓋がサビで固着していればビクともしないこともあります。

 

今回はかなりの手応え。開いて納得。ご覧の通りの赤錆まみれ状態。こういうものを依頼されると、見積もりするだけでも大変です。分解するだけで周囲にサビが飛び散るので、後片付けとかもホント大変。

 

リュウズのまわりや、巻き真にもサビが生じているのがわかります。防水は全く効いていないと見てよいでしょう。

 

ガスケットとサビが一体化してしまっています。ゴムは経年劣化すると、引き剥がせずボロボロに崩れることもあります。

 

かんの内側。ベルト取り付け用のバネ棒が入る穴に、バネ棒の先端が折れ込んでいます。これを取り外すのはかなり厄介です。ドリルをピンバイスに取り付けして、手作業で地道に削っていきます。時間のかかる作業です。

 

リュウズを外したパイプ周辺の様子。パイプは傷んでおり、補修または交換が必要な状態です。仮に問題がなかったとしても、外装研磨サービス実施のためにはこの部分の突起が邪魔になることが多々あるため、取り外す必要があります。60年〜70年代に製造された古い時計ではパイプは真鍮製のものも多く、ケース本体に圧入されています。パイプの素材および構造は取り外して付け直すことなど端から前提になっておりませんので、事実上新しいパイプに交換することになります。汎用ステンレス製パイプに交換です。(ロレックスのようにパイプがネジ式になっており、交換可能なものも一部高級機にはみられます)パイプのサイズはモデルによってまちまちです。ケース取り付け穴の径とリュウズが差さる部分の外径およびその両方の長さや厚みなど、スペックの組み合わせがバラバラで、なかなか全ての条件を満たす代用品がなかったりしていつも苦労させられます。奥の手で洋白丸棒から旋盤で削り出す別作も可能ですが、強度や耐久性でステンレス製の汎用品に勝てません。特別料金にもなるため、よほどの理由がない限りはおすすめしません。

 

ガスケットは運良く外れてくれましたが、あっという間に周囲はサビだらけ。

 

こちらはムーブメント本体の様子。文字盤の一部は浸水の影響とみられる変色と劣化がみられます。当工房では針や文字盤のリダンなどは行っておりません。今回も文字盤はそのままとなります。

 

こちらは風防を取り外したケース内側の様子。

 

裏蓋もケースとの接続部分を中心にサビが蔓延してしまっています。サビを取り除くと、穴ぼこだらけです。ステンレス鋼も錆びるときは錆びます。何十年もメンテナンスせず使い続ければこうなります。アリの巣のように、内部に虫食ったような形でサビが進行します。取り除ける部分は落としましたが、これ以上はどうしようもありません。ガスケットは新しく換えますが、この裏蓋ですから防水性は推して知るべしです。間違っても新品同様の性能に戻るなど期待しないことです。バリバリ実用できるかと言えば、ノーです。

 

こちらは輪列受けの分解時と洗浄後のようす。歯車の入る穴石がこんなに汚れていては、時計本来の性能も出ませんし、歯車のホゾなどは摩耗してダメになってしまいます。

 

こちらは香箱受けと丸穴車を分解したところ。これはリュウズを回した時に、香箱のゼンマイを巻き上げるための力を伝える部分です。完全に油が乾ききっているにもかかわらず、無理に使い続けたため、受けなどが削れて損傷しています。本来なら受けごと交換相当ですが、この機械用の交換パーツは市場にはほとんど残っておりません。やるとしたら同じ型番の機械の入った時計をまるごと入手してパーツ取りするほかないです。10万円コースです。なるべく手巻きせずにお使いになるのがよろしいでしょう。無理に手で巻こうとするとガリガリ音がすると思います。「直らないのか?」とよく聞かれます。受けは真鍮削り出し材ですから、磨り減ってしまうと直しようがありません。研いで小さくなった包丁を元の長さに直してくれ、と言っているようなものです。やっつけ仕事で適当にピンでも打ち込んで誤魔化したり、勝手に改造してしまうようなデタラメ修理では、さらに他のパーツまで痛んで被害が拡大するだけです。きちんと直すには香箱受けを丸ごと交換するほかありません。こういう古い時計でそれをやると費用がかかるということです。(安いだけの修理には落とし穴があるんです)

完璧な修理をご希望される方は、必ずお申し込み時に次の一言を添えてください。『金ならいくらでも出します』

そうでない方は、細かいことには目を瞑りましょう。下手なこと言うとあとが悪いです。

 

全てのパーツの分解と洗浄が済んだところ。

 

ろくにメンテナンスされていないことが明白な割には、パーツはなんとか継続利用できる状態です。鋼材の品質や加工方法が良かったものと思います。ETAも昔はヨーロッパの工場で生産されていました。近年のようにアジアシフトしてから、品質が落ちたように思います。同じような使い方をしたら、ひとたまりもないでしょう。鉄なんてどこの国でどの材料で作っても同じだと思っている人は、日本刀で真っ二つにされてしまえばよいです。アンティーク時計ファンの言い分も理解できます。ちなみに私の修理用道具は日本製の炭素工具鋼(SK4)を使った自作であります。堅牢さ、粘り腰の強さなど、どこかの国で大量生産された安物とは段違いです。

 

香箱のゼンマイも洗浄して巻き直し、注油し直します。

 

バランス(テンプ)を地板に組んで、ひげぜんまいの調整などを行います。

 

10倍キズミ相当の倍率でみても、画像ではわかるかどうか微妙な、ほんのわずかな隙間(アオリ)の中をひげぜんまいが貫通しているのがわかりますでしょうか?エタクロンなどという便利な緩急針システムが出回る前の時計は、このようにヨレッとしたヒゲ棒を任意に折り曲げてアオリ幅を時計師が調整します。ここの具合がほんのちょっとおかしいだけで6姿勢の精度に影響するのですが、キチンと調整されている個体にはあまりお目にかかりません。いちいちあげるときりがないですが、最高性能を出すためにチェックすべき項目はネジからテンプに至るまで何十何百項目とあります。もちろん毎回すべての部分をチェックして、おかしなところは修正しております。それが正しいオーバーホールです。

 

針回し裏輪列を組んだようす。ここから先はいつものようにスイスイ進みます。パーツに何も痛みや問題がなく、工場の製造ラインのようだとしたら、組んで注油することなんてものの数十分でおしまいです。(下準備に何時間もかかるのです)

 

こちらは表輪列に歯車をのせた状態。

 

受けを組み付けたところ。

 

テンプまで組んでベースムーブメントの完成したところ。

 

ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 286° ビートエラー0.0ms +008 sec/day

右上)文字盤下 振り角 294° ビートエラー0.1ms +010 sec/day

左下) 3時下  振り角 255° ビートエラー0.3ms +017 sec/day

右下)12時下  振り角 244° ビートエラー0.0ms +018 sec/day

分解前とは見違える特性になりました。平姿勢で280°以上、縦姿勢でも240°が出ており、十分です。歩度は少しばらつきますが、実用可能な範囲と思います。いつもサラリと書いていますが、実は旧型緩急針でエタクロンと差のない特性を実現するのは誰にでも簡単にできるものではありません。

 

カレンダー機構の組み付けに進みます。

 

文字盤と針を取り付けたところ。

 

フルポリッシュが完了したケース。こうして結果だけみると、さも簡単に見えますよね。これひとつでも非常に手間暇かかるんです。そのあたりの様子は、コチラ

 

ケーシングまできました。

 

最終特性

左上)文字盤上 振り角 300° ビートエラー0.0ms +007 sec/day

右上)文字盤下 振り角 275° ビートエラー0.0ms +013 sec/day

左下1) 3時下 振り角 246° ビートエラー0.1ms +016 sec/day

左下2)12時下 振り角 254° ビートエラー0.2ms +014 sec/day

右下3) 3時上 振り角 254° ビートエラー0.2ms +012 sec/day

右下4)12時上 振り角 250° ビートエラー0.0ms +019 sec/day

十分な仕上がりと思われます。

 

完成。

RADO cornel (ETA 2782)
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□オーバーホール料金 自動巻  ¥ 20,000
□追加パーツ費用
 ・裏蓋ケースバックのパッキン ¥ 500
 ・パイプ修理        ¥ 3,000
□その他
 ・研磨サービス フル   ¥ 10,000
 ・ブログ掲載オプション ¥ 5,000
 ・サビ取りパーツ補修  ¥10,000
 ・ベルト取付(持ち込み) -
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合計金額      ¥ 48,500

 

 

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