Girard-Perregaux Chronograph

Girard-Perregaux | Chronograph ref.2599

ジラール・ペルゴのクロノグラフのオーバーホールご依頼です。1年前に中古でご購入されたもので、年に数回しか使っていないにもかかわらず、日差は平置きで+30秒という状態とのこと。それほど古いモデルでもないのに、ちょっとこれは以前の整備歴などに問題がありそうです。


ジラール・ペルゴ クロノグラフ

文字盤の表面はアールがつけられており、針を抜く作業がひと工夫いりました。とりわけクロノグラフ秒針を抜くときが難しく、神経を集中します。


分解前の歩度測定。やはりというべきか、平姿勢ではお申し出の通り文字盤上で+30秒の進みですが、縦姿勢では3時下で−40秒を超える大幅な遅れです。波形も波打って乱れ気味でよくありません。ちなみに、ケースに入った状態では測定不可だったため、今回は少し手順を変えて先に文字盤や針を外しています。


ムーブメントを分解していきます。ベースとクロノグラフ・モジュールに分かれるタイプの構造です。一部のネジ頭などに舐め痕などが見られましたが、幸い交換が必要となるパーツはなく、オーバーホールのみにて進行をお引き受けしました。


パーツの洗浄が済み、並べたところ。まずベースムーブメントのcal.3080から組んでいきます。


香箱とゼンマイも洗浄して注油しなおします。分解時はすっかり油が乾ききって、カスがこびりついていました。1年くらいのしかも数回のご使用ではもちろんそこまでにはなりません。ということは、とんでもない状態の中古品を買わされてしまったようですね。いったいおいくらだったのでしょうか。


香箱の蓋を閉じて、角穴車をとりつけたところ。このネジは中でも一番小さく取り扱いが難しいものでしたが、新品のように舐め痕ひとつなくピカピカなままでした。ほかの大きなネジがことごとく痛んでいるのに、実に不思議ですねぇ。ごく合理的に推理しますに、ろくに香箱を分解さえしない業者が以前に手入れをしたということでしょう。


地板にバランスを組んで、ひげぜんまいなどの調整を行います。伝統的なヒゲ棒タイプの緩急針は調整が難しく、技量があやふやな時計師には満足に調整できません。全然ダメな状態でしたが、しっかり修正をしておきました。


地板に輪列のパーツ群を組んでいきます。自動巻の歯車も同じ段にまとめられているため、ムーブメントの薄型化が可能となっている構造です。


巻上げ機構と、アンクル・脱進器まで組んだようす。アンクル受けのネジが大小になっており、何か意味があるのかも知れませんが私には分かりません。一般的な時計理論だけでは説明がつかないものでも、ブランド独自の思想や技術が反映されていることもあります。見た目としてはアクセントとして面白く、受けの有機的なカーブもセンスが良いものだと感じます。


ベースムーブメントの完成したところ。上面にコート・ド・ジュネーブ、周囲にペルラージュ模様がめぐらされ、美しく高級感ある仕上げが目を引きます。


ベースムーブメントの測定。分解前の時計はいったいなんだったのかという位の別物の特性です。振りは300°を超えて、歩度も平姿勢・縦姿勢で10秒以内に収まっています。正しい調整技術がないと、まともな性能が出てくれない難しいムーブメントです。


続いてクロノグラフ・モジュール部の組み立てに移ります。パーツを洗浄して並べたところ。おや、どこかで見たような機械だな?と思ったら、ゼニスのエル・プリメロでした。スイス製ブランドではよくあることで、ムーブメントの一部や全部を他のブランドに供給していたりして、相互に関係の深いブランドもいくつもあります。キャビノチェ時代から続く、スイス時計産業の特徴のひとつです。


クロノグラフ機能の一部、ピラーホイール付近の組み立てと拡大したようす。


クロノグラフ機構が組みあがっていきます。途中までエル・プリメロと同じですが、受けなどは専用にカスタマイズされた仕様です。中央付近が高く、周囲は低めにパーツが取りまとめられており、これが文字盤の反りが大きなアールを生み出すための仕掛けと分かります。


文字盤と針付けをしたところ。分積算とスモール・セコンドの針が収まる部分は段差をもうけてデザイン上のアクセントをもたらしています。


真横からみたようす。文字盤のアールに合わせて、針も曲線に曲げてあります。


ケーシングまで来ました。ローターの”Manufacture GIRARD PERREGAUX”の文字が誇らしく見えます。まさにマニュファクチュール時計とはこういうものを言うのだという、お手本のようなブランドのひとつだと思います。


最終特性 全巻き・クロノグラフON

左上)文字盤上 振り角 292° 歩度 +008 sec/day

右上)文字盤下 振り角 281° 歩度 +005 sec/day

左下1) 3時下 振り角 260° 歩度 +005 sec/day

左下2)12時下 振り角 259° 歩度 +001 sec/day

右下3) 3時上 振り角 264° 歩度 +001 sec/day

右下4)12時上 振り角 258° 歩度 +008 sec/day

今回の該当コース:【 オーバーホールコース 】