CYMA – Ladies Watch

CYMA | Ladies Watch

シーマのレディース手巻き時計のオーバーホールご依頼です。2時間で30分位遅れるとのこと。パーツ交換で費用が高額になると困るとのこと。う〜ん。困ってしまいましたねぇ。ご依頼主は女性の方で、あまりにも明るくチャーミングなお問い合わせメッセージに毒気を抜かれ、思わずお引き受けしてしまいました。


CYMA レディース・手巻き時計

裏蓋を開けたところ、非防水構造の時代の時計にはお約束の赤サビで、ムーブメントも油は乾ききって相当年月にわたり放置されていたような感じです。引き受けたからにはやるしかありません。


グラスファイバー・ペンシルなどを使って、ネジ溝に深くこびりついたサビをよく落としていきます。ガラス繊維の粉がサビと共に大量に飛び散ります。うっかり指なんかに刺さると痛いし痒いし大変です。


さらに微細な部分のサビは、サビ取り液をつかって溶かしてしまいます。


パーツの補修が完了したところ。幸いまだ内部深くまでにはサビが進行しておらず、このまま再利用が可能な状態です。


ムーブメントを分解していく途中のひとコマ。4番車のカナに糸くずのようなものが絡みついています。昔の修理はいい加減な店も多く、時計の修理にはふさわしくない環境で中身をいじったのでしょう。古い時計にはままあります。


すべてのパーツを分解して、ベンジン・カップの中で丁寧に洗浄していきます。


古い油汚れや、細かな糸くずなどのゴミも綺麗さっぱり落ちました。


これはバランスの耐震装置です。穴石と受け石に分かれるようになっており、新しいオイルを石に乗せてはり合わせます。内部に入った油の張力だけでくっつきます。


地板にバランスを組んで、耐震装置をセットしたところ。この状態で、ひげぜんまいなどバランスの調整を行なっていきます。分解前は耐震装置の油が残っておらず、逆にヒゲなどの表面が油膜で汚れてベタベタだったため、正常な動作をせずに極端な遅れとなっていたようです。長くメンテナンスせず放置された時計ではよくある事例です。


腕時計は腕に巻けるほど小型で精密な機械です。レディースのものは、その中においてもさらに小型です。今回の時計のムーブメントはご覧の通り私の親指の爪とよい勝負です。この位はご婦人ものとしては普通です。


香箱のゼンマイも洗浄して再注油します。


ムーブメントを組み立てていきます。こちらは文字盤がのる巻き上げ・針回し機構のようす。


つづいて、輪列側の歯車を乗せていくところ。ムーブメントはETA2412の刻印がみられます。過去あまり整備・使用されてこなかった個体だったのか、パーツの摩耗などはほとんどなく交換が必要となるものも見当たりませんでした。とてもラッキーな事例だと思います。


ムーブメントの組み立てが完成しました。ゼンマイを巻くと、元気よくバランスが振りはじめます。


最終特性

左上)文字盤上 振り角 302° 歩度 +005 sec/day

右上)文字盤下 振り角 293° 歩度 +004 sec/day

左下1) 3時下 振り角 240° 歩度 +008 sec/day

左下2)12時下 振り角 242° 歩度 +004 sec/day

右下3) 3時上 振り角 246° 歩度 +004 sec/day

右下4)12時上 振り角 246° 歩度 +007 sec/day

現行製品にも引けをとらない立派な特性です。よほど今回のご依頼主さまは普段の行いが良い方なのでしょう。エタクロンが実装されていない旧型ETAムーブメントでしたが、調整がうまくいきました。めったに見られないパターンです。


外装ケースも長い年月による緑青などが内部に見られます。


ブレスレットと合わせて洗浄を行いました。ケースは金メッキ製で研磨には向いていませんが、軽くツヤ出しを行いました。


分解前(上)研磨後(下)


分解前(上)研磨後(下)


完成後お引き渡し後日、うれしいお便りを頂戴しました。一部を引用させていただきます。

『今朝もモチロン、CYMA元気です!ィヤッホ〜〜ィ♪今日はCYMAを Bunkamuraの『英国の夢 ラファエル前派展』に連れてってあげます。
・・英国というかんじの時計ではないけれど〜?行ってきま〜〜す!』

とてもお気に召されましたようで、たいへん嬉しい限りでございます。ウキウキとお出かけになるご様子が目に浮かぶようです。ああ、自分は時計師になって良かったのだと思いました。