SEIKO – Lord Marvel 5740-8000

SEIKO | Lord Marvel 5740-8000

『大好きなおじいちゃんのもの、お父さんが大切につかっていたと思うと、この先も使っていきたいと思い、修理できるとこを探していたら、このサイトにたどり着きました。』とのこと。実にありがたいお申し込みです。


セイコー・ロードマーベル 5740-8000

お見積もりの時計と共に、便箋にたいへんご丁寧な思いがしたためられており、これはなにがなんでもお引き受けしなければと決意いたしました。過去にお父様が修理に出されたことがあるとのことで、ご覧の通りの良好な特性が見られます。代々に渡って大切にされてきた時計であることは、ハッキリと性能にも表れるのです。


内部ムーブメントの分解とパーツの洗浄が完了したところ。整備傷などもほとんどなく、過去の手入れを担当した時計師は、きちんとした腕前の人物だと思います。不思議なもので、「このお客様のお人柄ならきっと時計も良い状態に違いない」という勘のようなものが働くことがあります。果たして今回はその通りのお品がめぐってきました。


バランスを地板に組んで、ひげぜんまいの具合を調整します。これだけ水平も中心も整ったものは、この年代のものではもうほとんど見かけません。だいたい下手な時計師の雑な扱いでダメになってしまったものがほとんどです。あちこち歪んだひげぜんまいは、私の渾身の集中力をもってしても、完全に製造時のときのような状態には戻せません。


香箱のゼンマイも洗浄して再注油します。こちらも見るからに状態がよく、作業も気持ちよく進んでいきます。


2番車を拡大したようす。カナやホゾには一点のサビもなく、ピカピカの状態を保っています。経年のご使用による摩耗なども見られず、まるで新品のままのようなシェイプです。これが今やいかに貴重であるか、すでにこのブログで類似の時計がどういう修理が必要になるかよくご存知の読者の皆様には、よくお分かりになることと思われます。オークションや中古時計店などで手に入れた得体の知れないモノには、まず99%ありえないです。断言します。


ベースムーブメントを組み立てしていきます。香箱から、2番〜4番車、ガンギ車まで乗せたところ。


輪列受けや角穴車、丸穴車などを取り付けし、アンクルまで組み立て調整の済んだ状態です。ほとんど修正らしい修正も必要がなく、60〜70年代のオールドセイコーでも、モノさえ良ければオーバーホールのみで十分に今でも通用するだろうことを実感させます。ですが、そのような良品との出会いは今となっては期待できません。何が悪かったかというと、ほとんどは持ち主の怠慢による長年のノーメンテによる酷使に加え、マトモな腕と心を持っていない看板だけの店の不適切な手入れによる時計のさらなる虐待によって、内部の機械まですっかりボロボロにされてしまったものが大半である、というのが実態なのです。


ベースムーブメントの完成。モノを大切に受け継ぐ精神と共に、ふさわしいサービスをお選びいただく眼力で、今回のような理想のオーバーホールが定期的に淡々となされてゆくのです。この限りにおいて、国産の古い時計もお引き受けをいたします。(いっときのご興味でオークションやら中古屋から入手されたモノを「大切に受け継いできた形見です」など称しても、中を見れば嘘はすぐバレますから、そういう安易なお申し込みはおやめください。容赦なく【すべておまかせコース】直行とさせていただきます)


ベースムーブメントの測定。なんなく、理想的な性能が出ております。


文字盤と針の取り付けへと進みます。経年による劣化は最小限に抑えられ、極めて状態がよくキープされております。国産の古い時計はやる気でないことも多い作業ですが、今回はめずらしく緊張しました。それほどキレイで、時計師のやる気モードをかきたてる状態だったということです。


真横からみて針の取り付けをチェックします。等間隔にまっすぐに取り付けできております。針は過去に何度も付けたり外したりされると、ぐにゃぐにゃに変形している上、袴もユルユルでしっかり挿さらないことも多いです。そういう駄品の依頼に限ってあとからアレが悪いコレが悪い文句ばかり筋がよくない客で、ますますやる気がでなくなります。気分で仕事の質に差があってはプロとしていかん!と戒めつつも、ほんとに不思議です。それがスックと立つのは、まだまだこの先もお使いになれることが期待できます。


外装は金張りと呼ばれるタイプで、あいにく研磨には適しておりませんでしたが、部分的に地金の緑青などを落として軽いツヤ出し研磨のみ実施し、洗浄してあります。


ケーシングまで来ました。今回のようなご依頼品ならば喜んで今後もオーバーホール・メンテナンスをお引き受けさせていただきます。私は古い国産品が嫌いなわけではありません。古い国産品をとりまく状況と、単なる時計への興味本位で、実態の無理解と修理の仕事に対する敬意の欠落こそが疎ましく、そういう方からの安易なご依頼に対しては、著しく嗅覚が発達している、というだけです。苦笑


最終特性(全巻き)

左上)文字盤上 振り角 248° 歩度 +012 sec/day

右上)文字盤下 振り角 246° 歩度 +011 sec/day

左下1) 3時下 振り角 227° 歩度 +011 sec/day

左下2)12時下 振り角 229° 歩度 +011 sec/day

右下3) 3時上 振り角 239° 歩度 +005 sec/day

右下4)12時上 振り角 222° 歩度 +011 sec/day


N時間経過後(半巻き〜解けるまで)

ゼンマイが解けていくに従い、バランスの振りも低く200°を割り込みます。振り角の高低にともない、歩度も変化をします。平姿勢では日差0秒付近を保っていますが、縦姿勢では−10秒程度まで遅れていることが分かります。そのため、ゼンマイをいっぱいに巻いた状態ではやや進み気味に歩度を調整しておき、実際にお使いになったときは進みと遅れが相殺されて、トータルで日差ゼロからわずかに進みとなるようにできればベストと言えます。これとは別に温度差など季節要因や、機械の油の馴染み(乾き)、装着した場合の外的要因までをも全て総合的に考慮します。機械によってもクセが違います。ただ、この場で測定器の数値のみを頼りに緩急針をピッタリ合わせればよいというような単純なものではありません。


完成。新しい赤いベルトは、ご依頼主が同梱されたものです。当工房ではベルトの販売は行っておりません。オーバーホールご利用の方には付加サービスでベルト交換もいたします。