ロレックス・エクスプローラー II

ROLEX Explorer II Ref.16550

ロレックスのエクスプローラー2のオーバーホールご依頼です。ベゼルと24時間針が同梱されており、交換ご希望です。同梱パーツの交換はオーバーホールに付帯するサービスとして実施いたしておりますが、パーツはリファレンス (Ref.) に対応した正しいものである前提で行いますので、取り付けできないパーツの場合はそのままご返却とさせていただきます。


ロレックス・エクスプローラー2

分解前の測定から。全巻きですが平2姿勢で240度ほどしか振っておりません。縦4姿勢はいずれも200度前後。歩度も全体として遅れており、ー6秒〜ー19秒程度までとバラツキがあります。明らかにくたびれた特性であることが見て取れます。


同梱されてきたベゼル・針(下)と、別途取り寄せの内部パーツ(上)

パーツはロレックス・オーナーの場合、日本ロレックスなどで外装パーツを交換することができ、自前で保管しているものを元に戻したいような時に今回のようなご依頼をいただくことがあります。その場合は、オリジナル・パーツであることが間違いないのでお引き受けしやすいのですが、、。

熱心な時計ファンの中には、オークションなど非正規のルートで得たパーツなどを同梱してきて「交換してほしい」と言われることがあります。こういう場合は、オリジナル・パーツでないこともあり、後日に例えば譲渡・売却しようとした際などの真贋鑑定に引っかかったり、査定額などに影響を与える恐れがあります。そのため、こちらでは交換作業は請け負いますが、その後に生じたいかなる損害についても責は負いかねます。このことをあらかじめご了承いただき、同意された方のみ交換作業を行なっております。当然ながら、実際に作業してサイズが合わないなど交換できないパーツであるときは、こちらでは何も行わずパーツはそのままご返却とさせていただきます。持ち込み・同梱のパーツは、正しく取り付け可能なパーツであることを前提とさせていただきます。

なお、当工房では同梱パーツの交換を推奨したりしているわけではございませんので、あらかじめご承知おき願いたいと思います。あくまでもご依頼主様の自己責任にてお願いいたします。


内部ムーブメントを取り出していきます。今回のご依頼は、質屋で中古品を買ったので、そのオーバーホールのご依頼ということでした。文字盤は写真のとおりの有様で、明らかに劣化が見られます。古代遺跡ファンなどには、『朽ちていく廃墟の美』というものを評価する趣向があるそうで、あながち時計ファンにもそういう方がいても不思議ではありません。実際、海外のヴィンテージ品の中には、そうした古色があるものほど高い価格で取引される場合があります。文字盤でいえば、夜光塗料などが経年の劣化による変色でアメ色になったものなどが珍重されたりします。

そうした古色がお嫌でない方にとっては、価格など何らかの理由で掘り出し物をみつけることがあるのかも知れません。


文字盤を外して、針を抜いたところ。かなりの腐食で表面には緑青が吹いております。文字盤・針ともにこれはどうにもできませんので、当工房では何もせずこのまま最後に組み直すだけです。よく「綺麗になった」とお礼をいただきますが、それはケースの風防の内側に蒸着していた油膜を落としたため、キレイになったように見えるだけであったりします。ぬか喜びになってしまい心苦しいのですが、針や文字盤をクリーニングしてもらえると思い込まれると、後日の思わぬトラブルになることがあり、正直にお話をしてご理解を得られるよう努めております。

この腐食具合も美学?、、、なのかどうかはさておき。時計師的には外装をみて、明らかに劣化しているような時計の購入はあまりおすすめできません。その理由が今回のオーバーホールの作業のようすを順に追っていくごとに、明らかになっていくと思います。


ケースのベゼルを分解したところ。中古にはお約束の赤錆がでておりました。ロレックスのケースは904Lステンレスという、非常に錆びにくい特殊なステンレスなのですが、錆びるときは錆びます。絶対に錆びないというわけではありません。

それにしても、余程に過酷な使用環境で酷使したまま、長年にわたってノーメンテなど放置しない限りは、ここまで赤錆がでるのは非常にまれです。文字盤があんなにヒビだらけになるくらいですから、内部に異常な湿度や温度などの要因が加わって、劣化が極端に早まったと考えるのが普通です。文字盤や針の劣化をつぶさに観察すると、過去におよそどんな扱いをその時計が受けてきたかは想像がつきます。文字盤や針だけが極端に劣化して、あとは大丈夫だった、、、ということは実際にはあまり起こるとは思えません。全体が同時にダメージを受けている、と考えるのが普通ではないでしょうか。それが、分解していくほどに見えてきます。


同梱のベゼルを交換して取り付けしているようす。グラス・プッシャーを使い、このように『ガッチャン』と圧入して取り付けをします。そのため、取り付け位置などが想定したところから、わずかに動いてしまうこともあります。あまりにズレがひどい時にはやり直しますが、何度も外したり付けたり繰り返すと、パーツそのものが痛んだりユルユルになってしまうので、基本は一発勝負です。ごくわずかな位置のズレはご容赦ください。

同梱ベゼルはどうやら無事に取り付けできました。仮に間違ったパーツをこの方法で取り付けるとどうなるか、これでおわかりだと思います。ガラスがパッキーンと割れたり、あちこち傷だらけになったり、最悪の場合、ケースも痛んで二度と正しいパーツがつけられなくなったり、まあ色々と悲惨です。そのため、同梱パーツへの交換なんてものは嫌がる時計師のほうが多いです。誰でも客の間違った判断によるリスクを、自分の作業によって実現したり責を転化されたくはありません。そのため、同様のご依頼をご検討されているかた。まえもって、みっちりとメールでしつこく詮索・追求されることを覚悟してください。その時計やパーツの入手先から始まり、おいくらでした?とか、リスクについて、今後について、などなど。なにもかも問い詰め&念押しモードになっちゃいます。どうしても。


続いて内部ムーブメントの分解です。これは自動巻ローターとブロックの表板を外したところ。ありゃー。錆びだらけですね。明らかに1枚の車の周囲とわかるほどに細かく吹いて散っております。この位置にくる歯車といえば、おなじみの切替車でございます。予想通りと申しますか。少なくとも、時計師による何らかの手入れがされないまま、中古品として売られた品であることはこれで確定的です。こういうものは、過去ブログでも何度も取り上げております通り、中は不具合のオン・パレードとなります。

この時計の入手は質屋でしたか。確かに業務内容としては、お金の融通の代わりに品物を預かる、という業態ですから。堂々とノーメンテ品でも質流れするでしょうし、買う方もそれは承知のうえということになってしまうでしょう。なくならないですねー。当工房ブログでは散々再三に渡って注意喚起してきたパターンですが、当のご依頼主様はだいたい初見の方ばかり。今回のかたもそうでした。


こちらは自動巻ブロックの残り部分。2つある切替車の片方が猛烈にサビております。この歯車は、ローターが回るとその勢いに応じてビュルンビュルンと回転しますので、ホゾでも錆びていれば猛烈な勢いで周囲にサビ粉を撒き散らします。そして、サビが周囲にも伝染ってしまいます。定期メンテナンスをしていれば、万が一サビが生じたパーツがあったとしても、比較的はやい段階で気がついて、修理・交換できます。ずっとノーメンテの場合、どんどん被害は拡大していきます。


切替車を取り外して分解したところ。ご覧のとおりで、ホゾがすっかり摩耗しきって変形しております。ここが赤サビの発生源でした。これはすでに補修でなんとかできるレベルは過ぎており、交換が必要です。ロレックス純正のパッケージ取り寄せとなります。パーツ上代はこちらは今回3万円となりました。(時価ですから将来にわたって同じとは限りません)オーバーホール費用は自動巻で2万円ですので、それよりも高いです。これもいつもお知らせしていることですが、高級腕時計のパーツは当工房のサービス費用そのものよりもはるかに高くつく場合が多いです。当工房でのサービス費用を極力抑えたい場合には、できるだけ不具合のない整備状態のよい時計を入手することに尽きます。


さらに自動巻ブロックを外したムーブメントのようす。赤サビがこちらにも乗り移って大量に付着しております。輪列の受けは、全体が表面のメッキが擦り切れたように剥げており、下地の真鍮が露出してしまっております。ここまで状態がヒドイものはあまり見かけないです。注意深く観察すると、ネジの頭の溝などは、それと対照的なほどに状態が良いですが、所々少しだけ整備痕が見受けられます。これらから類推されることは、定期メンテナンスはほとんど行われず、長年に渡ってかなり乱雑な使用をされていた個体であるということです。余分な注油がムーブメントのいたる部分にはみ出していることからは、過去受けたであろう数少ないメンテナンスの内容や技術レベルにも疑問符がつきます。従前の持ち主の人物像からは、豪華な時計を身につけている割には、ケチくさい性格でメンテナンスに費用をかけずに済まそう、という昭和の男の典型例が透けて見えます。そういう使い方すると、こうなってしまいますよ。


お次は輪列受けを外したところ、3番車にも赤サビが。ホゾに磨耗痕がまんべんなく付いてしまっており、これも判定はアウト。輪列の歯車は、わずかな磨耗でも性能に及ぼす影響は重大なため、一見するとまだ使えるように見えるものでも交換が必要です。見なかったふりして(あるいは見落として)うっかり継続利用すると、だいたい数ヶ月と経たないうちに「時計が止まる」という苦情とともに、再整備を依頼される羽目になります。私も何度そういうことを経験したかわかりません。ほんとうに、神経質すぎるほど少しでも磨耗した状態のものは、目ざとく見つけて交換しなければなりません。今回のような赤サビを生じてしまった状態ならなおさらです。注油しなおしても、サビたパーツはそこで摩擦力が生じて、後日止まりの原因になります。これでは『1年の動作保証』など出来ず、再び不具合を生じた時計の再整備のために、年中無駄な時間と労力を費やすことになるのです。

ちなみにこちらのパーツ上代は2万円也。(時価)これで、切替車とオーバーホール費用すべて合わせて7万円です。ブログで以前に個別の合計金額を修理事例と一緒に載せていたのですが廃止しました。理由は、その金額を参考にされてしまうと、大きく異なる事例ではご依頼主も私も互いに気まずい思いをすることがわかってきたからです。オーバーホールのみで済んだ事例は、当工房の料金ページの表の金額とすべて同じです。ならば、わざわざ表示する必要もないかと。個別にパーツ交換が必要になった事例に限り、あくまで当時のパーツ価格として記録しておく程度です。費用はそのときどきの時価であることにご注意ください。また、修理総額は個別にいくらにでも変わりうることを、当工房の数々の過去事例からよくよく学んでいただきたいと思います。ダメな個体ほど高くつくのは、当たり前のことです。


3番車の交換前(上) 交換後(下)

中央が3番車です。交換前はホゾが真っ赤に錆び色になっているのが分かると思います。交換後はピカピカにホゾが輝いております。ホゾの状態はすべてこのように光っていなければなりません。パーツの種類や錆びた場所によっては、サビ取り補修により継続利用できることもありますが、今回は自動巻ブロックの直下に輪列があり、そこで生じたサビ粉が飛んで輪列の歯車もダメにした典型例でした。むしろ3番車だけで済んだのは不幸中の幸いだったかも知れません。例えば輪列の歯車が軒並み全部サビていれば、パーツ上代だけで軽く10万円はかかったでしょう。このように、内部ムーブメントのパーツ交換は数が多くなるほど天井知らずの費用がかかります。間違ったメンテナンス方法や、持ち主の取り扱い方によっては、せっかくの高級品が簡単に台無しになってしまうのです。そして、中古品などというものは、中身の状態が得体の知れないものだと、知っておくべきでしょう。


切替車の新品純正ファクトリー・パッケージ。ロレックスは真贋にはとりわけ厳しいブランドとして有名です。巷にはジェネリック・パーツと称した、いわゆる偽物パーツも溢れております。近年はきわめてオリジナルに近い性能のジェネリック・パーツも存在するため、オリジナル・パーツに比べてとりわけ価格面で優位なそれらの代用品で修理を行う業者も数多く見受けられます。アトリエ・ドゥでは、原則としてどのブランドであってもオリジナル・パーツが入手できるものは、優先的に採用します。(ジェネリック・パーツしか入手できない場合に限り、ご依頼主の同意を得て使用することもあります)ブランドによっては入手ルートが限られるため、海外から取り寄せとなることも多く、その場合は入手に約1ヶ月程度のお時間をいただきます。今回も納期が通常より1ヶ月ほど長くかかりました。コロナ禍により物流が混乱・停滞していることに加え、価格も非常に不安定となっております。今後いつまでも今回と同じ価格で提供できるかどうかはわかりません。世界の情勢は緊迫しており、以前のような秩序ある世界に戻れるかどうかも予断を許さない雲行きとなってきました。すでに国によっては取引不能な状態です。


パッケージを開封して、パーツを取り出したところ。さすがに未使用品なので、ピカピカですね。パッケージには偽造防止のためのマイクロチップが埋め込まれていることが分かります。これで真正品であることはモチロン、製造された日時や工場などの情報が管理されているそうです。ウチは正規のサービスセンターではありませんので、その情報を読み取る機械などはありませんが、、。そんなものに頼らなくても、この目が知っております。(笑)ちなみに、私が過去に勤務していた御徒町の修理業者は、日本ロレックスの正規代理店でした。そこで本物のパーツは嫌というほど見て知っております。棚卸しには、パーツの数を数えさせられまして。保管方法なども厳密に決められており、ちょろまかしたりすればすぐバレます。その位のものです。そういえば、上海修行のときの上司にも、元ロレックスの時計師がおりまして、その人からもずいぶんノウハウなどを教えてもらいました。まあ、時計師の世界には裏では結構そういうつながりがあったりで、技術的なことやパーツの融通がきく裏道があったりもするわけです。偽物情報も頻繁に出回って共有したり、ニセモノ現物の品評会とかしていて、判断できる力が自然と身につきます。ロレックス・パーツに関して私を信じてくださいとまでは申しませんが、一般の人がオークションなどでパーツを買う目利きのレベルとは訳が違うことは確かです。


香箱の蓋をあけたところ。ゼンマイは真っ黒に汚れておりますが、乾ききってはおりませんでした。ムーブメントの受けなどに、油がドボドボ流れて照り光っている個体だったことと合わせ、香箱の中にも過去にありえない量の油を流したものと思われます。それでも当然ながら年月とともに汚れてきます。カスが余計な摩擦を生じます。適切にメンテナンスされなければ、所期の性能は発揮できません。ただ油さえ流せばいいのではないのです。それは今回の分解前の測定結果からも明らかです。


ゼンマイを取り出して洗浄し、巻き直した上で注油しなおします。前回の手入れした業者は、たぶん蓋を開けて上からドボドボと油を流しただけだったろうと思います。汚れ具合や、カスの残った様子などからおよそ見当がつきます。それにしても、近年はますますこうした不良整備のお品を依頼されることが多くなってきた気がします。21世紀に入ってから作られた現行品は少なくなり、20世紀に作られたアンティーク品扱いのものばかりがやってきます。ロレックスなどは最も極端で、現行品かそれに近い品は、中古品にもかかわらずかつての新品以上の値段で取引される始末。中古品の流通にも影響を与えているとみえて、ウチに来るのは(こういっては失礼ながら)変な品ばかり。それでもご依頼があるうちはいいほうで、最近はすっかり閑古鳥です。これもコロナ禍の影響なのでしょうか。ちょっとこの先ウチの店もどうなるのだろうかという不安がよぎったりもします。現在のところはなんとか食っていくギリギリのラインですが、さらに需要が落ち込むようであれば、生活の方法を全く根底から見直して、生き方そのものを変えざる得ないような気がしております。


すべてのパーツの分解と洗浄がおわったところ。さてさて、あとは組むばかり。ここにたどり着くまでが、最近長い。ネタに困らないのは結構なことですが。(苦笑)


地板にバランスを組んで、ヒゲ具合の調整と確認。ヒゲそのものは、幸いたいした苦労もなく少しの修正で済んだものの、テンワの表面などがかなり劣化しており、リバランスを兼ねた歩度の調整で少し苦労しました。地板をみれば明らかですが、こちらも表面がまるで何かを擦り付けたようにメッキがところどころ剥がれてしまっております。よほどに何か変な油でもつかって、それがはみ出して付着したところが劣化でも起こしたか、保管中の温度条件が明らかに異常な環境下に長年放置されたか、いずれにせよ繰り返しになって恐縮ながら、めったに見られないほどヒドイ個体です。かつてなら、わざわざ買い直されるはずの筋のものでもなかったものが、掘り起こされるようにして市場に流通している?ということなのでしょうか、、、。


ベース・ムーブメントまでが組み立て完成したところ。輪列受けのメッキ剥がれが少し痛々しい感じです。バランスは元気よく振っています。


カレンダーと針回しの表側の組み立てへ進みます。今回はベゼルに加え、24時間針の交換もご希望でした。仮組みして状態を確認、、、のところで、おや?

何かがおかしい、、、。

これは!!!


24時間針がつくのは、この特殊な構造の歯車なのです。これはその歯車を分解して洗浄したところ。これらの細かいパーツをすべて組み上げると、赤いひとつの歯車になるのですが、24時間針はこれにつきます。ふむ。

では、一つ前の写真をみてみましょう。針がついていることはついているのですが、、、実はこの写真の針とは別の針です。


2本ならぶ24時間針。2つをならべてみて、はじめて気がつきました。

「同梱の針はディビジョンが合ってないやん!!!」

あ〜あ。ご依頼主には取り付けできそう、とお返事してしまったのですが。ムリですね、これは。どちらもロレックス・エクスプローラー2用の針であることは、間違いないです。でも取り付けできません。

何故!?

、、、それは、ムーブメントの型番が違うからです。


真ん中の赤い車が本来の24時間針のつく歯車です。すぐ上に今回同梱された針をとりつけられた歯車を置いていますが、これはたまたま取り付けできる大きさであった、別の針用の歯車です。(時針がつく筒車です)

見積もり時には針をぜんぶ外して、それから同梱の針を合わせてみて、取り付けできると早とちりしてしまいました。本来、24時間針がつく段とは別の段に、たまたま差せただけでした。そこは24時間針のつく段ではなく、時針の段だったのです。

うーむ。やってしまった、、、。


針をはずして、歯車だけにすると、こうなります。

中央の赤い歯車(24時間針)のさらにひとつ外側に、筒車(時針)が重なる構造をしています。

実は、ロレックス・エクスプローラー2は、採用されているムーブメントの構造が、リファレンス (Ref.) によって全く異なるのです。そのため、外装の針にもバージョンごとに取付け寸法の異なる針が存在します。

今回のご依頼主様は、その点を確認されていなかったようです。Ref.のバージョンは把握されていたので、おそらくご承知なのだろうと、私もよく確認しなかったミスでした。同梱の針は今回のRef.16550用のものではありませんでした。

こうしたことが、同梱で交換希望のパーツにはしばしば起こります。


ご依頼主側にて交換パーツの準備をすることを、私がおすすめできない理由は、まさに今回のようなことが頻繁に起こるためでもあります。オークションなどでは『ロレックス・エクスプローラー2用』などと称して売られていたのでしょうが、誤りではないにしろ、それは時計師からみたら罠か騙し商法としか思えません。そういう分類の仕方は時計師の世界ではあり得ません。我々プロは、パーツはムーブメントにしろ外装にしろ、すべて番号で取り扱うことがほとんどです。メーカーの出しているムーブメントの組立・注油指示書(マニュアル)などにも、パーツひとつひとつの名称や図などと共に、必ず『パーツ番号』が割り当てられており、その番号をもとにしてパーツの取り寄せや発注などの業務を行なっているのです。一般の方は、ほとんどがこの事実をご存知ではありません。それで、容易に『◯◯用』などと表示された適当な売り手からパーツを買ってしまう。そのパーツが全てのモデルに共通とは限らないのです。時計師は必ず番号を確認して、マニュアルと一致することを確かめます。中には異なるムーブメントで共通のパーツがある場合もあり、この辺が非常にややこしいのですが、とにかく時計の世界はそういう約束事があります。


どうも、期待させてしまいまして、申し訳ございません。

残念ながら、お送りいただきました同梱の針は、取付け不可のためご返却とさせていただきます。

なるべくは、事前に取付け不可となるものは早めにお伝えできればよいのですが、実際には組立のその瞬間になってはじめて判明するようなものもあり、今回は少しミスでしたが、いずれにしろ間違ったバージョンのパーツであった事実には変わりがございませんため、こちらでどうすることもできないです。

こういうことがあるのも、あまりスマートではありませんので、ご依頼主側にて時計の交換用パーツをご用意されることは、【まったく】おすすめしておりません。

パーツをどうしてもご自身にて準備されたい場合には、各個人様の責任にて行なってくださいますようお願いいたします。当工房では正しいパーツであることを前提に受付をいたします。

こちらでは同梱パーツが取付け可能な場合のみ、オーバーホール作業に付帯するものとして行います。パーツのみの交換であるとか、真贋鑑定であるとか、そういったご質問やご要望にはいっさいお答えいたしかねます。あらかじめご承知おき願います。


ようやくケーシングまで辿りつきました、、、。(なんだか今回も疲れてしまった、、、)


最終特性

左上)文字盤上 振り角 278° 歩度 +007 sec/day

右上)文字盤下 振り角 278° 歩度 +007 sec/day

左下1) 3時下 振り角 242° 歩度 +001 sec/day

左下2)12時下 振り角 250° 歩度 +007 sec/day

右下3) 3時上 振り角 252° 歩度 +005 sec/day

右下4)12時上 振り角 246° 歩度 -002 sec/day

最終特性。振りは平姿勢でわずかに280度を下回っていますが、許容範囲でしょう。縦姿勢も分解前より元気に振っております。歩度は12時上という、比較的日常では起こることがない姿勢でのみ−2秒ですが、残りは全て+7秒までに収まっており、最大姿勢差は全体でも−2〜+7(Δ9秒)と、まずまずです。実測値も日差がプラス数秒程度であり良好です。あちこちパーツ交換したり、再調整した効果がでております。見た目のヒドさとは裏腹に、健闘した結果となりました。じゅうぶんに日常ご使用になれる性能に回復できたと言ってよいと思います。腐っても鯛ならぬ、ロレックスといったところでしょうか。


完成。文字盤のヒビ割れも針の劣化も、自然な裸眼による遠目にはほとんど気になりません。ベゼルも中古良品程度で小傷が全体にありますが、大きな傷がないため、パッと見は新品ぽく見えます。これで今回の修理代金総額が安いとみるか高いとみるかは、判断が分かれるところでしょう。しかし、くれぐれも中古品の実態についてはご注意ください。コメ兵など大手の上場企業では、時計師を雇って中身もちゃんと手入れしているのであの値段なのです。聞いたことないような中古店ならもっと安く手に入るからといって、中身のパーツを交換されまくったら今回と同じか、場合によっては大手業者の販売価格を上回ってしまうかも知れません。中古ロレなどをなんとか手に入れて使いたいとお考えのかたは、よくよくリスクを踏まえた上で、入手先をお選びになることです。(個人のオークションはさらにハイリスクであると覚悟しましょう)