ROLEX: DateJust Ref.6075 “Big Bubleback” Cal.A-295

ロレックス・デイトジャスト初期型『バブルバック』(東京都S.O.様ご依頼品)

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『バブルバック』の愛称で時計ファンに人気のある、ロレックス50年代頃の初期型デイトジャストの修理とフルポリッシュのご依頼です。Cal.A-295は耐震装置がなく保油装置のテンプで、懐中時計の構造と同じ古いタイプです。そのため時計を少し何かにぶつけた程度でも天真が曲がりやすく、落とせば容易に折れてしまいます。

 

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見積もり時の測定で、平姿勢もΔ100秒以上の差があるなら、縦姿勢はΔ160秒もあり、90°異なる姿勢で極端に進んだり遅れたりと、ご覧の通りメチャクチャな有様。こういう場合は明らかにテンプに異常があり、1.天真が曲がっている or 2.テンワに片重りがある、のどちらかに該当することが多いです。

 

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今回の場合は天真の曲がりに加えて、摩耗によるホゾ先の滅失が見られました。ご依頼主様は熱心な方で、わざわざ天真パーツを自ら取り寄せて時計と一緒に送ってくださりました。(写真右)持込みパーツの場合は取り付け可能であればこちらで請負いますが、品質や性能は出来上がり現状渡しとなり、当工房では保証は行っておりません。それでもよいという条件で作業をお引き受けいたしました。

 

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天真の交換のため、まず古い天真を抜き取るためにテンプを分解していきます。写真の工具はプラタックスという名前で、テンプの振り座(ダブルローラー)や天真を抜く為の専用工具です。今回は振り座を抜くために使用しました。

 

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天真はテンワにカシメで装着されているため、打ち抜いて取り外すとテンワの穴を広げたり痛めたりする恐れがあります。モノによりけりなのですが、今回のような貴重な時計はパーツの替えがありませんから、最も確実な方法で天真をとることにしました。写真は振り座を抜いた状態から、(左)その部分の足を超硬ニッパで切った様子です。(右)

 

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次に旋盤を使って、ニッパで切った部分の凸凹を超硬バイトを使って平らにならします。

 

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左が切削前で、右が平滑面を出したところ。

 

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旋盤のテールストックに超硬ドリルを装着し、すこしづつレバーをたおしながら穴を開けていきます。

 

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左が切削中の様子。右は振り座装着部分が完全に取り除かれた直後。テンワの材質はグリシデュールという合金ですが、天真の鋼鉄に比べたらはるかにやわらかいため、うっかりドリルを突っ込めば天真もろとも削れてしまいます。天真を削りつつ、テンワは再利用しますから微塵も削ってはいけません。そのギリギリのところで止めます。

 

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天真が抜けたところ。(左上)続いて、新しい天真をテンワに装着して、タガネを使ってカシメます。(右上)しっかりカシメたかチェックして、装着完了したところ。(左下)先ほど抜いた振り座も、HORIAのジュエリングツールを使って再び付け直します。(右下)

 

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ここまで来たらトゥルーイング・キャリパス(振れ見)を使って、テンワと振り座が正しく取り付けされていることを確認します。ビデオも撮りましたので、全くブレがなく回転する様子をご覧下さい。

テンワの振れ見のビデオをみる(約900KB)

 

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次はテンワの片重り見器を使って、バランスの具合を調整します。平行棒の材質はルビーです。水準器がついており、水平となるよう3本の足をセットしてから、平行棒の上にテンワを乗せて転がします。テンワがアンバランスだと、やじろべえのようにある点を中心に左右を行ったり来たりします。まさにその点が片重りのある部分ですので、削って重りを取ります。完全にバランスが取れると、くるくる回りながら、やがて摩擦力のみによりピタッと止まります。

 

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バランスが取れたテンワは、ひげぜんまいを装着します。ひげ調整については他の事例でも何度か詳しく紹介しておりますので、詳細は割愛します。ポイントは、中心出しと水平出しを同時に満たすということです。今回も少し修正しましたが、特に問題もなく、まずまず良い具合に仕上がったものと思います。

 

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天真交換が無事完了し、全てのパーツの分解と洗浄を行ったところです。ようやく前半戦終了といった感じですね。天真交換は大仕事です。ただポンっと簡単に替えられるものではないことが良くおわかりいただけたかと思います。(天真別作はさらに複雑多岐な行程があり、とてもオーバーホール料程度では請負不可ということもご納得いただけるでしょう)

 

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香箱のゼンマイも取り出してキレイに洗浄し、巻き直して注油します。

 

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ベースムーブメントの組み立ての様子です。歯車など経年により部分的に表面が変色していますが、肝心のホゾの状態はまだ健在です。50年代頃のロレックスは、オメガやロンジンなど並み居る老舗の強豪ブランドと比べて、まだ歴史の浅い新興ブランドという感じだったのではないかと想像します。しかし、この頃にはもうすでに現在へと繋がっていくブランドポリシーが確立されていた様子が、パーツからひしひしと伝わります。質実剛健な作りです。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 324° ビートエラー0.0ms +008 sec/day

右上)文字盤下 振り角 323° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

左下1) 3時下 振り角 261° ビートエラー0.2ms +011 sec/day

左下2)12時下 振り角 253° ビートエラー0.0ms +017 sec/day

右下3) 3時上 振り角 260° ビートエラー0.3ms +021 sec/day

右下4)12時上 振り角 266° ビートエラー0.2ms +012 sec/day

Cal.A-295 の拘束角が不明のため、測定機はデフォルトの LiftAngle 52° で測定しました。振り角は数値がどうも実際より大きめに出ています。この設定は振り角だけに影響し、他の数値にはほとんど影響しませんので、実際のところは拘束角にそれほど神経質になる必要はありません。年配の職人いわく「振りがどの程度かなんて、おめえテンプを見ればわかるだろ!」、、、おっしゃる通りでございやす。(苦笑)

 

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どうにか時計職人のメンツは保たれた程度にベースの性能が出ましたので、(正直なところバブルバックなるもののデーターベースの蓄積が私には少なく判定不能)どんどん先に進みます。カレンダーは現在の『完成されたデイトジャスト』からはほど遠く、ガッタンと切り替わる初期型仕様。強いて表現するなら『デイトアバウト』な感じです。のどかな時代だったのですよ。今よりは。

 

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ケースはフルポリッシュのご依頼のため、バブル絶頂期の上海で二年間修行で培った研磨技術を遺憾なく発揮してピカピカに。(あの頃は毎日18K金無垢ケースが相手でした。)風防もご依頼主様の持込み品を使ってパーツ交換しました。持込み品付きのご依頼も近年は増加傾向にあります。よくまあ皆さんどこから手に入れてくるのか、情報化社会の今の時代ならではですね。こちらも負けてはいられません。

 

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ケーシングまで進んだところです。金はやわらかく傷付きやすいため、ビニールで保護しつつ作業を進めます。

 

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最終特性

左上)文字盤上 振り角 284° ビートエラー0.2ms +009 sec/day

右上)文字盤下 振り角 275° ビートエラー0.0ms +009 sec/day

左下1) 3時下 振り角 204° ビートエラー0.2ms +008 sec/day

左下2)12時下 振り角 206° ビートエラー0.0ms +023 sec/day

右下3) 3時上 振り角 213° ビートエラー0.3ms +031 sec/day

右下4)12時上 振り角 205° ビートエラー0.2ms +008 sec/day

一晩エージング後に今度は目視の振り具合と体感的に一致する推定拘束角44°で測定。やはり傾向に大差はなく、12時下と3時上でやや進み気味な点を除くと、おおむね+10秒〜20秒程度であり、実測値でも日差は約10〜20秒の進みという結果に。耐震装置がないため、現在の機械式腕時計のようなタフネスさは備えず、万年筆より重いものを持たないようなエグゼクティブ仕様の時計ではあるが、一応実用性のある仕上がりに。

 

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研磨前(左)研磨後(右)

 

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研磨前(上)研磨後(下)

 

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研磨前(上)研磨後(下)

 

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完成

今回のサービス料金:オーバーホール(自動巻き) ¥20,000

交換パーツ:天真・プラ風防(持込み品)

特別料金: 錆び取り・パーツ修正 ¥ 10,000 /天真の交換 ¥ 10,000

外装研磨サービス:フルポリッシング ¥5,000

オプション: ブログ掲載オプション ¥ 5,000

合計 ¥ 50,000

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