Revue Thommen: Skeleton 80

オーバーホール事例:レビュートーメン・スケルトン80(東京都H.K.様ご依頼品)

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レビュートーメンのスケルトン80のオーバーホールのご依頼をいただきました。文字通り中身のムーブメントが風防越しに透けて見える構造で、時計好きの心をくすぐる意匠です。子供の頃など父親の持つ時計が好奇心の対象だったりしますが、時計の構造など何も分からなくても、メカニカルな動きをただ見ているだけでも楽しくて、小さな宇宙を垣間みれるアイテムではないでしょうか。

 

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分解前の測定です。慶祝事など特別な日くらいにしかご使用にならず、十数年来オーバーホールを行っていなかったとのこと。そのため、内部の注油は部分的に乾ききっていましたが、パーツの摩耗や痛みがほとんどなく、日差15〜30秒程度で少し進み気味ながらも実用性のある状態でした。

 

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ムーブメントを分解して、洗浄済みのパーツをならべたところです。組み立て完成後も外から見えるパーツが多く、時計師にとってはいつも以上に何かと気を使います。パーツの汚れがないか、ホコリやゴミの混入がないか、あらゆる角度からチェックが必要です。また、パーツに傷が付かないように扱いにも十分注意します。オーバーホール技量の問われる時計です。

 

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香箱のゼンマイも洗浄と再注油を行います。蓋に飾り窓がついているため、注油の量を少し加減しています。窓から外に油が漏れないように、かつゼンマイ全体にちゃんと油が回るようにします。ゼンマイのみに油を塗布する別の方法もありますが、今回は通常の香箱の構造に近いため香箱底面に注油しました。(香箱全体が透けているようなタイプではゼンマイ表面だけに塗布器を用いて注油します)

 

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テンプを地板に組んでひげぜんまいの調整をしているところ。ひげぜんまいは長年の使用に伴って、中心やフラットがずれてきます。メーカーによっては特殊な合金を開発したり、部分的に熱処理を行ったりと、形状を最適に保つための様々な努力がなされています。(特許のかたまりのような代物です)しかし、やはり長く使ううちにはカーブなどが変化してきますので、それらを修正する必要があります。手の技の出番で、これこそウォッチメーカーの仕事です。

 

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テンプの調整後にベースムーブメントの組み立てに移ります。まずはリュウズやツヅミ車とギチ車など巻き上げ機構のパーツから取り付けていきます。オシドリやカンヌキ、裏押さえまで組み付けた裏輪列(文字盤側)の様子です。時計としては文字盤のつく表側なのですが、時計師の世界ではなぜか『裏輪列』と呼ばれています。

 

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表輪列の組み立てに移ります。(こちらが裏蓋側です)香箱と2番車〜4番車・ガンギ車を乗せて、香箱受けと輪列受けを組みます。その後、コハゼ・丸穴車・角穴車などを組み、ザラ回しを行って各歯車の回転具合をチェックします。ホゾなど必要箇所に注油して、脱進器(アンクル)調速機(テンプ)まで組んだところです。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 296° ビートエラー0.1ms +005 sec/day

右上)文字盤下 振り角 280° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

左下) 3時下  振り角 250° ビートエラー0.2ms +007 sec/day

右下)12時下  振り角 255° ビートエラー0.1ms +015 sec/day

主要4姿勢の姿勢差(Δ)は+005〜+015まで、Δ10秒であることが読み取れます。姿勢差は実際に時計を使う上での実測値に関係する重要な指標です。姿勢差が少ないほど、着用したときの誤差が少ない(寝ていても起きていても仕事していても、、、)ということです。ですから、差は当然小さければ小さいほど良く、優秀な時計と言えます。Δ10秒は機械式時計としては十分に実用的で優秀な数値です。

 

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ベースムーブメントの測定結果が良いため、さらに自動巻き機構の組み付けを行います。ローター(回転錐)も仮の取り付けを行って、必要箇所には注油を施して動作の具合をチェックします。ゼンマイを一杯に巻き上げて、なお回転錐が滑らかに自力で回転するようであれば、自動巻きの機能が正しく動作していることになります。滑らかに動かなかったり、共回りといって、手で巻くと回転錐が手の力により高速で空回りする場合は、自動巻き機構に問題があります。切替車の機能不全などが疑われます。幸いこの部分にも問題はみられませんでした。

 

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裏輪列のパーツも組み上がりました。多くのパーツが文字盤と同じで「見える」作りのため、見苦しい箇所がないかも良くチェックします。普段から見える見えないに関係なく、美しい仕事をしている職人にとっては、「いつも通りさ」と言えますが、、、。まあ、あんまり深く突っ込まないことにしておきましょう。笑

 

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文字盤と針をつけたところです。文字盤は中央がくり抜かれていますので、真横からみると時針が文字盤面スレスレのように見えますが、実際には時針の回転部分には何も無く文字盤面より下ですので、十分余裕があります。針の取り付けは簡単ですが、針を抜くときには支点となる部分を選びますので、慎重に行う必要があります。スケルトン特有の注意点です。針は抜くときこそが難しいものです。

 

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ケーシングまで進みました。風防の薄曇りもとれて、キレイになりました。ケースはプレーテッドゴールドですから、あいにく研磨には適しておらず今回は洗浄のみで仕上げています。金メッキ装置を導入して、再研磨/再メッキ加工のサービスを始めようかどうしようか、、悩ましいところです。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 298° ビートエラー0.0ms +002 sec/day

右上)文字盤下 振り角 282° ビートエラー0.0ms +007 sec/day

左下1) 3時下 振り角 255° ビートエラー0.2ms +005 sec/day

左下2)12時下 振り角 245° ビートエラー0.2ms +012 sec/day

右下3) 3時上 振り角 250° ビートエラー0.2ms +007 sec/day

右下4)12時上 振り角 257° ビートエラー0.1ms +001 sec/day

全姿勢差(Δ)11秒で、テンプの振り角も平姿勢で300°近く縦姿勢で250°近辺まで振っており、製造時の性能に限りなく近いと思われる水準まで回復しました。レビュートーメンはスイスの老舗ブランドのひとつで、登山用の高度計のメーカーとしても知られます。決してラグジュアリー路線ではなく知名度こそ低いものの、時計としての品質を追求して自前のムーブメントで時計作りを行っている数少ない本格派ブランドです。

 

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完成

今回のサービス料金:オーバーホール(自動巻き) ¥20,000

外装研磨サービス:洗浄のみ

 

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