ROLEX – Ladies Precision

ROLEX | precision cal.1400

ロレックスのレディース手巻き時計の修理ご依頼です。cal.1400が搭載されたref.26XX型で、1970年前後ごろに製造されたものと思われます。ヴィンテージ品で交換パーツの入手は困難です。内部ムーブメントの状態によっては修理をお断りさせていただく場合があります。


ロレックス・レディース手巻き時計

外装研磨サービスのご希望もいただきましたが、針や文字盤などは当工房ではそのままとさせていただきます。ケース本体と風防の研磨となります。リュウズや裏蓋などは、状態や構造(強度)の問題で実施可否はケース・バイ・ケースとなります。詳しくは個別にお問い合わせください。


分解前の歩度測定から。ある程度の振りはあるようですが、歩度は姿勢差が激しく、実用性があるとは言えない状態です。波形の動きも不安定です。


搭載されたムーブメントのcal.1400は、全ロレックス中でも、おそらく最も小さい部類のものと思います。私の中指の爪ほどのサイズしかありません。ほかのブランドでも厚みはともかく、外径がこんなに小さなものはまず見かけません。


バランスの耐震装置あたりを拡大したところ。完全に油は乾ききっており、相当年月にわたってメンテナンスを受けていないようです。こういうものはオーバーホールによる性能の回復も限定的になります。


全てのパーツの分解と洗浄が済んでならべたところ。マッチ箱ほどの広さの面積に、全部のパーツが収まってしまいます。


アンクルとガンギ車を拡大したようす。とてつもなく小さいサイズにもかかわらず、細部までキッチリとした作りで驚きます。


香箱のゼンマイも洗浄して注油します。水しぶきがかかったように見えるのは、あまりにパーツが小さくゼンマイも薄いため、端の部分が光を乱反射しているためです。


バランスを地板に組んで、ひげぜんまいの調整をします。このサイズになるとひげの修正は困難を極めます。ピンセットを握る手に汗をかきます。手がすくんで震えそうです。わずかなミスで一瞬にしてひげがぐちゃぐちゃになる悪夢が脳裏をよぎります。精神を集中して、息も止まるほどの緊張感の中での作業です。


ムーブメントを組んでいく様子。バランスに比べればややマシですが、サイズがサイズだけに、組み立てにも特別な配慮が必要です。あせらず、ゆっくりと確実に組んでいきます。ちょっと手がすべっただけでパーツが壊れてしまうほど小さく華奢なつくりです。


アンクルを組んで、ツメ石に注油をします。ガンギ車の歯とツメ石が接触した状態で、注油の量が正しいことをチェックします。この写真の状態は適正な量です。油は多すぎても少なすぎてもダメです。接触面以外の部分にはみ出したりするのも失敗です。もう一度分解してパーツを洗って組み直しになります。注油は非常に厳しい条件をクリアしなければなりません。油を一滴注すのにも、慎重な動きと集中力が求められます。


ムーブメントの組み立てが無事に完成しました。さすがに今回のサイズは気が狂いそうになりました。綺麗に組みあがって、ホッとしています。指のツメとの比較を思い出してください。あのサイズでこの完成度です。常軌を逸した素晴らしさではないでしょうか。


ベースムーブメントの測定。平姿勢で280°振っています。歩度も各姿勢で分解前と比べれば差が縮まっています。じゅうぶん実用的な範囲になり、感慨もひとしおです。調整の苦労が報われる瞬間です。


文字盤と針の取り付けに進みます。文字盤には一部に経年の劣化がみられますが、非防水構造のケースということもあり、この程度は年相応のものと思います。


こちらはケースを研磨したようす。側面はヘアライン仕上げのため、手仕上げをしてあります。


カンの部分は鏡面仕上げです。研磨前(左)では小傷などがみられましたが、きれいに落ちています。(右)


ケーシングをしているところ。サイズが小さい上、ケース素材は18金です。バフ研磨機の力は強すぎるため、うっかり切削面を当てる角度を間違えただけで、あっという間に金は削り取られてケースが変形してしまいます。内部ムーブメントの整備と同様に高度な技と集中力がいりました。今夜はぐっすり眠れそうです。


完成。