RADO – Golden Horse

RADO | Golden Horse

ラドーのゴールデンホースの修理と外装研磨のご依頼です。お父様のご遺品をお母様に頼まれて、修理できるところをお探しとのこと。リュウズが巻けず動かない状態でしたが、当工房にて手入れさせていただきました。


ラドー ゴールデン・ホース

分解前の状態です。風防には割れやヒビが目立ちます。ケース本体も大小たくさん傷があり、使用感が強く年代を感じさせます。


外装は分解してサビなどの汚れを落とし、研磨を行いました。風防は純正品はカレンダー窓用のレンズ付きですが、あいにく汎用品ではサイズが限られており、窓のない通常タイプのものに交換を行いました。


ムーブメントを分解していき香箱を開けたところ、ゼンマイは巻き出しから少しのところで切れており、空回りする状態でした。


こちらも純正品はすでに製造されておらず、市場にもほとんど残っておりません。汎用品のゼンマイから規格にあったものを探して取り寄せします。ちょうどよいサイズのものがありました。


新しいゼンマイを香箱にセットするようす。注油もし直します。


ムーブメントもすべて分解して、パーツを洗浄しました。ルビー石の使い方が豪勢で、現在で同じものを作ると大変な金額になると思います。


バランス受けを裏返して、ヒゲ棒などを調整します。


緩急針のヒゲ棒が曲がっていたため、正しく調整し直しました。このヒゲ棒とドテの隙間にひげぜんまいが通ります。バランスが動作すると、両方の間をひげぜんまいが行き来します。設定の状態が良くないと、ひげぜんまいの動きが乱れて、歩度など時計の精度に影響します。


こちらはバランス本体を振れ見器にかけて、テンワやひげぜんまいの取り付け状態の確認・調整を行なっているところです。ひげぜんまいは天真の軸から等間隔に渦を巻いている必要があります。渦の中心は軸に一致させます。かつ、テンワと同様に軸に対して90°直交する水平面に取り付けされていなければなりません。それぞれを中心・水平と略して呼びます。


バランスを受けに取り付けます。ひげぜんまいの外端は、ヒゲ持ちにより受けに固定されます。この状態でさらに中心と水平が保たれるように、ひげぜんまいの外端カーブなどを整える調整を行います。また、緩急針をどの位置に動かしていっても、ひげぜんまいがヒゲ棒にもドテにも触れず、常に両者の中央にあるようなカーブにすることが理想です。

バランスの調整は一度に満たさなければならない条件が多く、概念としてはそう難しくなく説明は容易ですが、いざ実際にこれらの条件をすべて満たすように調整するのは非常に難しく、熟練を要する作業です。


ベースムーブメントを組み立てしていきます。輪列機構ができあがるまでのようす。ここでも歯車の取り付け状態や、実際に動かしたときの具合をチェックして、必要があれば修正を行います。


ベースムーブメントの歩度測定。組み立ての途中ですが、バランスの動作が可能になった時点でいちど動作の状態をチェックします。今回は新しいゼンマイを入れ直したため、従前の総合的な動作は確認できておらず、これが初めての測定になります。この結果をもとに、さらに調整箇所を見極めて修正の作業を行い、特性をより理想的な状態へと近づけていきます。


測定で12時下のときだけ歩度が他の姿勢と比べて大きく遅れています。今回の場合はテンワの片重りが原因で姿勢差が生じておりました。このため、バランスを裏返して、テンワの片重り取り調整(リバランス)を行うことにしました。


テンワの質量は、動作させたときの回転モーメントと相関関係にあり、バランスを取るために穴を開けすぎると、設計で期待された通りの値になりません。そのため、必要最小限にクリティカルに行わねばなりません。今回は赤い矢印の一点に絞って実施しました。


再び動作チェックをします。リバランス前と比較して、12時下の歩度は−8秒から+5秒へと改善しました。緩急針はもちろん、その他の部分はいっさい変更しておりません。テンワを少しでも削れば、このように特性に影響を与えます。詳細は時計理論に深く踏み込む内容でありここでは割愛しますが、理論を熟知していることはもちろん、テンワを削り取る量や位置などは技術者の腕前など経験がものを言う部分も大きいです。


最終特性

左上)文字盤上 振り角 301° 歩度 +005 sec/day

右上)文字盤下 振り角 282° 歩度 +014 sec/day

左下1) 3時下 振り角 244° 歩度 +013 sec/day

左下2)12時下 振り角 244° 歩度 +014 sec/day

右下3) 3時上 振り角 246° 歩度 +007 sec/day

右下4)12時上 振り角 243° 歩度 +009 sec/day

さらに自動巻ブロックを取り付けると、振り角が変化して動作の特性も変わってきます。歩度はバランスの振り角の影響を受けます。時間の経過とともにゼンマイがだんだんと解けていくと、振り角は落ちていきます。歩度は途中までは進みますが、あるピーク後からは遅れに転じます。振り角の変化とは単純な比例のような関係にはありません。各姿勢ごとに異なるとても複雑な変化をします。そういった点などを踏まえつつ、最終的にケーシングして、時計が実用的な精度を保てるように調整した結果がこの特性データとなります。


研磨前(左)研磨後(右)


針や文字盤などは基本的にそのままとし、容易に除去可能な油膜汚れや、チリやホコリの清掃のみを行います。ダイヤル・リダンや針の研磨などは当工房では受付いたしておりません。


完成。