Seiko Lord Marvel 5740-8000

セイコー ロード・マーベル 36000

セイコーのロードマーベルの修理ご依頼です。御祖父様の形見のお品とのこと。お父様が使い、さらにご依頼主様へと親子三代に渡って受け継がれております。製造は裏蓋などの記載から1977年頃のもので、同じ形式では最晩年に作られたものです。表面の金メッキがところどころ剥がれており、年代を感じさせます。

 

分解前の測定です。各姿勢ともほぼ日差ゼロ秒付近であり、これだけみるとすごく性能が良さそうです。ところが、実際に使うと一日に何十秒も遅れるはずです。どうしてでしょう?理由は後ほど述べます。

 

パーツを分解して洗浄したところ。年式の割には状態が良く、交換が必要となるパーツは見当たりませんでした。

 

最初にバランスの調整から行います。ひげぜんまいも状態がよく、少しの修正で済みました。

 

香箱のゼンマイも洗浄して注油します。セイコーの10振動の時計については過去に当ブログで何度もご紹介しております。ゼンマイこそが肝心なパーツになります。これが切れてしまうと、もはやオリジナル通りに直す手はありません。

 

こちらは2番車を拡大したところ。軸の根元まで真っすぐなシェイプをよく保っており、ほとんど摩耗が見られません。このため、この時計が作られた時代のものにしては、性能が良く保たれています。摩耗が進んだものでは、エネルギーの伝達ロスになるため、テンプは高い振り角が出ません。ひどいものでは、止まりの原因となります。

オークションなどに出て来る10振動の時計の大半は、ゼンマイが切れてるか、ホゾの摩耗のため、まともに動作せず、交換パーツもないので修理もできません。アンティーク時計は個々の状態の違いが予想以上に激しいものです。同型ムーブメントなら、今回の事例と同じように直してもらえると、安易に考えないでいただきたいです。見積もり時点でお断りさせていただく時計も多く、ブログに掲載できるものは、運の良かった一部の時計なのです。形見のように、大事にモノを受け継ぐ文化のあるご家庭のお品が、必然的に掲載事例も多くなるわけです。それはパーツにもこのようにはっきり現れるのです。

 

ムーブメントを組み立てていくようす。輪列の歯車と巻き上げ機構を組んだところ。

 

続いて、輪列受けを組んで、丸穴車、角穴車、それからアンクルへと進みます。

 

最後にバランス(テンプ)まで組んでムーブメントの完成です。

 

ムーブメントの測定(全巻き)

左上)文字盤上 振り角 255° ビートエラー0.0ms +007 sec/day

右上)文字盤下 振り角 250° ビートエラー0.0ms +010 sec/day

左下) 3時下  振り角 236° ビートエラー0.2ms +009 sec/day

右下)12時下  振り角 239° ビートエラー0.2ms +005 sec/day

振り角が平姿勢で250°出ており、歩度も各姿勢で大きな乖離もなく良好です。

 

ムーブメントの動作に問題がないため、文字盤と剣付けに進みます。こちらも年式の割には状態が良いと思います。

 

針を真横からみたところ。等間隔に真っすぐにつきました。

 

ケースは分解して各パーツを洗浄し、軽めの仕上げ研磨(ライトポリッシュ)を部分的に実施しています。本体は金メッキですから、研磨はできませんが、ツヤ出しのためにごくごくササッと磨いてあります。それでも地金が腐食していれば、触っただけでメッキが剥がれてしまうこともあります。これはどうにもなりません。古いものの宿命です。

 

ケーシングをしたところ。ムーブメントには大きな傷などもなく、過去に水入りしたこともあったそうですが、その際の修理の内容なども含めて対応が良かったようで、サビは全く見られず、ご覧の通りキレイにオーバーホールが仕上がりました。(水入りは初動を間違えると中身もろとも時計がパーになります。間違えても加熱したりしちゃダメです。そのままジップロックに入れるなど外気を遮蔽できる状態にして、すぐ修理に出しましょう。)

 

最終特性(全巻き)

左上)文字盤上 振り角 240° ビートエラー0.0ms +012 sec/day

右上)文字盤下 振り角 246° ビートエラー0.0ms +011 sec/day

左下1) 3時下 振り角 227° ビートエラー0.2ms +011 sec/day

左下2)12時下 振り角 229° ビートエラー0.2ms +011 sec/day

右下3) 3時上 振り角 239° ビートエラー0.0ms +005 sec/day

右下4)12時上 振り角 222° ビートエラー0.0ms +011 sec/day

まずはだいたい+10秒前後になるように調整します。そして1日様子をみます。

24時間経過後(半巻き)

左上)文字盤上 振り角 198° ビートエラー0.0ms +002 sec/day

右上)文字盤下 振り角 198° ビートエラー0.1ms -001 sec/day

左下) 3時下  振り角 184° ビートエラー0.2ms -006 sec/day

右下)12時下  振り角 190° ビートエラー0.2ms -010 sec/day

平姿勢こそゼロ秒付近を保っていますが、縦姿勢ではマイナス10秒になっています。振り角もそれぞれ50°前後落ちています。

これこそが、冒頭で『遅れになるはず』だと断言できた理由です。全巻きの特性がいくら良くても、それで時計は終わりではありません。手巻きの時計はゼンマイがほどけていくに従って、トルクが下がる(=振り角が落ちる)という物理現象の制約を大きく受けます。そのため、下がる分をあらかじめ計算して調整しなければなりません。全巻きではやや進み気味に調整しておき、あとはテストランニングの結果をみながら微調整します。

※ちなみに、振り角が落ちてもテンプの周期は変わらない(歩度が同じ)ことを『等時性が良い』といいます。しかし、実際には理想的な等時性を保つようなテンプは存在せず、大なり小なり歩度の変化となって表れます。

当ブログではこれまで全巻きのみ測定結果を載せることが大半でしたが、ご覧になる方が「この特性が24時間後もN時間後も未来永劫ずっと続く」かのような誤解を与えてしまいかねないと思いなおしまして、今後は必要に応じて半巻きの結果も載せるようにしようかと考えております。(半巻きの結果を載せる必要がない自動巻き時計や、等時性が優秀で24時間後もほとんど変化がないような時計はのぞく)

 

完成

今回のサービス料金:オーバーホール(手巻き) ¥15,000

外装研磨サービス:ライトポリッシュ ¥1,000

ブログ掲載オプション:¥5,000

ベルト交換(持込み): サービス

合計:¥ 21,000

 

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