SEIKO: Cronos Diashock 21 Jewels

オーバーホール事例:セイコー・クロノス(東京都J.S.様ご依頼品)

cronos-1

セイコーのクロノスのオーバーホールご依頼をいただきました。デッドストックとのことで、ケース本体や風防は保管傷程度です。オリジナルの雰囲気を最大限残すため、ポリッシュは行なわず洗浄のみとします。実用品はともかく、コレクション品は磨かず洗浄のみにした方が良い場合が多いです。ただし中身のムーブメントはご使用状況にかかわらず、最低でも5年に1度はメンテナンスしないと内部の注油は乾いてしまいます。そのような状態で動かすとパーツは痛んでしまいます。

 

cronos-2

パーツの分解と洗浄が完了して並べたところです。過去にほとんどオーバーホールされていないためか、傷などもなく見た目にはピカピカです。日本には「箱入り娘」という表現があり、使わず大事にする、という独特の思考が根付いてしまっていますが、実は時計に関しては必ずしも使わないことが良いわけではありません。使わなかったものでも定期メンテナンスしないと、そのことを忘れてうっかり動作させて取り返しのつかないダメージを内部パーツに与えてしまいます。注油の切れた状態で時計を動作させることが、いちばん最悪の使用法になります。

 

cronos-3

香箱内部の注油はまだ完全に乾いておらず、いくらか粘性が残っていました。完全に乾ききったものは油カス等が固着しているので、手巻きのゼンマイであっても自動巻き同様取り出して洗浄しなければなりません。液状の汚れであれば、ベンジンに浸すだけで簡単に落とせますので、わざわざリスクを犯してゼンマイを取り出す必要がありません。この点でも定期メンテナンスに出すことを強くおすすめします。

 

cronos-4

本体の組み立て前にまずテンプの調整から行ないます。ひげぜんまいの水平具合や中心が出ているかなどチェックし、思わしくなければ同時に修正します。写真では振り石がアンクル中心にある様子もわかります。振り石の位置はビートエラーに影響しますが、測定機頼みにせず実際の位置を見ておくことが大切です。

 

cronos-5

2番車を地板に取り付けたところです。カナやホゾがピカピカに磨かれていますね。注油の切れた状態で動作させると、見た目にはキレイでも偏った摩耗などを起こしていることがあり、ほとんど実使用されなかったにも関わらず、パーツ交換しないと直らない場合もあります。そんな時には新古品なのにとか言われますが、全くの誤解です。外装の状態だけでは時計の中身までは判断できません。要注意です。

 

cronos-6

ベースムーブメントの組み立てです。2番車センターと巻き上げ機構から始め、輪列と受け、香箱と受けと進みます。ザラ回しを行い、各歯車の動きに問題なく、アガキ量なども適正であることをチェックしてから、最後にホゾに適量の油を注油します。

 

cronos-7

その後、アンクルとテンプまで組み上げてベースムーブメントの完成です。ため息がでるほど綺麗な個体で、傷や汚れは目視でそれとわかるような部分がどこにも見当たりません。

 

cronos-8

ベースムーブメントの測定です。

左上)文字盤上 振り角 280° ビートエラー0.0ms +016 sec/day

右上)文字盤下 振り角 301° ビートエラー0.0ms +002 sec/day

左下) 3時下  振り角 260° ビートエラー0.0ms +017 sec/day

右下)12時下  振り角 263° ビートエラー0.0ms +046 sec/day

12時下だけ突出した進みですが、振り角は新品時はさもありなんと思えるほど元気よく振っております。あまりに長いこと使ってもらえず、少しヘソを曲げているのかも知れません。長く箱の中で眠っていたものは、使い出した途端に特性が変わることがあるため、下手にテンワなんか削って調整しないほうがいいです。今回はこれで様子をみましょう。

 

cronos-9

文字盤と剣付けに進む前の状態です。シンプルな作りですが、各パーツは丁寧でしっかりした加工がされています。セイコーのこの頃の製品には変な量産くささや安っぽさみたいなものがなく、好感が持てます。

 

cronos-10

ケーシングまで行なったところです。文字盤のデザインも主張しすぎず、調和のとれたすっきりしたものです。どうも、クォーツ式腕時計が出たあたりからセイコーも世の中も大きく変わってしまったように思います。

 

cronos-11

あとは裏蓋を閉じて完成です。ケースにも全くサビが見られず、博物館に置いてあるような状態です。貴重な時計で貴重な修理経験をさせていただきました。

 

cronos-12

最終特性

左上)文字盤上 振り角 274° ビートエラー0.2ms +020 sec/day

右上)文字盤下 振り角 286° ビートエラー0.0ms +001 sec/day

左下1) 3時下 振り角 263° ビートエラー0.0ms +015 sec/day

左下2)12時下 振り角 263° ビートエラー0.0ms +026 sec/day

右下3) 3時上 振り角 270° ビートエラー0.3ms +020 sec/day

右下4)12時上 振り角 264° ビートエラー0.3ms +017 sec/day

ベースのみの状態から少しまろやかになりました。数日間のエージングを行えば、さらに油がなじんで良くなりそうです。測定上おおむねΔ25秒ですが、実測では日差20秒以内にどうにか収まりそうです。箱入り娘さんは気分が難しいことがあって疲れます。

 

cronos-13

完成

今回のサービス料金:オーバーホール(手巻き) ¥15,000

 

トップへ戻る