SEIKO: Cronos Seahorse

オーバーホール事例:セイコー・クロノス シーホース(東京都M.M.様ご依頼品)

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分解前の測定です。さすがにメンテナンス直後だけあって、「これならまあ実用性はある」と言える状態です。アトリエ・ドゥ的な判断では、平姿勢において文字盤上と文字盤下の差(裏平差)が30秒はちょっとあり過ぎるなと思います。縦姿勢は年式の割に頑張っているので、こんなもんでしょう。さてさてどう料理しましょうねえ。

 

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ご依頼主様はリュウズの巻き上げが重すぎることにご立腹の様子。元々の機械が強めのゼンマイなのに、リュウズの径が小さ過ぎるため、この部分の交換をご提案するも「オリジナルのままにして欲しい」ということで却下。パイプ部分に経年劣化による溝があり、この部分も巻き辛さに拍車をかけているため、とりあえず今回はこの部分を研磨により滑らかにすることで改善を目指しました。(それでもやはり少し重いです、、)もちろんこれは非防水を前提にした加工です。

 

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これは輪列受けの拡大写真です。3番車のホゾが入る穴石(写真上部)の注油の状態にご着目ください。左が分解前で右は洗浄&再注油後です。分解前はなんだか三日月のようになっていますが、再注油後は満丸に油が入っています。なぜこうなってしまったのでしょうか?

 

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答えはこれです。受け石と穴石の間にゴミが入り込んでいたため、油が逃げてしまっていたのです。毛ゴミなどが注油部分に絡まると、毛細管現象といって、油がゴミを伝わって外へと流れ出てしまいます。そのため、毛ゴミの類いが入り込むことのないよう、細心の注意が必要です。ちょっとこれはいただけない見落としです。(全自動超音波洗浄機まかせで、目視によるチェックを怠りがちな時計師に多いミスです)

 

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穴石と耐震バネを外して、個別にベンジンで洗浄します。当工房には予算の都合で全自動の超音波洗浄機(200万もするんですョ)なんかありません。

それでもどうですか?ご覧のようにピカピカです。刷毛とベンジンでも汚れはちゃんと十分に落ちます。やっかみ半分で言いますが、どんなに高価な設備があっても、使う人間がザルでは意味がない典型例です。(キーッ!うちもいつか買ってやる!)

 

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その他のパーツもピカピカです。ピッカピカ!

 

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香箱の中は汚れていません。ほどよく注油もしてありました。(まあちゃんとやったようです)念のため洗浄して、ウチで使っている油を差し直します。どの部分も全てやったと言えないとイヤだからです。他人のふんどしで相撲は取りません。

 

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さてさて。いよいよお待ちかねのテンプの調整がやってまいりました。裏平差30秒の真犯人はどう考えてもここです。案の定、内端のフラットも中心もメチャクチャな状態でした。ひげぜんまいはテンプの内端である天真(ヒゲ玉)と、外端であるヒゲ持ちの、2点によって支えられています。まずは内端の調整を行います。

今回はちょっとビデオも気合いを入れて撮りました。

ひげぜんまいの中心出し (約5MB)

 

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内端が正しく調整できたら、天受けにテンプを組んで外端(ヒゲ持ち側)の調整を行います。もう何度も過去のブログで紹介してますので詳細は割愛します。要諦は1.フラットであること 2.中心が出ていること の2点に尽きます。

 

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写真上は分解前です。フラットも中心もバラバラです。写真下が調整後です。ようやく気が済みました。気に食わないまま先に進むと、なぜかメシがまずくなるのです。持病でしょうな。

 

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テンプが済みましたので、本体の組み立てに進みます。実はここまでで全作業時間の75%は終わっています。組み立て注油以降はいくらも時間はかからないのです。

 

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ぽんぽんと部品を組んでいきます。

 

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ちゃっちゃとネジをしめていきます。締め具合は強すぎず弱すぎず。ネジ一本の締め具合にも時計師の愛情があるとは、業界では有名なある先達の言葉です。

 

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ベースムーブメントの測定(半巻き)

左上)文字盤上 振り角 250° ビートエラー0.1ms +014 sec/day

右上)文字盤下 振り角 252° ビートエラー0.0ms +012 sec/day

左下) 3時下  振り角 219° ビートエラー0.3ms +018 sec/day

右下)12時下  振り角 217° ビートエラー0.2ms +020 sec/day

分解前と比べてみてください。テンプの調整がちがうだけで、ぜんぜん違うと思います。

時計師の個性が最も如実に発揮される部分です。

 

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気持ちも朗らかに、剣付けへと進みます♪

 

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いつの間にかケーシングです。幸い以前の修理ではパーツが壊されなかっただけ良かったのです。修正不能なことをやられてしまうと、私もお手上げです。(そういう時計は本当に多いです)

 

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最終特性 (全巻き)

左上)文字盤上 振り角 275° ビートエラー0.0ms +015 sec/day

右上)文字盤下 振り角 270° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

左下1) 3時下 振り角 237° ビートエラー0.3ms +008 sec/day

左下2)12時下 振り角 240° ビートエラー0.2ms +000 sec/day

右下3) 3時上 振り角 246° ビートエラー0.1ms +010 sec/day

右下4)12時上 振り角 241° ビートエラー0.0ms +011 sec/day

ちょっと出来過ぎ感があります。この手の国産高年式の機械では限界に近い性能です。Δ15秒ですから、当時の良品の目安である日差20秒さえ凌駕する特性になっています。

 

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研磨前と研磨後

 

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完成

今回のサービス料金:オーバーホール(手巻き) ¥15,000

外装研磨サービス:ライトポリッシュ ¥ —–

ブログ掲載オプション:¥5,000

交換パーツ費用:なし

合計:¥ 20,000

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