44 キングセイコー

SEIKO | 44 King Seiko

44キングセイコー2本の修理【すべておまかせコース】のご依頼をいただきました。金貨での決済をご希望されまして、時計と共に同梱されてきました。この際のご利用のお手本となるサービス内容となります。※『すべておまかせコース』は2023年6月をもちまして終了しました。現在はご提供しておりません。こちらは過去の参考事例となります。


セイコー ・44-9990 / 4420-9990

同梱の金貨はなんと1トロイオンス(oz)です。いわずもがなですが、10枚分の 1/10oz金貨と同じ重さとなるものです。これは当工房の10日分の仕事に相当する対価となります。

2022年5月より運営方針を変更しまして現金に加えて金貨での決済を取り扱いはじめたのですが、当面は金貨で支払おうなどという御仁はそうそう現れまいと予想していて、あまりの驚速レスポンスぶりにこちらが呆気にとられてしまったほどです。

このところの物価高を感じてはいてもしょせん一時的なものでいずれ収まるかのように甘くみている人が多いです。誰も深く考えようとはせず、目先のことだけにとらわれて、日々の生活に流される。それで、食糧が急に入手難になるとか何か起きてからようやく気づいてみんな一緒に騒ぎ出す。まあ、それがフツーかも知れないです。家族はじめ親戚や知人など親しい関係の人たちに今後起きてくるワクチンの害・食糧エネルギー危機・経済崩壊の危機・第三次世界大戦の危機・地震噴火天災など、主に5大危機がいっぺんに襲ってくる近未来を熱心にいくら説いても、誰も真に受けようとしませんでした。私は相当な希少人種のようです。苦笑

まあ、もうまもなくでしょうねぇ。2022年の秋頃から一気に次々と、畳み掛けるように起こって来ると思います。

(気づいた頃には金を買いたくても現物が尽きて相場だけが独り歩き状態になって、もうどこにも売っていないと思いますが、、、)


まだレーザー刻印がはじまる前(2014年よりも前)に作られたバージョンのメイプルリーフ金貨。わざわざ昔の年度のプレミアム価格のついたものを今入手して送ってくるとは思えませんので、この金貨の発行年のころに普通に準備用としてご入手されていたものでしょう。(これを送ってくるということは、コレクションとして集めたものでもなさそうなことが分かります)もちろんウチでは発行年の違いを理由に付加価値の有無は考慮に入れません。それは骨董屋の仕事であって、ウチは純粋な金地金として扱います。

私など時計修理以外のことに関しては一介の凡人と何も変わらない身で金についてにわかに騒ぎ出したわけですが、気が付かれていた方はとっくに金を準備されていたということです。そしてそれをポンとお使いになる。世の中広いですね。人物はいるところにはいるものです。


重量は「31.18g」1トロイオンスは31.1035gなので、合格。だいたいどの国の造幣局でもわずかに重くなるように作るそうです。少しでも足りないと1トロイオンスとは称せなくなりますので。変な合金だと重さが軽くなったり重くなったりします。よく海外の決済では札をブラックライトにかざすようなもので、受け取りの儀式として一応計測します。まあ慣れるとだいたい手に取れば本物の金かどうかは分かるようになります。感触で硬さや熱伝導率のようなものには敏感です。ジュエラーとか研磨師さんならなおさら。あとは私のような時計師でも研磨経験の豊富な方なら。(風防なんかも私は触るだけでミネラルガラスなのかプラなのかサファイアなのか分かります。これホント)音でわかる人もいるそうです。ユダヤの商人なんかがそれ。

ほか真贋鑑定のために、古くはオリンピックの金メダルが純金であることを確かめるため、噛んで歯型がつけば金だと判定する方法ですとか。(今の金メダルはめっきですが、選手がパフォーマンスとして噛むそぶりのポーズをとるのはその名残)

まさかに噛みませんが。笑


金貨がきたので前置き長くなりました。分解前の測定から。

こちらは44のほう。平姿勢からしてすでに進みと遅れにハッキリ分かれています。縦4姿勢に至ってはバラバラで差が激しいです。最大姿勢差が1分近くあります。これでは実用にはなりません。


続いて、4420のほう。平姿勢がバッチリ日差ゼロに合わせ込んでありますね。でも縦姿勢で重要な姿勢(3時下・12時下)が軒並み遅れなので、腕に巻いて使うとおそらく遅れると思います。

文字盤上にして“置いておく”だけなら、恐ろしく正確かも知れません。

なぜウチでは6姿勢の測定データを公開しているのか。(そしてなぜそれが可能なのか)

どうして他の多くの修理とか販売の店ではそれをやらないのか。

このことがお分かりになって、本当に機械式時計のお好きな方たちがアトリエ・ドゥをご贔屓にしてくださります。


裏蓋をあけていきます。バランスの耐震装置には完全に油が残っておりません。緩急針の微調節のツマミだけが何やら傷だらけでいじられておりますね。

もう、何が言いたいかお分かりですね。

こういう転売屋みたいなのはなくならない。(平姿勢だけの測定データの画像とかおもむろにつけて売るんでしょうね)

ご依頼主さまはこの時計をネットで入手して、ウチに依頼される前に、ご近所の時計師さんに見せに行って、「これは直らない」とか何とか言われて体良く断られてしまったのだそう。裏蓋開けたのかどうかまでは分かりませんが、これを見ただけで過去ろくな整備がされていないことは時計師ならすぐ分かります。後難を恐れて敬遠したか。


さらに4420の機留めネジが片方頭がとれて折れ込んでいます。これもネジ抜き技術のないところは真っ先に断る場合があります。この状態で使うと、ムーブメントが衝撃で動いて壊れることがあります。なのでネジを抜いてキチンと直さないといけませんが、これが場合によってはとんでもなく時間を食う虫ですので、、、。

(類似の症例は当工房でも過去何度かご紹介しました。下手するとエライ目みます)

オールドセイコーには非常に多い破損パターンのひとつ。ウチでもなんだかんだと、「おまかせおまかせ」と呪文のように連呼して、安易なご依頼を寄せ付けなくしている理由のひとつかも知れません。悪霊退散!

とにかくコレ面倒なんですよ。苦笑

おまかせコースじゃなかったら、あんまりやりたくない。


ケース本体も分解しまして。これはうっかり研磨しちゃうパターンですね♪

(金貨の威力は絶大なり)


左は44。右が4420。

ケース形状が違い風防も取り付け寸法などが異なります。右はオリジナルっぽいですが、両方ともアフターマーケット品かも知れません。とくに44のほうはひどい。底がカットされて、内溝を自前の旋盤かなにかで削った様子がみてわかります。しかもよく見ると底面と上面が平行でなく、わずかに斜めにカットされています。あちゃあー。

本来であれば純正品の風防に交換すべき案件ですが、ご存知44セイコーは人気が高く、純正の交換パーツなどはもう市場には残っておりません。たまに出たかと思えば、1万円とか訳のわからないプレミア価格でここでも転売屋が暗躍している世界です。

あまりに馬鹿馬鹿しいので、汎用品で近い形のものを加工して付け替えたのでしょう。このため、もともと黎明期の防水風防で仕組みのあやしいところに加えて、さらに出どころのアヤシイ風防に変えられているので、まず間違いなく防水性能は期待できません。非防水扱いとなります。


こちらは4420のパイプ部分拡大。リュウズのガスケットのあたる部分が擦り切れてワダチになってしまっています。風防が取り付けられる部分のケース表面はずいぶん虫食いのようにサビとサビ痕がみられます。相当年月に渡って使用されてきた個体だと思われます。こちらも44同様、防水性能はとっくに失われております。非防水扱いです。


ケースの虫食いサビはもう無理としても、パイプだけでも交換すれば水入りする可能性が下がると思いますので、手持ちの交換用ストックから合うものがないか探してみます。残念ながら汎用品ではサイズが合うものがなく、交換は断念。


パイプがダメなら、リュウズを分解して中のガスケットを交換することでスキマを埋められないかと、こちらも汎用ガスケットを当たってみるものの。

これまた見事に汎用品のガスケットには近いサイズすらない。

そもそも形状が汎用品とは違います。一見するとドーナツ型で同じように見えるんですが、輪切りにした断面が汎用品やスイスで採用されるその他メーカーではだいたい真円になるのに対して、このセイコー製や国産の古いやつらは楕円のような特殊な形状をしているものが多い。専用設計の特注品。はっきり言ってダメになったらおしまい。素材も何やら汎用のブチルゴムではなく、硬い特殊ゴム。わずかでもサイズが違うと取り付けできない。

ガスケットだけでも奥が深いんです。サイズが近ければ無理に入れてグリグリやればそのうちなじむだろー的な、いい加減な修理たまに見かけます。ダメです。操作感がやたら重くなったり、パイプを痛めたり、水が入って最悪巻き真が錆びて折れます。

ちょっとでも隙間があったりキツすぎたりすると、意味をなしません。

ガスケットは完全に『ピッタリ』サイズでないと機能しません。そういうものです。そして、汎用品にはありません。オールドセイコーのやつは。

やるとしたら、パイプもリュウズも両方とも汎用品に交換してしまえば、防水性能は回復できるでしょう。でも、それじゃおイヤなんでしょう?笑


ムーブメント本体も分解して洗浄します。これは44の作業中のところ。幸いなことに内部パーツは交換が必要となるほどに痛んでしまったものが見当たらないため、今回は修正および調整技を駆使する“3日仕事”のパターンで受付できました。4420のほうも出自は違うようでしたが、こちらも運良く44と同程度の状態。

両方とも3日仕事+研磨1日で、2台で1/10oz金貨8枚分。1oz金貨お預かりだと、1/10oz2枚分余ってしまうなあ?(釣り銭はないです。だいたい1/10oz金貨以外のものが初っ端に来るとは想定外)

ご依頼主さまは紳士の方でして、「これで足りない分は追加でお振込みいたします」と言い添えてくださりました。うわーん;;(涙の出るほどありがたい心遣いだ)

さて、どうすんべ。


44のバランスをみる。

妙案を思いついた。1トロイオンス金貨1枚なら、10日分の仕事量の前払いということであるから、余った1/10oz金貨2枚分は2日分のオーバーホール料金として付加すればよい。

ということで、今回対応の2台はそれぞれ次回1回分のオーバーホール無料という形でサービスさせていただくことに。ヨシ、これならピッタリ1トロイオンス消費だ。

ご依頼主さまご了承でサービスご進行と相成りました。

金貨での決済では今後もお釣り銭は用意せず、この方式(考え方)準用でまいりたいと思います。あくまで当工房1日分のサービスでお応えする形となりますので、どうしても余剰分など端数はザルな感じとなりますが。ここはひとつ、江戸っ子にでもなった気持ちで次のセリフでも吐いてやってくだされ。

『釣りはいらねェ!美味いもんでも食っておくんなぁ』

ありがとうごぜえやす。


44バランスを横から。

あ〜あ〜。これはダメですね。こんなに明らかに曲がりまくっているような個体もめずらしいですが、オールドセイコーなんかでは割とあるパターンです。とにかく過去にダメな職人がぶっ壊してしまったようなやつ。

これもあって、44も4420も旨味がないので断られたんでしょうかね。

それでウチに来たと。1トロイオンス様ご一行様。(そこかよ笑)

いや〜、二つ返事でお引き受けいたしやすよぅ。ウチの3日仕事にかかればこんなものはお安い御用ですさ。(1日仕事のホウじゃやる気でませんので、そこお間違いなく)

お釣りが出ない理由ですが、金を逃したくない(がめつい)以上に、もっともらしい理由として、万が一99.99%の純金でないものが混じって、それを見抜けずにうっかり本物の金だと思ってお客様に渡してしまうようなことがあると、私が詐欺罪で告訴されかねないのがひとつ。では現金化してお返しできないかというと、この場合は釣り銭詐欺をねらって、わざとニセモノで決済しようとする輩に狙われかねない、というのがひとつ。

以上の理由により、あくまで金の決済は受領専用であり、お釣り銭としては一切こちらからお戻しいたしませんので、そのおつもりでご利用ください。


修正すべく、44のバランスを取り外したところ。ひげぜんまいの中程にゴミつぶのようなものがくっついていますが、ジツはこれはわざと取り付けしてあるおもりです。セイコーの中でも採用されているのは44系だけだったと思います。

時計学校にいたときに、当時のセイコーの設計部門の技術者だった方が指導教官として何名か来ておられました。理論の授業で依田先生から教わったのですが、これはひげぜんまいの重心移動をチャラにするためのおもりだそうです。

理論的には当時スイスよりも進んでいた部分があり、これなどもそのひとつ。確かにこれでひげぜんまいの重心移動による歩度の乱れ自体は飛躍的に改善されるのですが、しかし、実際にはそれ以外の要因があれやこれやとあり、トータルでは思ったほどの効果が得られませんでした。(それもあってか以後は不採用となる)

あの理論の先生は情熱的だったなあ。時計学校は我が国では職業訓練校および各種専修・専門学校の扱いですが、まるで大学の理工学部の学生でも相手にしているかのように、ガンガン理詰めで学生を質問責めにしてくる。最前列に座っていた私はとくに集中攻撃され鍛えられた思い出があります。笑

もう一人の理論の先生で私は直接教えていただける機会はなかったものの、小牧先生は機械式時計に関する著作もあります。これ読めば、深〜いところまで理論が分かります。ひげぜんまいの重心移動についても詳しく解説されており、一般の人が読んでも分かりやすいように配慮されています。ご興味のある方、ぜひ。


私が理論にも技術にもモノになる時計師として下地を育ててもらえたのは、まさにセイコーの技術者だった先生方によるところも大です。いまこうしてご恩を幾許かでもお返しできるようになり、感慨深いものもあります。

それはともかく。ダメ〜な職人がおひげをひっかけるか何かして、アラアラ。

見事にひげの一部の隙間がひろく空いてしまっています。よく見ないと一般の人は気づかないかも知れないですが、時計師にとっては『重大な』欠陥です。これを見逃すようなら、丁稚からやり直したほうがいいです。笑(ああ、日本中丁稚だらけ)

そして、番頭さんくらいになれますと、ピンセットでちょちょいのちょい、とアルキメデス・スパイラルに修正できるようになるのでござい。


直ったので回してみる。ぶんぶん。ぐるぐる。

理想的なアルキメデス・スパイラルになっていれば、このように残像もキレイな線が出る。アミダやおもりを見ればわかるが、残像がブレる場合は同一線上に物体がなく非連続であるからだ。連続体を撮影すると、残像が線を描く。

これ、実際に動いている様子をお見せできないのが残念。(動画では市販級のカメラだとうまく効果が出ない。高感度ナントカみたいな特殊なカメラが必要だと思う)

実際を目でみますと、ぐるぐる〜すぅ〜っと、目が吸い込まれてしまうのです。

(こうとしか表現しようがない)

少しでも中心がズレていますと、キレイに吸い込まれず目が回ります。笑


上:修正前 下:修正後

ずいぶんひんまがっておりましたが、ピシッと水平が出ました。

ここには時間を投入すればするほど良いという訳でもなく、達人級はわずかな時間で最大限の効果を発揮できます。サンシタに毛が生えた程度の職人だと、何時間やっても元にもどらないばかりか、余計にますますダメになったりしますので。

おひげのムズカシイところ。


続いて44の組み立て。輪列の歯車群のようす。

カナやホゾの鋼鉄の部分がまったくサビついておらず、形状も健在。良心的なモノづくりがされていた時代のもので、ピカピカに研磨されており、それが効果を発揮したものでしょう。

経年の劣化による摩耗などが激しいものや、サビが出てしまっているものは、いつもブログで取り上げておりますように、補修ではあまりに無理がある場合もあります。そのような内部ムーブメントの状態のものは、同じムーブメントの搭載された別の個体をもうひとつ別途に用意して、『複数台組み上げ』による修理が必要になります。

今回、ご予算的には間に合いましたが、ご依頼品の2台が2台とも複数台組み上げを要する状態だった場合、最低でもあと1台は44系ムーブメントが必要となり、44系は中古品市場でも価格が過熱気味ですので、さすがのウチでも修理受付をためらったかも知れません。

4420のほうも奇跡的に輪列の状態がよく、今回は救いでした。


輪列を組んでいくようす。


輪列受けまで組んだところ。

44系の人気のひとつかも知れませんが、香箱を受ける一受けの穴に石がはめられております。この部分は経年の劣化を起こしやすく、穴がすり減ると穴ツメでなんとか延命させられるのにも限度もあり、やがてはどうにもならなくなって退役となります。穴石を採用することで、飛躍的に長寿命化を実現できます。動作の安定にも貢献することは言うまでもありません。


アンクルを取り付けて、脱進器の確認と調整。

爪石とガンギの歯のかみ合いがよく見えて、これも時計師的にはやりやすくて好感が持てます。オールドセイコーは年代がくだるにつれ、コストの関係なのか何なのか、どんどん確認・調整のやりにくいような形状・配置になっていってしまいます。パーツの仕上げなど品質面も、どこか安っぽくケチくさいものになってゆく。

スイス流のモノづくりの良さと、理論的な野心に満ちた上昇機運の両方が、ちょうどよくバランスしたあたりが、まさに44キングセイコーの特徴と思われます。これもオールドセイコーのファンの間で人気となっている理由となるひとつであると思います。


44ベース・ムーブメントの組み上がったところ。

中央の4番車には出車がつき、この外周に規制ハンマーを落とすことでハック(秒針とまり)をする機構。シンプルな発想で、部品点数も少なくてこれも良い。

この鎌状の規制ハンマーも、折れてしまうと交換パーツがないので、秒針ハックできない状態のものをたまに見かける。写真で見ると確かに首が細長くて、いかにも折れてしまいそうに見えるが、実際はそうそう簡単に折れるようなヤワなものではない。ハンマーは鋼鉄製であり、経年のへたりでバネが弱くなってハックできなくなったとしても、注意して作業すればつる首を少し曲げてやるだけで十分修正できる。

これを折ってしまうような丁稚以下の職人は、ドライバー研ぎから出直せ。

(ましてひげぜんまいいじりなど夢のまた夢である)


44半巻きでの測定。

分解前と比べて、まず平姿勢の表裏で生じていた差がほぼ解消されました。

縦姿勢では12時下でやや遅れ気味ながら、姿勢差は20秒以内にまで縮まっております。もう少し微調整で追い込めば完成できそうな目処が立ち、ホッと一安心です。


44が順調なため、4420のほうも組み立てしていきます。


44と4420の違いなんですが、香箱の穴にもルビー石が使われているかどうか、になります。44は “25 jewels” で、4420は “27 jewels”となっており、その2個の差がここ。

ロービートである毎時18,000振動(5振動)の44系でこの仕様は、正直かなりオーバースペックと申しますか、後の8振動や10振動を採用した機械でこそ全てこの仕様の香箱にして欲しかったです。(なぜか逆で、強いゼンマイが入っている後年代の香箱ほど粗末で貧弱なつくりになってゆく)

いずれにせよ、44系は至れり尽くせりな作りです。


ネジ折れの取り除き。

ひらけゴマ〜!ならぬ「いでよネジ〜!」

おまじないを唱えます。


ニョコニョコ、、、、スルン!

あ〜ら不思議!

おネジが飛び出してまいりましたよぅ〜♪


手持ちのネジ山のなかから、よさげな代用品を選んでいるところ。

うってつけのものがありました。

ヒミツの呪文はナイショなのです♪

きっと今回のご依頼主さまは、よほどに普段の行いがよい方に違いない。


巻き真とギチ車&ツヅミ車をとりつける。

ギチ車は、丸穴車を回します。取り付け前(左)の地板と接する部分にご注目ください。

表面のメッキも完全に剥がれて、ずいぶん摩滅しております。相当な年月に渡って手巻きして使われてきたのだと思います。香箱にはルビー石があってまだまだ使えそうな感じですが、こういう周辺のほうから先にまいってしまうわけです。

首の皮一枚でまだなんとかギチ車を回せますが、地板側の摩滅が進めばやがてこの部分が崩壊してギチ車の回転を受けきれなくなり、いよいよ寿命となります。そうなったら、あとは板でも付けて改造しない限り使い続けることはできません。

製造から50年以上たって、まあ、まだ30年やそこらは使えるでしょう。丈夫なつくりです。


4420のほうもムーブメント組み上げ完成。こちらは44みたくヒゲが壊れていなかったので、もともと性能自体は悪くなかった。ネジ抜きの首尾良さにも助けられて、比較的スムーズにできました。

しかしながら、あくまでこれは結果論です。

人気の高い44系を、こういうブログ記事みてオーバーホールのご依頼をされようとする方は、とても多いです。

あらためて申し上げます。

44キングセイコーなどのオールドセイコーは、初回は【すべておまかせコース】のみで承っております。【オーバーホールコース】は、2回目以降の定期メンテナンス向けのサービスとなっておりますので、くれぐれもお間違いないようお願いいたします。


4420半巻き。

こちらは平姿勢の裏平差ももともとなかったので、縦姿勢の遅れ具合だけが問題となりますが、44と同様、こちらも12時下の姿勢だけがやや遅れが見られます。これはこのムーブメント特有の癖といいますか、個性といってしまってもよいかも知れません。

ムーブメントにはその個体の設計に起因する特性のパターンのようなものがあり、どうにもそこにこだわりすぎてしまうと、散々あれこれやって結局ダメにしてしまった、などということもあります。

全姿勢差が10秒以内に収まっていることもあり、“クロノメーター” の面目躍如といったところです。半巻きでもこの特性を保っているのはさすがです。


4420 “クロノメーター” (CHRONOMETER) の文字板。

「SEIKO」の「S」の部分が、これも過去なにか引っ掛けたのか、折れ曲がってしまっておりました。ムーブメントで楽させてもらった分、ここはサービスしてまっすぐに補修しました。下手に触るとこれこそ折れますから、本当は見てみないフリするのがいちばん賢い。サービス精神が豊富な時計師ほど、失敗して上や客から叱られるという、割に合わない仕事ですから、根性ひんまがらないほうがおかしい位かも知れません。良かれと思ってやったことが裏目にでやすい。

インデックスや針表面も軽くクリーニングしてあります。

(通常は、文字盤や針はウチでは何もせずそのまま現状維持であるのがお約束です)


44の文字盤・剣つけ。

針回しの位置によっては、若干水平が上下に触れる。どの位置でも針同士が接触しないよう、よくあちこち回してみて確認。


つづいて4420の文字盤・剣つけ。

文字盤と針のデザインが微妙に違うが、操作感や水平のブレ具合などはムーブメントが同じベースであることもあって、非常に癖が似通っている。

こちらもよく確認しながら取り付けを行いました。


ケーシング。

メダリオン?というのでしたっけ。裏蓋の金色のやつですが。

これ、セイコーファンの皆さまには申し上げにくいのですが、、、。

お世辞にもメダルじゃなくて、コレ真鍮のレリーフにメッキしただけですよ?(知ってるよ!うるさいなお前は、と聞こえてきそうですが汗)

子供銀行のおもちゃのお金と同じようなものですから、、、。(接着剤で貼り付けてあるだけですし)

研磨のために剥がすと、ポキって折れかねないほどこのメダル部分は強度がないので、今回は裏蓋は研磨しておりません。やるとしたら、何かのはずみでメダルがポロリと取れてしまったような時しかチャンスがないです。ご了承くださいませ。

(ホンモノの金貨買ってくださいね?笑)


最終特性 全巻き 44-9990

左上)文字盤上 振り角 320° 歩度 +008 sec/day

右上)文字盤下 振り角 323° 歩度 +008 sec/day

左下1) 3時下 振り角 262° 歩度 +009 sec/day

左下2)12時下 振り角 257° 歩度 +003 sec/day

右下3) 3時上 振り角 245° 歩度 +011 sec/day

右下4)12時上 振り角 249° 歩度 +017 sec/day

分解前の50秒以上あった姿勢差が、最大姿勢差14秒にまで押さえ込めました。振り角も半巻きで300度、全巻きでは320度超をマークしまして、分解前のMAX280度から改善しました。とくに歩度は別物と言えるほど回復しました。ひげぜんまいの修正が効いております。クロノメーター入りには特性データ上は一歩およびませんでしたが、テストランニングの実測値ではまだ1日目ですが、日差+8秒程度と良い結果です。(むしろ4420のほうが+10秒と控え目な実測値で、ここが必ずしも測定機の弾いたデータの優劣と一致するとは限らないのが面白くも難しいところです)


最終特性 全巻き 4420-9990

左上)文字盤上 振り角 321° 歩度 +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 324° 歩度 +010 sec/day

左下1) 3時下 振り角 286° 歩度 +009 sec/day

左下2)12時下 振り角 287° 歩度 +003 sec/day

右下3) 3時上 振り角 284° 歩度 +012 sec/day

右下4)12時上 振り角 280° 歩度 +016 sec/day

44と比較しますと、歩度全体の傾向はよく似ておりますが、振り角が総じて高く、縦4姿勢全てで280度以上と非常に元気のよい特性が得られました。やはり香箱のルビー石2個の差が効いているのでしょうか。ヒゲにダメージがなかったことも大幅に振り角がのびる理由かも知れません。(いずれもこの後テストランニングを2週間程度行いまして、日差10秒程度の実測値をキープできれば目標合格となりご返却となります)


研磨前(左)研磨後(右)


研磨前(上)研磨後(下)


研磨前(上)研磨後(下)


研磨前(上)研磨後(下)


今回のサービス:【すべておまかせコース】

参考料金:1トロイオンス金貨(1枚)


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