SEIKO: Champion

オーバーホール事例:セイコー・チャンピオン(愛知県S.T.様ご依頼品)

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セイコー・チャンピオンのオーバーホールご依頼です。ケースは金メッキのためポリッシュはできませんので、洗浄のみとさせていただきました。分解前の測定では全体的に−40秒〜1分程度の遅れとなっております。ビートエラーも見られる状態です。振りは年式の割には出ているほうですので、オーバーホールの実施で回復が見込めそうです。

 

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本体のムーブメントを分解して、全てのパーツの洗浄を行い、ならべたところです。いくつかのパーツにはサビや摩耗と、変形なども見られました。過去にだいぶ荒っぽい修理を受けた様子で、可能な範囲で修正します。本当は交換したほうがよいパーツもありましたが、60〜70年代の国産の時計は交換用のパーツは市場にほとんど残っておらず、入手は困難です。(オークションなどで時折見かけますが、多くは法外なプレミアム価格のうえ、素人の取り扱いでパーツは痛んだりしていて、価格に見合った品質とは言い難いものがほとんどです)

 

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香箱は手巻きのためゼンマイは取り出さず、香箱ごと洗浄を行って再注油を施します。汚れがひどい時には自動巻き同様に取り出して洗浄しますが、今回は分解前の測定でも振り角も高く、ゼンマイには問題がないことが分かっていたため、そのままとしました。なんでも取り出して洗えばいいわけではなく、少しでも破損や劣化のリスクは抑えて作業したほうが古い時計のためには良いこともあります。なにしろ交換パーツはありませんから、壊れたら替えはありません。(壊せば説明してお客様が満足するはずないです)時計修理では、善かれと思って行った結果がパーツ破損ということも実によくあるのです。この辺りの判断が古い時計は非常に難しいところです。ゼンマイの洗浄と巻き直しだけに限りませんが、その位にリスクのある作業ということです。

 

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ムーブメントの組み立てに移ります。今回は巻き上げ機構から始めます。ムーブメントの構造によっては、輪列から組み立てないと上手くいかないこともあり、ケースバイケースです。古い時計は組み立てや注油の参考資料なども乏しく、またいちいち資料を見ながら組み立てていたら、時間もコストもロスになります。仕事の特性上、一度もやったことのない時計でも分解/組み立てができるスキルが必要ですが、それは自然と身に付きます。分解しながら、同時に組み立てる時のことまで計算できるようになるのです。

 

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続いて輪列の組み立てです。センターの2番車から香箱と一受け(香箱受け)を組み、3〜4番車とガンギ車を乗せて二受け(輪列受け)を組みます。丸穴車と角穴車を組み付けたところで、リュウズを回してみて歯車の動きをチェックします。問題がなければ各歯車のホゾに注油を施します。写真では一般の方が見て分かりやすいアングルのみになりがちなのですが、実際にはあらゆる角度から見て歯車のアガキだったり、かみ合い量などのチェックや修正等を行っています。全ての作業を撮影したりすると、手間がかかり過ぎて10倍の時間があってもまだ足りません。また、両手を使わないと出来ない作業は、基本的に撮影不能ですからここでは紹介しておりません。

 

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ムーブメントが完成しました。

 

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ベースムーブメントの測定

左上)文字盤上 振り角 280° ビートエラー0.0ms +012 sec/day

右上)文字盤下 振り角 272° ビートエラー0.0ms +016 sec/day

左下) 3時下  振り角 243° ビートエラー0.2ms +045 sec/day

右下)12時下  振り角 253° ビートエラー0.2ms +032 sec/day

振り角は分解前の測定と同程度ですが、ビートエラーは解消して歩度も+10〜40秒/日に回復しました。縦姿勢が少し進み気味ですが、この時計のテンプは緩急針のアオリが内当てと呼ばれる簡易式の構造であるため、両当てのような本格的な細かい調整には向いておらず、もともと高精度が出にくい方式です。状態の良いものでも日差は30秒以内に全姿勢が入っていれば良いほうです。国産の古い時計は日差が1分以内であれば正常です。

 

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文字盤と剣付けを行います。針や文字盤はチリ拭きなどで簡単に除去できるものは清掃しますが、基本的にそのままの状態にします。文字盤は母材の真鍮板などが経年によって腐食や緑青などを生じ、表面の塗装を剥落させやすいものが多く、そうした文字盤は表面を全て削って再塗装(リダン)でもしない限り、元の美観には戻りません。当工房では文字盤と針などのリダン加工は行っておりません。アンティーク品はなるべく磨いたりせず、洗浄のみでオリジナルの風合いを保つ程度がおすすめです。

 

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ケーシングまで完了したところ。分解前はサビや緑青などが見られましたが、キレイに落ちています。小傷などは残りますが、洗浄のみでも思いのほかピカピカになりますし、むしろアンティーク品はケースの変色や文字盤の焼け具合などが味わいがあるという向きもあります。小汚いのと古めかしいのは同じようで違います。『洗浄のみ』はアンティークらしさを清潔に演出する最適な方法です。

 

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最終特性

細かいデータはベースムーブメントとほぼ同等のため省略します。5振動(毎時18,000振動)の時計ということもあり、姿勢を変えると歩度が安定するまで少しタイムラグがある様子が、波形の曲線となって表れています。振動数が速い時計にはこれが原理的に起こりにくくなり、測定の波形も一直線です。カーブを描いているものは、机に置いた時の静的な特性と、身につけた時の動的な特性が異なっていることを示します。そうしたことも折り込んで歩度の調整を行いますので、測定器だけを見て例えば日差ゼロ秒ピッタリに合わせても、実際に使えば遅れる時計になってしまうわけです。ですから、ある程度は進みに調整する必要があります。

 

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完成

今回のサービス料金:オーバーホール(手巻き) ¥15,000

外装研磨サービス:洗浄のみ

 

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