SEIKO – Lord Marvel 5740-1990

Seiko | Lord Marvel 5740-1990

セイコーのロードマーベルのオーバーホールご依頼です。子供の頃、お父様がお使いになられていた同じモデルを、どうしても忘れられずに大人買いしたものとのこと。なお、現在では国産の古い時計を当工房にて修理する場合、初回は【すべておまかせコース】でのみ対応します。

※『すべておまかせコース』は2023年6月をもちまして終了しました。現在はご提供しておりません。こちらは過去の参考事例となります。


セイコー・ロードマーベル 5740-1990

分解前の測定から。平2姿勢だけですでに振り角も歩度もバラバラです。波形もかまぼこ形のように眠たく波打っており、まったく安定しておりません。こういうものは中身は推して知るべしです。


内部ムーブメントを分解していきます。案の定、香箱受けをはずしたところ、油がダダ漏れ状態でべっとりと受けにまで流れ出しています。まったくでたらめな注油のしかたで、整備になっておりません。こういうものは中古品では残念ながら少なくないです。


こちらはバランスのひげぜんまいのようす。修正前(上)は傘型に曲がってしまっております。修正を行い、水平に直しました。(下)


香箱のゼンマイを洗浄して、新しく注油しなおします。これが正しい量です。ゼンマイの表面全体に薄く塗布できれば良く、これで巻き上げて動作させるとじゅうぶんに全体に行き渡ります。どう考えても冒頭のようなはみ出すほどの量の注油はおかしいです。


すべてのパーツの分解と洗浄が済んだところ。


輪列を組んでいくようす。だいぶあちこち修正が必要でした。歯車のアガキ量の再調整や振れ取りなどを行いました。国産の古い時計は良くも悪くも調整しがいがあります。そのまま組んだだけでは性能が思うように回復しないものが多く、骨が折れます。


過去あまり整備されてこなかった個体のようで、整備傷のようなものは少ないほうです。しかし、そういうものは無理に長年にわたって使い倒されたものも多く、見た目の綺麗さとは裏腹に、歯車のホゾなどは寿命に近く痛んでいたりします。オークションなどで内部の写真をみて綺麗だからという理由だけで飛びつくと、後悔するかもしれません。


ベースムーブメントの測定。平2姿勢は振り角と歩度ともにほぼ同じ水準に合わせ込むことに成功しました。ひげぜんまいの修正が効いています。縦4姿勢で眠たい波形は残念ながら完全には直っていませんが、かなり直線性がよくなってきました。


文字盤と針の取り付けに進みます。


真横からみたところ。先端がわずかに盛り上がるのはオリジナルの調整のままのようです。同型の他の個体も似たような感じです。インデックスにぶつからないようにするためと思われます。この時代のものは時計師によって後からずいぶんと変形された針も多く、とにかく針として機能すれば御の字です。袴が開ききってユルユルで取り付け不能な状態のものまでしばしば見かけます。袴が浅く、あまり何度も取り外したり付け直したりに向いた形状をしておりません。黎明期の古い設計です。


外装ケースの研磨もご希望されたため、軽く磨きました。18金製の高級バージョンのケースです。


風防はご依頼主がご自身で調達されたものが同梱されておりましたが、サイズが合わないために当工房にて汎用品に交換いたしました。外装パーツはモデル毎に非常に細かくいくつものバージョンがあり、同じセイコーだからどれにでも合うわけではありません。ロードマーベルだけでも何種類もあって、パーツ番号が一文字違うだけで全然モノが違って取り付けできません。門外漢の手にはとても負えませんので、オークションの「セイコー◯◯用」などのいい加減な売り文句に惑わされないでください。


ケーシングしたところ。セイコー製らしきリュウズも同梱されてましたが、それもサイズが合わず使えませんでした。巻き真のネジ径も統一されていなければ、リュウズの差さるパイプに至っては長さや幅などがモデル毎に全部違うのではないか?と思われるほど違います。Sマークだからといって、どのモデルでも使えるわけではありません。あんまりかわいそうなので少しだけ今回はオマケしました。(たまたま手持ちのノーブランド中古リュウズで使えそうなヤツがあったので軽く磨いてつけました)これをお読みになった次の方からのご依頼は心を鬼にしまして「ダメでした」の一言で終わりとさせていただきます。ご自分でパーツ調達されることは全くおすすめいたしませんので、あしからず。


最終特性

左上)文字盤上 振り角 264° 歩度 +010 sec/day

右上)文字盤下 振り角 261° 歩度 +016 sec/day

左下1) 3時下 振り角 221° 歩度 +034 sec/day

左下2)12時下 振り角 231° 歩度 +019 sec/day

右下3) 3時上 振り角 224° 歩度 +021 sec/day

右下4)12時上 振り角 227° 歩度 +035 sec/day

修理前の特性よりは良くなりましたが、当工房の別の事例と見比べてみれば、お世辞にも『よい性能』とは申せません。6姿勢や機械式時計の性能のこともすべて承知のうえで、「それでもオールドセイコーが好き」という方以外にはまったくおすすめできないです。


完成

今回の該当コース:【 すべておまかせコース 】

参考料金:60,000円〜