A.Lange & Söhne – lange1

A. Lange & Söhne|Lange 1

ランゲ&ゾーネのランゲワンのオーバーホールご依頼です。機械式時計の世界における最高峰との呼び声の高いブランドで、とても高価なお品でもあり滅多にお目にかかる機会がありません。いつにもまして背筋の伸びる思いでご対応させていただきました。


ランゲ&ゾーネ・ランゲワン

まずは分解前の歩度測定から。振りは十分に出ているものの、平姿勢では進み、縦姿勢では遅れとなっています。


ムーブメントを分解していきます。ハイエンド時計の他のブランドの例にもれず、パーツは細かく小さなつくりです。


ベンジンカップの中でパーツのひとつひとつを丁寧に洗浄していきます。少しでも乱雑に扱うと簡単に変形したり破損したりするほど華奢です。かなりの神経を使います。


パーツの洗浄が完了して、パーツケースに収めたところ。


受けには手彫りの模様が施され、本青焼きのネジと完璧に磨き上げられた緩急針とのコントラストが鮮やかで、輝きを放っています。芸術品といってよい出来栄えと思います。バランスをハックするためのアームのしなやかな造形美に尋常でない愛情が現れています。ちょっとしたところにまで行き届いた心配りが見受けられます。


受けからバランスを取り外したところです。2本あるヒゲ棒のうち、左がくの字に曲がってしまっています。この間にひげぜんまいがセットされ、棒の合間を行き来しますので、ヒゲ棒はまっすぐに平行でなくてはなりません。修正して理想的な状態に調整いたしました。(右)


つづいて地板に輪列パーツ群を組み上げていきます。各パーツとも細部まで入念な仕上げが施されています。


右端の2番車から中よりの3番車へきて、ここから下の4番車と左下の秒針用の中間輪列群へと系統を分けています。3番車を中心に見たときに、エネルギーの負荷のかかるポイントがうまく分散されるような配置になっており、周到な設計がなされています。


こちらは文字盤側の巻き上げ機構を組んだようす。


受けはもちろん、オシドリ、カンヌキ、押さえのバネに至るまで全て丁寧な表面仕上げがなされており、どこを切り取って見てもいっさいの妥協がなく、手抜かりを感じさせません。


再び輪列にもどって、ガンギ車とアンクルまでのせたところ。受けの上面全体にかかるコート・ド・ジュネーブ(さざなみ模様)も、たいへん肌理の細かく上品な仕上がりです。


アンクルの受けを組んで、ツメ石のかみ合い量をチェックします。受けの縁や穴石の周りまでなめらかに面取りがされた上、ピカピカに磨き上げられています。ツメ石の上面にまでアールをつける徹底ぶり。まさしく極上品といえます。


バランスまで組んでベースムーブメントの完成です。もうため息しか出ません。


続いてパワーリザーブ機構の組み付けへと進みます。特徴的なカマ形の歯車にパワーリザーブ針がつきます。ゼンマイを巻き上げると、この車がキリキリと回転していきます。


さらにビッグカレンダーのモジュールを追加していきます。文字盤と針を組み付けて、ムーブメントが組み上がりました。文字盤はとても独特なデザインです。


ケーシングをして裏蓋を取り付け、ネジを締めればようやくオーバーホール完了となります。シースルーバックということもあり、うっかりキズなどつけぬよう最後の最後まで気が抜けない作業の連続です。張り詰めたような神経の糸が途切れて、ここでようやくホッと一息できる瞬間です。


最終特性 半巻き(T 24)


最終特性 全巻き(T0)

左上)文字盤上 振り角 306° 歩度 +011 sec/day

右上)文字盤下 振り角 304° 歩度 +010 sec/day

左下1) 3時下 振り角 268° 歩度 +005 sec/day

左下2)12時下 振り角 270° 歩度 +006 sec/day

右下3) 3時上 振り角 270° 歩度 +009 sec/day

右下4)12時上 振り角 267° 歩度 +011 sec/day

全巻きではプラスマイナス3秒以内、半巻き・全巻きの全体を通しても、最大姿勢差7秒と優秀な性能です。振りも300°まで出て元気よく、申し分ありません。


完成

実施コース:【 オーバーホールコース 】


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