SEIKO – 45GS

SEIKO | GS 4520-7010

セイコーの45GSのオーバーホールご依頼です。内部ムーブメントの状態が良くないため、複数台組み上げの『すべておまかせコース』にてご対応させていただきました。


セイコー・GS 4520-7010

左がご依頼品で、右は当工房にてご用意した時計です。


まず分解前の測定から。こちらはご依頼品のほうです。一部の姿勢で波形の飛びが見られるのが気になります。振りもあまり高くなく150°前後です。


つづいてパーツ取り用のもの。こちらのほうが波形が綺麗で動作の安定がみられます。振りも170°前後まで出ています。少しマシな状態ですが、時計として良いわけではありません。


裏蓋をあけたところ。ご依頼品(左)ではムーブメント全体にやや整備傷などが多く見られます。おおむねどちらも年式相応といったところです。


カレンダーの切り替わるタイミングで途中で止まってしまう不具合があります。原因を調べていきます。


文字盤を外したところ。カレンダーディスクを規制するハンマーとバネの部分にご注目ください。修理前(上)はハンマーが戻りきらず、ディスクが途中でつっかえて止まってしまっています。修理後(下)は正しい位置までハンマーが戻って、ディスクの位置を固定しています。


バネを拡大したところ。修理前(右)はバネが太く強すぎます。また形状も取り付け溝に合っておりません。ハンマーの頭もとらえておらず、力のかかるポイントが間違っており、正常に機能していませんでした。過去の修理で交換したものと思いますが、ちょっとこれはいただけません。当工房にて適正なパーツに交換しました。(左)


複数台組み上げをしていくところ。良いパーツだけを使って、新たに1台のムーブメントを作ります。


これは2番車を拡大したようす。ご依頼品(右)のものはカナの部分に赤サビが生じてしまっております。歯もところどころ痛んでおり、再利用は厳しい状態です。


こちらは3番車の穴石を取り外したところ。穴の内側に欠けがみられます。(左)このため3番車のホゾも傷で摩耗していました。穴石と歯車の両方とも交換が必要ですが、こういうパーツ単体だけでは現在では入手することができません。複数台組み上げでしか対応できない典型例です。


これは穴石を交換して再び地板に組み込んでいるところです。


HORIAのジュエリング・ツールを使います。1/100mm 単位での細かい調整が可能なハイグレード・バージョンを使用しております。


穴石がバッチリ決まったところ。


地板に輪列を組んでいきます。香箱、2番車〜4番車、ガンギ車まで組んで、時計のベースとなる部分はここまでです。(左)さらにこのムーブメントは秒針をセンターにつけるための秒車を追加しています。(右)


秒車はガンギ車のカナを使って動かします。めずらしいタイプであまり他のムーブメントでは見かけません。45GSでよくあるお問い合わせに「秒針の動きがぎこちない」というものがありますが、これはパーツの不具合や整備のやり方に問題があるわけではなく、このような特殊な輪列の構造に起因します。


輪列の上には受けが乗ります。ガンギまでの輪列は、その後にアンクルやバランスを取り付けることで、香箱から生じるゼンマイのトルクエネルギーを最終的に受け止めることができます。ところが秒車はガンギに接続されているだけで浮いた状態のままです。ガンギのカッチンコッチンという振動を直に受けて動作するため、スイープというよりは左右に小刻みにブレながら文字盤上を周回するような、不自然でぎこちない動きとなります。


ここで他のムーブメントの例をみてみましょう。これはオメガのcal.600です。秒針を時計の中心に取り付けるため、ベースの輪列の系統とは別に3番車から秒カナを動かすしくみです。しかし、このままでは45GSと同じで、秒カナは輪列から浮いた状態でフラフラしています。


そこでオメガcal.600の場合は、このように秒カナと共に動きを規制するための板バネを組んであります。バネのテンションにより秒カナは半固定されています。こうすることでなめらかな回転をすることができ、視覚的にも自然でスムーズな針の動きとなります。45GSの秒車にはこのようなパーツがありません。


これはバランスをハックするためのパーツと、それを組んだようすです。パーツの点数が多く、組み立てがしにくい形状のうえ、パーツの加工法や仕上げが荒く、ハックをすればするほどバランスのテンワ側面に傷がついてしまうという欠点があります。秒車の仕組みと合わせて、これもあまりよい機構とは思いません。


ベースムーブメントの完成したところ。45GSについてネットなどで調べると、やたらと『歴代セイコー機械式時計の最高傑作』などと評されたコピペが目立ちますが、あくまでこの時計が発売された当時の情報と理解すべきでしょう。コレクションのひとつとして愛でるのは結構と思いますが、時計師の視点からすると少し疑問符のつく機械だと思います。


ベースムーブメントの特性をチェックします。ゼンマイ半巻きの状態ですが、全巻きで測定した冒頭の特性よりも良くなりました。波形の妙な飛びも直ってひと安心です。


ベースが順調なため、カレンダー機構の組み付けに進みます。つづいて文字盤と針まで取り付けたところ。カレンダーも今度はちゃんと窓にピッタリ表示されています。


ケーシングしたようす。60〜70年代ごろの国産の古い時計はとにかくデタラメな修理をされたものがやたらと多く、ただ分解掃除して油を注して組むだけのオーバーホールのみでは直せません。従来の徒弟制と時代遅れの国家資格でメシが食えたのは昭和・平成で終わったと思います。

私は世界基準のスキルで仕事をしております。かつ、個人的な好き嫌いは関係なく、私の仕事とは、その機械の持つポテンシャルを最大限まで発揮させることだと思っております。私にできることは、常に出し惜しまずにまいります。これまでも。これからも。


最終特性

左上)文字盤上 振り角 201° 歩度 +014 sec/day

右上)文字盤下 振り角 198° 歩度 +010 sec/day

左下1) 3時下 振り角 180° 歩度 +004 sec/day

左下2)12時下 振り角 175° 歩度 +010 sec/day

右下3) 3時上 振り角 175° 歩度 +011 sec/day

右下4)12時上 振り角 179° 歩度 +002 sec/day