Hamilton – 992

Hamilton | cal.992

ハミルトンの992の修理ご依頼です。鉄道時計として有名な992Bの前身となったモデルで、1920年頃に製造されたものです。アメリカの古い懐中時計は大量に生産され、交換用のパーツも今だに入手可能なものが多く、今回も天真の交換を行いました。


ハミルトン 992

分解前の歩度測定です。-120秒以上のおおきな遅れをみせており、姿勢差も100秒以上と極端に開きがあります。こういうものは内部パーツに問題があると見てよいです。オーバーホールのみでは直りません。


バランスを取り外して天真の長さを計測したとろ、5.238mmでした。


つづいて交換用の天真を計ったところ、こちらは5.328mmと、実に0.9mmもの違いがあります。1/100mm ほど磨り減っただけでも最高性能から落ちてしまうものが、90/100mm も摩耗していたらとても正常には動作しません。


バランスからひげぜんまいを取り外して天真を抜いていきます。


交換用の天真が992B/E用のものしか入手できなかったため、992とは部分的に形状が違います。ホゾの部分や全長などは同じであるため、バランスの一部を少し加工して取り付けできるようにしました。オリジナル992の天真と再度交換する場合でも、加工した部分もろとも古い天真を取り外せば元のパーツもちゃんと取り付けできるようにしてあります。


あたらしい天真を取り付けているところ。私のいつも使っているステーキング・ツール(ぽんす台)は、この懐中時計と同じ時代につくられたアメリカ製のものです。この作業にうってつけと思われるピッタリのコマとタガネがついています。当時もこんな風に交換したのだろうなあと、妙にしみじみとした気分で作業しました。


取り付けた天真を拡大したようす。このあとさらにトゥルーイング・キャリパスなどで振れ取りをしたり、バランスの片重り取りをしたりと細かくクリティカルな作業が続きますが、ここでのご紹介は煩雑になるため省略します。


すべてのパーツの分解と洗浄が完了したところ。いつもの腕時計のパーツと比べて、どれもサイズが大きく、作業はやりやすく感じます。


外装ケースはいわゆるゴールド・フィルド(金張りやめっきと同じく表面だけの金)であるため、研磨には適しません。洗浄のみで、必要に応じて蝶番などのメンテナンスに留めます。幸い問題なく90°に開くため、合格です。


ムーブメントを組み立てていきます。地板も巨大なので、懐中時計用の大きい機械台を使います。


ベースムーブメントが完成したところ。新しくした天真のバランスが元気よく振っています。


ベースムーブメントの測定。見違えるような性能に復活しました。


文字盤と針の取り付けに進みます。大きなクラックなどもなく。年式にしては状態の良いほうでしょう。針の一部にサビがみられますが、青焼きが剥がれてしまうため、針はこのままとします。古い懐中時計のほとんどは非防水構造ですので、これはやむを得ないところです。


ケーシングをして完成です。懐中時計の裏蓋は開けて中身がみられるのが当たり前だったため、かなり意識して美しい模様がムーブメント全体に施されています。


最終特性

左上)文字盤上 振り角 255° 歩度 +023 sec/day

右上)文字盤下 振り角 255° 歩度 +023 sec/day

左下1) 3時下 振り角 197° 歩度 +016 sec/day

左下2)12時下 振り角 194° 歩度 +002 sec/day

右下3) 3時上 振り角 198° 歩度 +009 sec/day

右下4)12時上 振り角 192° 歩度 +025 sec/day

全姿勢が30秒以内に入っており、年式を考えれば十分合格と思います。