OMEGA – Speedmaster Professional ref.145.0022

OMEGA | Speedmaster Professional ref.145.0022

オメガのスピードマスターの風防が取れてしまったとのことで、修理のご依頼です。そうそう取れるようなものではないのですが。いったい何をしてしまったのでしょう。


オメガ・スピードマスター プロフェッショナル

分解前の歩度測定。全巻きで250°と少し元気がありません。波形もややたどたどしい動き。


お車の洗車中に水がかかって、それから風防が曇ったままになり、乾かそうと思ってドライヤーの熱風を当てたら「ポンッ」と飛び出したそうです。あ〜あ。やってしまいましたね。一番やってはいけないパターンです。外れた拍子に防水リングも紛失とのことで、風防まるごと新品に交換です。


外装パーツなどを分解して状態を調べます。到着した時点で内部に水入りした痕跡はなく、急激な温度差による結露が原因と思われます。こういう場合は、あせらずそのまま数時間身につけたまま様子をみます。それでも曇りが取れないときは、時計修理店に持ち込むのが一番です。

どのような場合でも時計を加熱するのだけは厳禁ですから、絶対におやめください。


風防のほか、痛んだ針一式とガスケットがヘドロ状になったリュウズも交換することになりました。パーツ代だけで10万円近くしてしまいます。うっかり加熱は非常に高くつきます。


内部ムーブメントもすべて分解してパーツの状態を調べます。こちらは交換が必要なものは見つかりませんでした。主に外装部分が熱を吸収したことで、ムーブメントは無事だったと思います。NASAの耐熱試験は一定の温度に保ったところに静置した場合の話です。しかも摂氏80°までだったと思います。ドライヤーで局部を高温にさらすことは想定されていないと思いますので、ご注意ください。


洗浄したパーツをケースに入れたところ。


ムーブメントを組んでいきます。cal.861 はアポロ計画によってベストセラーになり、製造年代によりいくつものディビジョンを持ちます。今回のref.145.0022は86年に復刻されたものです。パーツの寸法などはオリジナルと完全互換の関係にあります。仕上げなどはむしろ良くなったくらいです。


ベースムーブメントまで組めたところ。ここでいったん測定チェックします。


振りは300°近く出ており、波形も直線性がよくなりました。やはり熱の暑さで頭がフラフラになっていたのでしょう。


クロノグラフ機構の組み込みに進みます。


つづいて文字盤と針を取り付けます。新しいパッケージにはこんな風に針が入っています。


新しい針を取り付けるためには、取り付け穴を調整する必要があります。パッケージから出して、そのまま取り付けられるわけではありません。無理に押し込むとだいたいホゾが折れるか曲がるかします。それを逃れても、今度は次に取り外す時に固すぎて針が抜けず、針のほうが壊れます。剣付けには微妙なノウハウが絡んできます。


新しい針の動作チェックをする様子。文字盤のインデックスが経年劣化しており、ちょっとちぐはぐな印象ですが、仕方ありません。


文字盤は表面に加熱したことによると思われる水玉のようなポツポツ痕がみられましたが、軽く表面をブラッシングすることで目立たなくなりました。文字盤の夜光の交換などは当工房では行っておりませんので、これ以上はどうにもなりません。


新しい風防をパッケージから取り出したようす。外れてしまった古い風防(右)と見比べると、内側に防水のためのリングがついていることが分かると思います。リングだけ入手できませんので、まるごと交換となります。


プッシャーマシンにより風防を取り付けます。防水風防は手でおした程度ではビクともしません。取り外す場合はグラス・リムーバーなどが必要になります。ドライヤーの加熱により外れたということは、防水は効いていたということです。内部の圧力が高まって飛び出したのでしょう。まったくこれは通常の想定外のご使用方法ですから、当然ながら動作保証の対象にもなりません。


ケーシングまで戻ってきました。トホホな事例でした。


最終特性 全巻き クロノグラフON

左上)文字盤上 振り角 270° 歩度 +003 sec/day

右上)文字盤下 振り角 274° 歩度 +004 sec/day

左下1) 3時下 振り角 250° 歩度 +000 sec/day

左下2)12時下 振り角 256° 歩度 +004 sec/day

右下3) 3時上 振り角 247° 歩度 +008 sec/day

右下4)12時上 振り角 230° 歩度 +010 sec/day

クロノグラフ機能の動作により、ベースムーブメントだけの場合と比べて少し振り角は落ちます。270°と十分に振っており、歩度も各姿勢で揃っています。


最終特性 半巻き クロノグラフON

左上)文字盤上 振り角 256° 歩度 +004 sec/day

右上)文字盤下 振り角 234° 歩度 +009 sec/day

左下1) 3時下 振り角 222° 歩度 -005 sec/day

左下2)12時下 振り角 220° 歩度 +010 sec/day

右下3) 3時上 振り角 228° 歩度 +015 sec/day

右下4)12時上 振り角 216° 歩度 +008 sec/day

手巻きムーブメントのため、半巻きの特性も重要です。全巻きの場合と比べて、さらに振り角は落ち、歩度も姿勢差が出てきますが、これも正常と思われる範囲内で合格です。