BVLGARI – Diagono

BVLGARI | Diagono

ブルガリ・ディアゴノのオーバーホールご依頼です。一日に4分も進むとのこと。みればまだ使用感もそれほどなく新しい個体のようですが、どうしたことでしょう。さっそく内部を見ていきましょう。


ブルガリ・ディアゴノ

分解前の測定から。振り角が高すぎるのが気になります。平姿勢で340°縦姿勢でも310°と、理想的な範囲を大きく超えています。歩度は全体的に0〜−10秒ほど遅れてきています。4分の進みにはなっておりません。これはどうしてなのか。のちほど詳しく解説します。


ムーブメントを分解してベンジンガップに入れて洗浄していきます。


すべてのパーツの洗浄がおわって並べたところ。まだ新しい機械で交換が必要なパーツなどは見当たりませんでした。


パーツケースを使わずに並べたものは、その日のうちに一気に組み上げてしまいます。一時的に中断して席を立つ場合は、このように伏せ瓶をサッとかぶせれば、まるごと埃などからパーツを保護できます。


地板にバランスを組んで、ひげぜんまいの調整をします。きれいに水平が出ており、中心から等間隔にスパイラルが巻かれていて問題ありません。


香箱のゼンマイも洗浄して巻き直したうえで、再注油します。


ベースムーブメントを組み立てていきます。巻き上げ機構を組んで、輪列の香箱と角穴車、2番車をのせたところ。必要箇所への注油なども、組み立てと同時に実施していきます。


ムーブメントはETA2892A2が採用されています。受け表面などさざなみ模様がつけられたハイ・グレードのバージョンです。香箱受けを組んで、3番〜4番車、ガンギ車までのせたところ。


輪列受けとアンクル・受けまで組んだところで、脱進器の調整を行います。今回はここに問題がありました。冒頭の測定で振り角が高すぎる原因は、アンクルのツメ石の調整が浅すぎるため、停止面落下という不具合を起こしておりました。


アンクルを拡大したようす。このように、ツメ石を竿から0.01〜0.03mm程度引き出してやり、ガンギ車の歯とのかみ合い量を深く調整し直します。かみ合い量が浅すぎると、歯が滑ってしまい正しい往復運動に支障がでます。最悪の場合は時計の止まりにもつながります。時計のカッチン、コッチンと規則的なリズムを刻んでいるのは、まさにこの部品です。

かみ合い量が深すぎても、今度はバランスの振りが低く落ちてしまいます。最適ポイントを見極めなければなりません。メーカーではなるべくバランスの振り角を高くするため、ツメ石の調整を浅くしようとしますが、たまに今回の例のようにやりすぎてしまう場合もあるのです。


アンクル調整後にバランスを組んで、ベースムーブメントを測定します。平姿勢で300°縦姿勢で280°程度までバランスの振り角を落とすことができました。バランスもただやみくもに高く振ればよいわけではなく、あまり振りすぎると振り当たりという不具合を起こします。振り当たると歩度は異常な進みとなり、時計としては使えなくなります。

今回の「一日4分の進み」の犯人は、バランスの振り当たりでした。製造時はギリギリ・セーフで検品をすり抜けたのかも知れませんが、何しろ0.01mmがどうこうの超・微妙な調整技術のうえで成り立つ世界ですので、ご使用により各パーツの取り付け位置のわずかなズレや歪み、摩耗などの些細な変化によって、動作条件が変わって不具合が顕在化することがあります。ほんとうに時計は精密なものなのです。


理想的な性能に戻ったことを確認できたので、さらにカレンダー機構の組み付けと、文字盤・針の取り付けへと進みます。


こちらは自動巻ブロックを組み立てる様子です。


ムーブメントのケーシングをして、あとは裏蓋を閉じればオーバーホールの完成です。


最終特性

左上)文字盤上 振り角 300° 歩度 +004 sec/day

右上)文字盤下 振り角 294° 歩度 +004 sec/day

左下1) 3時下 振り角 282° 歩度 +005 sec/day

左下2)12時下 振り角 285° 歩度 +010 sec/day

右下3) 3時上 振り角 282° 歩度 +007 sec/day

右下4)12時上 振り角 280° 歩度 +001 sec/day

振りすぎていた振り角を落として、ちょうどよい性能に落ち着きました。これもオーバーホールの作業のうちです。技術力が試されます。

今回の該当コース:【 オーバーホールコース 】