Waltham 3/0 size Pocket Watch

Waltham 3/0 size pocket watch

ウォルサムの3/0サイズの懐中時計の修理事例です。『すべておまかせコース』でアンティーク品を修理する場合の参考にしてください。


前回に引き続き、工房主の手持ちシリーズ第2弾です。

16サイズの前回はコストを度外視してなりふり構わず力づくで直してしまったようなところがあり、当工房ご利用の方にはあまり具体的ではなかったことへの反省があります。では、『すべておまかせコース』で類似の時計を受付した場合はどうなのか。金額含めておよそのご参考となればと思い、追加投稿をしました。

これも昔オークションで手に入れたまま眠っていたもの。1日20分くらい狂うような記憶があり、当時も憤慨したものでした。あらためて計測すると、平姿勢でもー658秒(=約10分)の遅れとなっています。

オーバーホールを申し込むお客様で、よく「平姿勢で日差5秒くらいです」と歩度について書き込まれる方を見かけます。

悪気は全くないとは承知しておりますが、時計師的にはその情報は役に立ちません。本ブログを熟読されているコアな方にはすでにご承知だと思いますが、ウォッチには6姿勢があり、平姿勢の1つだけならタイムグラファーみながら緩急針で誰でも簡単に日差ゼロ付近に合わせることなど訳はないからです。時計師じゃなくたってできちゃいます。そして、そういうものを『Keeping Time』(正確だ)などと称して売り抜ける場所がオークションであることも、常々口酸っぱく言い募ってきました通りです。

そういう場合は、「1日着用したところ、日差○○秒でした」と言っていただけるほうが、情報としてははるかに有用です。何姿勢で、、、とか言うなら全6姿勢でどうだったか教えてください。(それはムリだろ)

平姿勢で○○でした、、、系は、「私、時計の知識ないおバカさんです」と自分で言っているようなものです。そういう方って、その時計を平姿勢だけでしか使わないんですかね??

時計師からするとそういう意味だと受け取らざる得ない。(そんなわけないでしょ)

いや、これは悪い冗談でした。


のっけから少しディープな話ですみません。なかなかお客様の修理事例では書きにくいことを、ここぞとばかり自分の時計で書いてみようかなと。(普段あれだけ言いたい放題でそれはないだろ、というツッコミもありますか。これでもお客の事例には遠慮してるつもり笑)

これを消費者の立場で言い換えるなら、『くれぐれも1姿勢(平姿勢)だけの結果をアピールした情報にはだまされるな!』(ご用心)というところでしょうか。

「平姿勢が良ければ、その他の姿勢も良いはずだ」

という推論は、成り立つ場合と成り立たない場合があります。

「1日使って○○秒だった」

というのは、厳然とした事実を言っているので、解釈が入る余地はありません。全く性質が違うことにお気づきだと思います。

まあ、この話はもうこの辺にして。さっそく『すべておまかせコース』にうつりましょう。


おなじグレードの機械のみを取り寄せました。よく見比べますと、わずかに径が違います。このように、同グレードでもサイズが違ったりもします。使用目的によってはシビアに選ぶ必要があります。売り手はそこまで正確な情報で売っていません。質問しても「わからない」とか、ひどい場合は無視されます。運悪くそんなイヤな売り手からしか入手できなかったりします。一般の方には判断が難しいと思います。今回は一部パーツのみが狙いなのでこれでよし。価格は50ドルくらい(送料その他もろもろ含めてだいたい1万円未満)からです。これが、ちゃんとケースに入って、リュウズを巻けば動くとなると、途端に100ドル以上に価格は跳ね上がります。それでも、ただ動くだけ、という状態のものも少なくないです。今回のものも、その典型例。『Running』(可動品)として売られていました。さすがに『keeping Time』(正確)と言うからには、『今の』リストウォッチの感覚で考えてしまいがちですが、懐中時計とか100年以上前のものでは、日差3分以内なら十分に『keeping Time』で通用させてきますから。笑

これも当然モノによって値幅は違います。人気のあるサイズやブランドのものは200ドル300ドル(〜あるいはそれ以上)となりますし、金無垢ケースだとか超高級品(ヴァセロンとかパテックとかランゲとか)は、数千ドル以上となります。

それでもウォルサムあたりは入手しやすいので、リストウォッチを『すべておまかせコース』でやることを考えたら、通常オーバーホールに毛が生えた程度のご予算でも十分できます。全部あわせて10万円いかないと思います。

前回16sのような、工房主の全精力使い切って延べ3日仕事、とかさせた場合。これは考えているのですが、日当換算で1日あたり3万円いただくとして、約3日で10万円が相応になるだろうと。肌感覚としても、それ以下の金額だったら受けたくないです。そのくらいのおつもりでご相談いただきたいです。


両方同時に分解していきます。リストウォッチ同様。いつものパターンです。

激動の時代に作られたものであるため、細かい部分の仕様などが同じグレードのモデルでも微妙に違います。径の違いは収めるケースのサイズが違うことを意味しております。

内部パーツも、例えば振り座というバランスの一部を構成するパーツがあるのですが、手持品はシングルローラーという一枚板で、取り寄せ品はバージョンが進んだ時代に作られたと見えてダブルローラー(二枚板)でした。ここが違うと、アンクルの形状も違います。バランスとアンクルは相互に入れ子にできず、それぞれのモデルでしか使えないことを意味します。

自分で買って同梱すれば安いからという理由でしょうが、「パーツは自分で買いたいのですが」という方がたまにおられます。

そういう方に返すセリフはいつも決まっております。

「では、パーツを買って、そのまま機械もご自分でお直しなさってください」


今回目的のパーツのひとつ。こんなどこにでもありそうなバネではありますが、やっつけ仕事は慎みたいです。すべておまかせは無駄使いに思われる向きもあるかも知れません。1個の時計のために2個分も機械を使って片方は眠らせておくなんて。


しかし、複数の機械のパーツを見比べて発見することも多いです。このバネですが、微妙に形状が違います。オリジナルに近い状態を知る術は、直したい機械とは別の個体をみれば一目瞭然です。それを感覚でなんとなくやってしまうと、誤作動や故障の原因になることもあります。もちろん別個体が用意できなければ、おそらく〜だろう、という判断で対応せざる得ないこともあります。修復師などはそういう高度な判断ができる専門家です。しかし、見よう見まねで一介の時計師がやっても、下手をすればそれは『やっつけ』になってしまう。

オリジナルの状態を知っていて、それに近づけるよう自分で曲げれば『修理』です。知らずにたまたま上手く直せたからといって、それは確信的なものではない。それは『やっつけ』。いちいちコウルサイ野郎だ、と思われるかも知れません。

私にとって、これは授業料と同じです。それだけオリジナルの状態を把握することは、たとえそれが小さなバネ1個であっても価値があり、意味があると考えます。


香箱のゼンマイを見比べてみる。左が手持ち品。右が取り寄せのもの。

手持ちのものは、ホワイトアロイに交換してありますが、端の部分が何やらいびつであり、『やっつけ』したような感じです。しかも、ここを交換したということは、少なくとも過去数十年以内に直そうという目的で手入れされたはずなのですが、、、、現状はちっとも直っていない。苦笑

ちょっと中途半端だったのかな。

後にここは今回の重要なポイントになりました。最終的に左のホワイトアロイでは力が強すぎて、バランスが振り当たりを起こしてしまう。右のオリジナル鋼鉄製では、力が弱すぎて振りが出ない。

結局は、手持ちのゼンマイのストックから新たな別のホワイトアロイ製のゼンマイを選んで入れ替えたのですが、2台も機械を集めて、結局それでも足りなくて追加パーツが必要なことだってあります。

カット&トライでやって判明することはまだまだあります。

知識や経験が至らず、申し訳ございません。

(私でおイヤなら大金握りしめて吉祥寺でこの道の有名店で大御所のマサズ殿にでも相談に行ってください)


こちらはバランスを拡大したようす。上は修正前。

なんと、こともあろうか、天真の頭が左側に頭を垂れてコンニチワ〜状態。

耐震装置のない時代の時計では、めずらしくありません。

これでも動くだけなら動きますからね?(まあ、それで日差20分も遅れるわけだ)

下は私が渾身の集中力でもって、曲がった根性を(それはいいから)

直したもの。


ピボット・スケールという穴石をはめた行列台を使って、、。これは本来このように天真や歯車など軸の太さを計測するものですが。

(ホゾの修正用として、かのベルジョンでも製品化したバージョンのやつもある。それはアームとか付属機構が付いて、仰々しくていかにも〜なツールっぽくなっていて、値段もこれの10倍くらいする)


私の場合は、ピンセットでつかんで、このようにダイレクトに『手加減』のみでホゾをまっすぐに!

曲がったほうのホゾを穴に差し込んで、曲がりと逆方向へ『ぐにゃ〜』と倒す。

クリティカルに正反対の方向に適正な角度まで曲げ直してやれば、まっすぐ元に戻るはずという、そういう理屈。

(超危険。良い子は絶対に真似しないでください。)


「あ。」

そう思った次の瞬間、ホゾの頭がちょんぎれます。

いや〜。人によってホゾ直しはいろいろ言う。「確率30%」(で成功、という人もいれば失敗という人も)

私の感覚では五分五分ですかね。今回は2つのバランスともホゾが曲がってやがったので、思い切って両方ともチャレンジ。

結果1勝1敗。5分の星。笑


まっすぐぶりを確認すべく、トゥルーイング・キャリパスで。


ぶん回してみる。

ウンウン!回った!

ブレもなく?

ないよ?ないよね?

これならきっとだいじょうぶ〜♪


受けに組んで、おひげいじり。中心も水平もきっとバッチリさ♪


懸念事項になんとかメドが立ち、残ったパーツ群もケース共々キレイに洗浄して1日目は終了。

(結局、『すべておまかせコース』でも1日じゃ終わらねえのかよ)

『すべておまかせコース』は、ムーブメントを別途取り寄せ料金をお客様持ちにしていただく代わりに、私の作業料は目をつむって該当の時計の基本オーバーホール料金2台分という、これまで同様のリーズナブルな♪リストウォッチの事例を踏襲したものにしようと思います。

ムーブメントさえ取り寄せできない、超・超・超特殊事例(前回16sみたいなやつ)は、私の作業量本位で、日当3万円払っていただきます。

、、、そんなところかな。

どっちに該当するかは、時計と状態次第。ご相談案件です。

こんな仕事はとてもお決まりコースで特上・上・並には分けられない。

だから寿司屋にも『おまかせ』というオーダーがあるんだよ。


2日目。輪列を組んでいきます。

コロナを平民に仕掛けたエリート共に、よほど何か不都合なことが起こったようですな。

欧米ではあれほどワクチンワクチン(チンチン♪)と、義務化だ、都市閉鎖だ、なんだかんだと大騒ぎした挙句、舌の根も乾かぬうちに、今度は全てやめだ、マスクもなし、元どおりだ、ワクパスも廃止、と来た。

オミクロンもあれだけ騒いで、結局ただの風邪?

それを隠す?ためだかどうだか。今度はロシアの話ばっかりになって。

気がつけばコロナの話は明らかにマスゴミ操作して出さなくなった。

見えているか。今のこの世の狂騒ぶりを。この末期的な様を。


あのね。第3次世界大戦か、大地震か、富士山噴火か、はたまた他の何かか。

電気も止まってネットもつながらなくなったら、思い出してください。

『ここに手巻きで動く時計があるよ♪』

ということを。


アンクルまで組み付けました。ガンギ車が真鍮製!

リストウォッチの世界がどちらかというとご専門の私めには、これはこれは驚きでした。

「え?ガンギって鋼鉄って相場で決まってたんじゃないの??」

決まってなどいなかったのです。私の知らない世界。

真鍮なんか鋼鉄に比べたら豆腐みたいに柔らかい〜物質ですから。こんなものでガンギなんか作ったらすぐすり減ってしまうだろうに。

頭ではそう思うのですが、実際にはビクとも減っておりませぬ。どこも変形もなく、ちゃんとモノとして現役です。

すると途端に湧いてくる第2の疑問。

「じゃあ、なんでガンギをわざわざ鋼鉄製にしたんだ?」

う〜ん。面白く奥深い時計の歴史。笑


さて出来たぞ。測定〜♪

あれ?

どこか機械が間違った?

直ってないよ?? ウソだろう〜〜〜っ!!!

これで、2日目も終了。(時計の世界はかくも厳しく)


こうなりゃ天真を換えるしかない。他に思い当たるところは全部しらべた。あれだけ完璧と思われた、ホゾの修正作業も、全然ダメだったということです。

人間の目で見て違いがわからないほど、正確でなければならないのです。

自惚れるなよ、アトリエ・ドゥの安藤大剛。貴様の腕など所詮は人間のもの。原子ひとつぶ単位まで狂わず正確に元どおり真っ直ぐにできたら、『神の手』と認めてやろう。

しょせん、オマエは人間だ!!!

ふん。私にはパーツ交換という知恵がある。マーシャル・ストックのウォルサム用で『U grade』なる天真をみっけた。ウルトラ? U〜♪

(これが到着する2週間の間おやすみ)


キタキタ。このマーシャルのやつを使うのは今回が初めて。現行のCNC旋盤で作られたジェネリック版とは違い、当時の厳密な要求に沿っているもの。古いもの。アウトソースかどうかまでは分からないが、オリジナル製のものと比べてもまったく遜色がない。オリジナル・ファクトリーと称しても問題ないレベル。少し高いが20ドル。送料入れても36ドル。5千円で御釣りが来る。ゼンマイといい、天真といい、追加費用ばっかりかかる。手間もかかる。

さすがに当時のファクトリー製だけあって、寸分違わず全てが完璧。

こうして現物を見比べてもほとんど違いは分からない。わずかにホゾの真っ直ぐ感というのか、私が修正したほうはアヤシゲな光の反射が散っている。新品はいささかも光が散らず、完全に真っ直ぐであることが見て取れる。並べて比べて初めて差がわかる程度の違いで、単品でみたってどこがどう悪いのかなんて分かりはしない。それが人間の目と判断力の限界であろう。


ふたたび、分解とバランス組み、おひげいじり。

今回も、天真交換前と同様、できる限りの集中力で、私の目が「これでよし」と思うまで、水平も中心もすっかり整えた。

何回ダメでも、何度でもやる。何度でも最高の仕事を心がける。

時計師の仕事って、粘り強さというか、往生際の悪いヤツしか残れない。笑


再び、ベースムーブメントの組み立て。

おお。元気よく回っているな。

(もう祈るような気持ち)


最終特性

左上)文字盤上 振り角 280° 歩度 +006 sec/day

右上)文字盤下 振り角 287° 歩度 +007 sec/day

左下1) 3時下 振り角 224° 歩度 +007 sec/day

左下2)12時下 振り角 230° 歩度 -001 sec/day

右下3) 3時上 振り角 223° 歩度 +014 sec/day

右下4)12時上 振り角 228° 歩度 +008 sec/day

ソレッ。どうだぁ〜! 見たかっ!!


文字盤と剣つけに進む頃には、3日目のおやつタイムも過ぎた頃。

今日は70%カカオの板チョコかじりながら、キューバ産葉巻用の葉を贅沢にブレンドしたパイプたばこ。これを熱々のスタバ・ハウスブレンドをすすりつつ。


ケーシング。やれやれだ。

もう、ほとほと疲れて何も思い浮かばないよ。笑

前回に引き続き、いかに古い時計の修理というものは懐も含めて大変かということがお分かりいただけたのではないかと思います。

やっつけして、特性なんか無視して、とにかく動くだけでいい1日でおしまいにするまでの出来でご満足なら、当工房でも『通常オーバーホールコース』で受付できるでしょう。実際、当初はその価格で今回同様の精魂つき果たす勢いの仕事を大サービスしておりました。(ずいぶん気前のいいことだ)

そして、それを市場が求めるから、時計師側で限りない譲歩をして、結果いつまでたっても適正料金などというものは決められず、安かろう悪かろうだけが悪循環を繰り返した挙句、クォーツ修理用の国家資格で1級技能士とか名乗ってなんでも受付する実態がやっつけ三流以下のダメ職人の巣窟みたいになったのが日本で、、、、、。(もういいから)

ともかく、そんな安っちい仕事でご満足なら他店様にてお願いします。こんな100年以上前の時計弄ぶからには、完全にご趣味と判断いたします。そういうものを直して使いたいなら、それ相応のご予算と腹を括っていただきます。

お形見の時計は心意気で直します。趣味の時計は金持ちの旦那が直します。笑


3/0サイズというのは、ゼロサイズというのがあって、その下。さらに6/0というのもあるが、まとめてレディース・サイズの中核をなす大きさ。

これも、可愛らしいケースなのだが、実際のところムーブメントのサイズは30mmほどあり、これは現行リスト・ウォッチでは平均的なメンズの大きさでしかない。いかに懐中時計全体がデカイものであるか分かる。

そのため、今回もやっていていつものメンズ用腕時計をいじっている錯覚に陥ることがあった。リストウォッチではバランスの天真でこういう苦労はない。中途半端に曲がる、ということはなく、一定の衝撃までは耐震装置がぜんぶ吸ってくれる。それでも吸収できないような衝撃のときは、、、まあだいたいケースごとひん曲がってゴミ箱行きであろう。笑


完成。

「平姿勢だと1日5秒進むけど、身につけて使うとなぜか1日20分も狂うんだ」

その原因にお心当たりのある方。

ぜひ当工房へ!

今回の該当コース:【 すべておまかせコース 】